社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒

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第19話 別れてほしい

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「信一郎さんが……」

胸がじーんとしてくる。

信一郎さん、5,000万払ってくれたんだ。


「おまえは、いい奴を見つけたな。」

「うん、私もそう思う。」

問題は、芹香だよね。

未だに、信一郎さんと結婚しなきゃいけないって、思ってるのかな。

そして、タイミングよく芹香から、電話がきた。

私は、居間でその電話を受けた。

「芹香。」

『……慰謝料、払ったのね。』

「聞いたの?信一郎さんが、払ってくれたんだよ。」

『黒崎さんが?』

芹香は、電話の向こうで驚いている。

『慰謝料を払ったと言い、結婚を断ると言い、礼奈のいい方向に話は進むのね。』

その言い方に、ちょっとムッとした。

「私達、愛し合っているの。」

『散々聞いたわ。その話。黒崎さんからも。』

「えっ?」

『食事会の時……』

ー 俺は、礼奈を愛しているんです -

ー 愛している人と結婚します。だから、芹香さんとは、結婚できません -

『黒崎さんのご両親、面食らっていたわ。』

それを聞いた私は、信一郎さんを愛おしく思った。

はっきり言ってくれたんだ、信一郎さん。

なのに私、別れたいだなんて言って。

ごめんね、信一郎さん。


『それで何だけど、増々黒崎さんを気に入ったって、お父さんが言うの。』

「芹香のお父さんが?」

私は、食事会の時に見た芹香のお父さんを思い出した。

終始ニコニコしていた芹香のお父さん。

お金の事だけじゃなかったんだ。

『今時、珍しいタイプだって。私とも気が合うんじゃないかって。』

私はスマホを握りしめた。

『だから礼奈。やっぱり黒崎さんと、別れてくれる?』

「芹香……」

『私と黒崎さんの結婚は、親同士で進んでいるわ。お願いね。』

私はそこで、電話を切った。


「何だって?芹香ちゃん。」

私は奥歯を噛み締めた。

「信一郎さんと別れて欲しいって。」

「ええ?芹香ちゃんも案外、しつこいな。」

「芹香も同じ事思ってるんじゃない?」

私は足を組んで座った。

私と信一郎さんが、どんなに頑張ろうと、芹香との結婚は避けられないの?


そんな時に、信一郎さんからメールが来た。

【支払った慰謝料を、返金された】

【どうして?】

【芹香さんとの結婚が決まった以上、慰謝料はいらないって事だろう。】

私は、スマホを投げようとした。

「おいおい、精密機械だぞ。」

この事は、安心しきってるお父さんにも言わなきゃ。

「お父さん、慰謝料は返金されたって。」

「何だって⁉」

「芹香との結婚が決まったから、慰謝料は払う必要ないって。」

「何だ、それ!」

悔しい。

どうすれば、信一郎さんと芹香の気持ちに、気づいてくれるの?

私は、立ち上がった。

こうなったら、直談判するしかない。


「礼奈、どこに行く?」

「芹香の家に行ってくる。」

「芹香ちゃんと、話し合うのか。」

「ううん。芹香のお父さんと会ってくる。」
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