誰にでも優しいくせに、私だけに本気なんてズルい– 遊び人エリートのくせに、溺愛が止まらない –【完結】

日下奈緒

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第7部 本気の夜、ふたりの距離

低く落ち着いた声で、彼は続けた。

「仕事だって、遊びだって、全部うわべだった。でも……お前だけは、違う。」

私は顔を上げて、彼の瞳を見つめた。

その瞳の奥に、どこまでも深く、私だけが映っている気がした。

「……私もです。隼人さんに出会って、初めて……本当に愛されたって、思えた。」

涙が一粒、頬をつたう。

それを彼がそっと拭ってくれる。

その仕草さえ、愛しくてたまらない。

「これからも、ずっと一緒にいてほしい。」

彼の言葉は、約束ではない。願いでもない。

それは、すでに始まっている“未来”のようだった。

私は、彼の胸に顔を埋めた。

「……はい、どこにも行かない。あなたのそばにいます。」

しばらくの静寂の後、彼がふっと笑った。

そして、そっと私の額にキスを落とす。

「大好きだよ、紗英。」

この瞬間、私は世界で一番幸せな女になった気がした。


翌朝の経理部オフィス。誰よりも早く出社した私の元へ、上林さんが近寄ってきて……

「おはよ、紗英ちゃん。」

その声だけで、なんとなく嫌な予感がした。

「……おはようございます。」

「ねぇ。昨日の夜……どうだった?」

「どうって……」

私の頬がじわっと熱を帯びる。

「部長、どんなふうに女を抱くの?」

ぶふっ――とコーヒーを吹きそうになった。

「え、ええっ⁉ ちょっと待ってください、上林さん!」

「いやーだ、そういう顔するってことは、あったってことじゃない!」

完全にトラップだった。

「……優しかったです。」

正直に言うと、上林さんは急にテーブルに突っ伏した。

「はあああ⁉ 桐生部長が⁉ 優しく⁉ まさか“愛してる”とか言っちゃったりするの⁉」

私は下を向いた。

「……はい。」

「ぎゃーーーーっ!!言うの!? “愛してる”って、あの超無口エリートが!?」

まるで推しカプの熱狂的ファンみたいなテンション。

「で、で、前戯は?どんなこと囁くの?」

「もう無理!無理無理無理です、そういうの職場で聞かないでください!」

「えー、ちょっとくらい教えてよぉ。どうせ今夜もお泊まりでしょ?」

「そんな予定はっ……ないですけど……」

「おやおや?この“けど”に全てが詰まってるぅ~♡」

顔を隠すように、私は書類の山に埋もれた。

「仕事しましょう。私、ちゃんと経理部なんで。」

「ふふっ、でもさ――幸せそうな顔してる。いいなあ、紗英ちゃん。」

その言葉だけは、素直に嬉しかった。

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