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闇③
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「きゃあああああ。」
絵美が悲鳴があげると、美奈子は絵美の身体を、強い力でつかんだ。
「離して、離してえええ!」
絵美の訴えは、むなしく部屋に響き渡り、足先から絵美は、闇の中へ入っていった。
「お母さん、お母さん!」
絵美は最後の力を振り絞って、母親を呼んだ。
その時絵美の母親は、ふと絵美に呼ばれた気がして、不思議に思いながら階段を上がった。
「絵美?」
母親はノックしても返事のない絵美に、胸騒ぎを覚え勢いよく扉を開けた。
「絵美!」
しかし、そこには絵美の姿はなかった。
母親は慌てて、布団をまくった。
いない。
絵美がいない。
「どこにいるの?返事して!」
辺りを見回すと、母親は扉の横に、黒いシミがあるのを見つけた。
「どうしてこんな所にシミが……」
ゆっくりと近づき、シミをよく見てみると、そこには
苦しそうに悶える、絵美の顔が映っていた。
その日、美奈子の義理の父親である進は、パチンコに来ていた。
玉を打つうるさい音。
その中に自分の身を置かなければ、頭を真っ白にすることはできなかった。
自分の職場に、パートとして働きにきていた美代。
優しくて明るい美代とは、すぐに打ち解けた。
中学生の娘がいると聞かされたのは、もう二人で会うようになって、随分経ってからのことだった。
初めて見た美奈子は、とても大人しい子だった。
何よりも美代に似ていた。
たぶん中学生の頃の美代は、こんな感じだったのかな。
そう思わせるくらい、母娘は似ていた。
結婚して、一緒に住むようになった。
ずっと一人で生きてきた進にとっては、連れ子とはいえ、初めての子供だった。
だが美奈子も、微妙な年頃だった。
美代と仲良くしていれば、じっと見つめられ、ケンカすればしたで、じっと睨まれた。
何度話しかけても、気のない返事しかなく、一度もお父さんと、呼ばれたことはなかった。
高校生になった美奈子は、ますます母親に似てきた。
「若い頃の写真よ。」
そう言って美代に見せてもらった、高校生の頃の写真。
その写真の中の美代に、美奈子はそっくりだった。
血の繋がった親子なら、
「美奈子は、お母さんの若い頃にそっくりだな。」
そんな会話で、終わっていたかもしれないのに。
美代は年を取ったと言っても、綺麗な方だった。
周りの同じ年代の人と比べても、品があった。
それでいて、気さくで余計な気遣いなんて無用だった。
だからだろうか。
若い頃も美代は、綺麗だったんだろうな。
きっとモテてたんだろうな。
そんな気持ちを解決する為に、美奈子を見ていた。
血の繋がっていない美奈子に進は、いつしか若かりし時の美代を重ねていた。
そしてあの日。
午後から雨が降ったあの日。
傘を持って行ったはずの美奈子は、ずぶ濡れになって帰ってきた。
しかも、思わず抱きしめずにはいられない程に、せつなさそうな顔をして。
自分でも何をしたのか、分からないくらいに、頭が真っ白になっていた。
気付いたら、後ろに美代が立っていた。
そして立ち上がり、美代が持っていた重そうな荷物を代わりに持った。
その時、立ち上がった美奈子を見て、初めて自分がしようとしていた、恐ろしいことに、気がついたのだ。
進はこれでもか、というくらいに頭を左右に振った。
「ちっ!何だって今日は、あんなこと思い出すんだ。」
進はタバコの煙を消すと、席を立ち上がった。
他に行く宛も無く、進は真っ直ぐ家に帰って来た。
「ただいま~」
進が家に入ると、誰もいない。
「美代は仕事だっけ……」
進も美代も、出会った職場で、今も働いていた。
進は何も考えずに、ソファに腰掛け、テレビをつけた。
「美奈子……」
そうつぶやいて、進はハッとした。
「なんで俺、あいつの名前なんて……」
美奈子が死んで49日も過ぎ、いつもの生活に戻ったというのに。
そう思えばそう思うほど、美奈子の名前は、頭に浮かんでくる。
「なんなんだ!これは!」
進が頭を抱えた瞬間、ついていたテレビが、ブツッと切れた。
「えっ?」
進はリモコンを持つと、何度も電源を押した。
「壊れたのか?」
進はテレビに近づいて、脇をバンバンと叩いた。
そして自分の目を疑った。
テレビがグッショリと、濡れているのだ。
「ウソだろ…おい……」
見ると自分の手も、腕も濡れている。
「いつの間に?」
服も濡れていて、身体にまとわりついてくる。
「寒い…」
進はその言葉を、必死に書き消そうとした。
そうこの感覚は、雨に濡れた時の感覚だ。
「…家の中だぞ。」
進は寒い身体をさすりながら、一歩また一歩と後ずさりをした。
そして後ろを振り向いた瞬間だった。
絵美が悲鳴があげると、美奈子は絵美の身体を、強い力でつかんだ。
「離して、離してえええ!」
絵美の訴えは、むなしく部屋に響き渡り、足先から絵美は、闇の中へ入っていった。
「お母さん、お母さん!」
絵美は最後の力を振り絞って、母親を呼んだ。
その時絵美の母親は、ふと絵美に呼ばれた気がして、不思議に思いながら階段を上がった。
「絵美?」
母親はノックしても返事のない絵美に、胸騒ぎを覚え勢いよく扉を開けた。
「絵美!」
しかし、そこには絵美の姿はなかった。
母親は慌てて、布団をまくった。
いない。
絵美がいない。
「どこにいるの?返事して!」
辺りを見回すと、母親は扉の横に、黒いシミがあるのを見つけた。
「どうしてこんな所にシミが……」
ゆっくりと近づき、シミをよく見てみると、そこには
苦しそうに悶える、絵美の顔が映っていた。
その日、美奈子の義理の父親である進は、パチンコに来ていた。
玉を打つうるさい音。
その中に自分の身を置かなければ、頭を真っ白にすることはできなかった。
自分の職場に、パートとして働きにきていた美代。
優しくて明るい美代とは、すぐに打ち解けた。
中学生の娘がいると聞かされたのは、もう二人で会うようになって、随分経ってからのことだった。
初めて見た美奈子は、とても大人しい子だった。
何よりも美代に似ていた。
たぶん中学生の頃の美代は、こんな感じだったのかな。
そう思わせるくらい、母娘は似ていた。
結婚して、一緒に住むようになった。
ずっと一人で生きてきた進にとっては、連れ子とはいえ、初めての子供だった。
だが美奈子も、微妙な年頃だった。
美代と仲良くしていれば、じっと見つめられ、ケンカすればしたで、じっと睨まれた。
何度話しかけても、気のない返事しかなく、一度もお父さんと、呼ばれたことはなかった。
高校生になった美奈子は、ますます母親に似てきた。
「若い頃の写真よ。」
そう言って美代に見せてもらった、高校生の頃の写真。
その写真の中の美代に、美奈子はそっくりだった。
血の繋がった親子なら、
「美奈子は、お母さんの若い頃にそっくりだな。」
そんな会話で、終わっていたかもしれないのに。
美代は年を取ったと言っても、綺麗な方だった。
周りの同じ年代の人と比べても、品があった。
それでいて、気さくで余計な気遣いなんて無用だった。
だからだろうか。
若い頃も美代は、綺麗だったんだろうな。
きっとモテてたんだろうな。
そんな気持ちを解決する為に、美奈子を見ていた。
血の繋がっていない美奈子に進は、いつしか若かりし時の美代を重ねていた。
そしてあの日。
午後から雨が降ったあの日。
傘を持って行ったはずの美奈子は、ずぶ濡れになって帰ってきた。
しかも、思わず抱きしめずにはいられない程に、せつなさそうな顔をして。
自分でも何をしたのか、分からないくらいに、頭が真っ白になっていた。
気付いたら、後ろに美代が立っていた。
そして立ち上がり、美代が持っていた重そうな荷物を代わりに持った。
その時、立ち上がった美奈子を見て、初めて自分がしようとしていた、恐ろしいことに、気がついたのだ。
進はこれでもか、というくらいに頭を左右に振った。
「ちっ!何だって今日は、あんなこと思い出すんだ。」
進はタバコの煙を消すと、席を立ち上がった。
他に行く宛も無く、進は真っ直ぐ家に帰って来た。
「ただいま~」
進が家に入ると、誰もいない。
「美代は仕事だっけ……」
進も美代も、出会った職場で、今も働いていた。
進は何も考えずに、ソファに腰掛け、テレビをつけた。
「美奈子……」
そうつぶやいて、進はハッとした。
「なんで俺、あいつの名前なんて……」
美奈子が死んで49日も過ぎ、いつもの生活に戻ったというのに。
そう思えばそう思うほど、美奈子の名前は、頭に浮かんでくる。
「なんなんだ!これは!」
進が頭を抱えた瞬間、ついていたテレビが、ブツッと切れた。
「えっ?」
進はリモコンを持つと、何度も電源を押した。
「壊れたのか?」
進はテレビに近づいて、脇をバンバンと叩いた。
そして自分の目を疑った。
テレビがグッショリと、濡れているのだ。
「ウソだろ…おい……」
見ると自分の手も、腕も濡れている。
「いつの間に?」
服も濡れていて、身体にまとわりついてくる。
「寒い…」
進はその言葉を、必死に書き消そうとした。
そうこの感覚は、雨に濡れた時の感覚だ。
「…家の中だぞ。」
進は寒い身体をさすりながら、一歩また一歩と後ずさりをした。
そして後ろを振り向いた瞬間だった。
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