社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第12話 政略結婚なんだ

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気が付くと、医務室のベッドに寝ていた。

「うーん……」

起き上がると、誰かの気配がして、横を見た。

「信一郎さん……」

そこには、項垂れていた信一郎さんがいた。


「あの、信一郎さん。」

私の方を見た信一郎さんは、私の知っている信一郎さんじゃなかった。

私を疑っている目だ。

「君の、本当の名前は?」

もう潮時だと思った。

「森井礼奈です。」

「沢井芹香じゃないのか。」


信一郎さんは、天井を見ながら呆然としていた。

「何で、こんな事した?」

「こんな事って……」

「俺を騙すような事だ!」

信一郎さんの大きな声に、身体がビクつく。

「どうして!どうして、俺を騙した⁉」

信一郎さんが怒るのも無理はない。

好きな相手が、別人だったなんて。

「俺は、君を”芹香”と呼んで抱いていた。」

私は涙を堪えながら、信一郎さんを見つめた。

「本当の名前で抱かれていないなんて、君はどんな気持ちだったんだ。」

私の目から、涙が零れた。


辛かった。

本当は私の本当の名前を、知って欲しかった。

でも、それよりも信一郎さんと一緒にいる事が、嬉しくて。

自分の気持ちが、麻痺していた。


「お願いだ。どういう事なのか、教えてくれ。」

信一郎さんは、私の涙を拭ってくれた。

「教えてくれ、礼奈。」

初めて、私の名前を呼んでくれた。

身体が震えてきた。

「礼奈。どうして芹香さんと、入れ替わった?」

震えて震えて、涙さえ震えているような気がした。

「俺が愛したのは、礼奈なんだよな。」

ダメだ。

これ以上、嘘をこの人にはつけない。

「ごめんなさい。」

声も震えていた。

「許して下さい。どうしても言えなかったの。」

「何を?」

手が涙で濡れて行く。

「私が芹香じゃないって分かったら、信一郎さんは離れて行く気がして。」


その瞬間、信一郎さんに抱きしめられた。

「どうしてそう思った?礼奈。」

「私は、芹香の友人で……あの日……」

「あの日?」

「信一郎さんとのお見合いを断って欲しいって、芹香に頼まれてお見合いの席にやってきた。」


あの時の瞬間、今でも覚えている。

信一郎さんを見た瞬間、運命の人っているんだと思った。

「そうか。芹香さんは、俺との見合いを断れと。」

「でも、私は断れなかった。」

あなたがあまりにも、魅力的で輝いていたから。

「こんな素敵な人と、今後出会う事はないだろうって、思ってしまって。」

信一郎さんは、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「素敵な人か……礼奈が惹かれたのは、俺の地位?お金?それとも顔?」

私は固まってしまった。
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