社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第11話 本当の名前は

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その日の朝は、やけに静かで。

信一郎さんの隣にいる事を、忘れてしまうかのようだった。


「うーん、芹香。」

裸のままの信一郎さんが、私の身体に絡まってくる。

その温もりが、私を幸せにした。

「信一郎さん、おはよう。」

「おはよう、芹香。」

まだ眠い目を擦っている信一郎さんは、とても可愛らしく見える。


「私、朝食作るね。」

起き上がると、信一郎さんに借りたTシャツのまま、私は顔を洗った。

信一郎さんの部屋で目覚めるのも、何だかくすぐったい。

小さな欠伸をしながら、キッチンに向かうと、冷蔵庫の中には卵とハムが置いてあった。

「この卵とハム、使っていいですか?」

「いいよ。」

よく見ると、ハムは超高級品だ。

「これ、誰かから貰ったの?」

「ん?自分で買った。」

流石。社長はいい物を食べている。

朝から超高級ハムだなんて、私もラッキーだ。

私はハムと卵焼きを作ると、テーブルに置いた。

「さあ、召し上がれ。」

「いただきまーす。」

信一郎さんは、パクパクと大きな口で、食べ始めた。


「芹香、料理上手いな。」

「大げさだよ。ただ焼いただけなのに。」

「でも、塩加減が抜群だよ。」

普通に褒めてくれる信一郎さんが、愛おしくなる。


「そうだ。芹香に話があるんだ。」

「なあに?」

私は自分が作った卵焼きを食べた。

うん、まあまあの味付け。

「芹香のお父さんに、挨拶したいんだよ。」

「また、その話?」

信一郎さんは、ちょっとムッとしている。

「この際だから、芹香と結婚を前提に、付き合っている事を報告したいんだよ。」

「だから、父はそんな事、気にしないタイプだって。」

「それがさ。お父さんが経済界で、言ってたらしいんだ。『娘には、俺がきちんとした婿を取らせる。』って。」

「えっ……」

芹香のお父さん、婿を取る気、満々じゃん!


大丈夫なの⁉芹香!

「だから、ここは俺がはっきり幸せにしますって、言っておいた方がいいと思って。」

「な、なるほど。」

だけど、芹香のお父さんに会わせる訳にもいかず。

私のお父さんにも、会わせる事はできない。

どうすればいいの!


「そんなに、心配しないで。」

信一郎さんが、私の手を握ってくれる。

「芹香は、俺がお父さんに気に入って貰えないって思ってるの?」

「そんな事はないけれど……」

きっと芹香のお父さんも、信一郎さんだったら気に入ってくれると思うし。

私のお父さんなんか、喜んで結婚させると思う。


「でもね。こういう事は、ちゃんと結婚が決まった時に、言うべきだと思うの。」

「……芹香はもしかして、事後報告派?」

「事後報告って……余計な心配かけたくないんだよ。」

「へえ。」

信一郎さん、じーっと私を見ている。

そんなに、交際している事を認めてもらいたい人なのかな。

「俺は……芹香を抱いている以上、いつ子供ができてもおかしくないと思っているから。」
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