社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

文字の大きさ
13 / 105
第4話 二人の間の壁

しおりを挟む
今日は久しぶりに、芹香がお茶しない?と言って来た。

「たまに家から出ないと、息つまるんだよね。」

お嬢様の身分で、25歳で仕事をしていない芹香。

どうせ嫁に行くのだから、仕事なんかしなくてもいいと親御さんに言われているらしい。

でも、実家にいると息がつまるのは、分かる気がする。


「そうだ。どうだった?お見合い。」

「えっ……ああ、お見合いね。」

「ちょっと、まだ2週間前の話だよ?忘れたの?」

芹香は、お見合いを断って欲しいと言っていた。

それは芹香にとって、大した相手じゃなかったって事?


「うん、ちゃんと断ったよ。」

お見合いの日、二人共お互いを気に入って、その一週間後に美術館デートした事は内緒だ。

「有難う。面倒な事頼んで、ごめんね。」

「ううん。こちらこそ、いつもお世話になっているから。」

そう。私達は友人だけど、持ちつ持たれつの関係。


「ところで、どんな人だった?」

「えっ?相手の人に、興味あるの?芹香。」

意外だった。信一郎さんの写真も見てないと言っていたのに。

「後から考えたら、どんな人か分からないのに断るって、後味悪いなぁって。」

「そっか。そうだよね。」

今更芹香に、興味を持たれても困る。

私は間違った情報を、与える事にした。


「うーん……ちょっと小太りだったかな。」

「ええ?御曹司なのに?やばいじゃん、それ。」

「後は、やっぱり我儘だったかな。」

「そっか。会わなくてよかったかな。」

「うん。よかったと思うよ。」

芹香は笑っていたけれど、こんな感じかな。


「ねえ、礼奈。ちょっとはときめかなかったの?」

「えっ!」

ドキッとした。

信一郎さんにドキドキしたのは、本当の事だったから。

「どうして?」

「だって御曹司だよ?上手く行けば玉の輿じゃん。」

芹香は、期待の眼で見ていた。

「うん、少しは期待したかな。」

私は誤魔化すように、ジュースを飲んだ。

「期待外れって事か。」

「そうだね。」

素敵な人だったって、バレたくない。

「そっか。写真まだあるかな。見ておくかな。」

「えっ⁉」

芹香の発言に、不安が過る。

「まだ、信一郎さんの写真、持ってるの?」

「信一郎さんって言うんだ。名前も知らなかった。うん、あると思う。」


どうしよう。芹香が信一郎さんの写真を見て、素敵な人だって思ったら。

「……見るの?」

「だって、小太りの我儘オジサンなんて、興味あるじゃん。」

「芹香。どういう趣味してるの?」


芹香から興味を遠ざけようとして、却って興味を引くだなんて。

「そうだ。スマホに送って貰おう。」

「待って!」

私は芹香の行動を止めた。

「……もう断った人なんだから、どうでもいいじゃない。」

「それもそうか。」

芹香はスマホを、テーブルの上に置いた。

間一髪ってやつだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

声(ボイス)で、君を溺れさせてもいいですか

月下花音
恋愛
不眠症の女子大生・リナの唯一の救いは、正体不明のASMR配信者「Nocturne(ノクターン)」の甘い声。 現実の隣の席には、無口で根暗な「陰キャ男子」律がいるだけ。 ……だと思っていたのに。 ある日、律が落としたペンを拾った時、彼が漏らした「……あ」という吐息が、昨夜の配信の吐息と完全に一致して!? 「……バレてないと思った? リナ」 現実では塩対応、イヤホン越しでは砂糖対応。 二つの顔を持つ彼に、耳の奥から溺れさせられる、極上の聴覚ラブコメディ!

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

自信家CEOは花嫁を略奪する

朝陽ゆりね
恋愛
「あなたとは、一夜限りの関係です」 そのはずだったのに、 そう言ったはずなのに―― 私には婚約者がいて、あなたと交際することはできない。 それにあなたは特定の女とはつきあわないのでしょ? だったら、なぜ? お願いだからもうかまわないで―― 松坂和眞は特定の相手とは交際しないと宣言し、言い寄る女と一時を愉しむ男だ。 だが、経営者としての手腕は世間に広く知られている。 璃桜はそんな和眞に憧れて入社したが、親からもらった自由な時間は3年だった。 そしてその期間が来てしまった。 半年後、親が決めた相手と結婚する。 退職する前日、和眞を誘惑する決意をし、成功するが――

崖っぷち令嬢の生き残り術

甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」 主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。 その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。 ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。 知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。 清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!? 困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...