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第7部 本気の夜、ふたりの距離
⑦
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お昼休憩後、書類を抱えて倉庫の扉を開けると、先客がいた。
「あっ……お疲れ様です、一条さん。」
「……ああ、篠原さん。」
顔を上げた一条さんは、どこか不機嫌そうだった。
目が合っても、すぐに視線を外す。
「……あの、何か……」
「――そう言えばさ。桐生部長にお持ち帰りされたんだって?」
「えっ?」
心臓が止まるかと思った。
「……あ、あの、それは……」
「上林さんとの会話、聞こえて来たよ。壁、薄いから。」
うわあああああ……!!
膝から崩れ落ちたくなるほどの羞恥が襲う。
「なんで?」
一条さんが、急に真剣な顔で私の目を見る。
「なんで――泣かされるのに、抱かれたの?」
その一言が、胸に鋭く刺さった。
言葉が、出てこなかった。
あの夜のこと、翌朝のこと。
確かに泣いた。たくさん。
でも、それでも――
「……それでも、あの人の腕の中が、安心できたんです。」
自分でも驚くくらい、静かな声だった。
「……バカだな。」
そう呟いた一条さんの目が、少しだけ揺れた。
「泣いてまで安心って、どんな地獄だよ。」
その言葉には、私を責める気配はなかった。
ただ、呆れてるような、自分に苛立っているような。
「……でも、一条さん。泣かされるだけじゃないです。」
「ん?」
「泣く前に、ちゃんと“愛してる”って言ってくれたんです。……私を、大切にすると。」
自分でも、顔が赤くなるのがわかる。
でも、それが私の正直な気持ちだった。
「そんなの――嘘に決まってるでしょ。」
低く呟いた一条さんが、ゆっくり私に歩み寄ってきた。
「……え?」
「桐生部長が“愛してる”なんて。やる為だったら、なんだって言う男だよ。」
その言葉に、耳を塞ぎたくなった。
「そんなこと……言わないです、あの人は……!」
「言うよ。誰にでも。“本気だ”とか、“守る”とか。……それが、あの人なんだ。」
ぎゅうっと胸が締めつけられる。
信じてきた想いが、少しずつ崩れていくのを感じた。
「俺は、そんな言葉、軽々しく言わない。」
そう言った一条さんは、私の肩をぐっと掴み、ためらうことなく抱きしめてきた。
「ちょっと……!何して――」
「俺、ずっと……ずっと我慢してた!」
耳元に届いた声は、震えていた。
「好きだった。ずっと。なのに、あんたはあの人ばかり見てた。」
抱きしめる力が、少しだけ強くなった。
「だからもう、黙ってられない。桐生部長のものになんか、なってほしくないんだ……!」
私は動けなかった。
一条さんの腕の中で、心だけがぐらぐらと揺れていた。
好きなのは、隼人さんのはずなのに。
「あっ……お疲れ様です、一条さん。」
「……ああ、篠原さん。」
顔を上げた一条さんは、どこか不機嫌そうだった。
目が合っても、すぐに視線を外す。
「……あの、何か……」
「――そう言えばさ。桐生部長にお持ち帰りされたんだって?」
「えっ?」
心臓が止まるかと思った。
「……あ、あの、それは……」
「上林さんとの会話、聞こえて来たよ。壁、薄いから。」
うわあああああ……!!
膝から崩れ落ちたくなるほどの羞恥が襲う。
「なんで?」
一条さんが、急に真剣な顔で私の目を見る。
「なんで――泣かされるのに、抱かれたの?」
その一言が、胸に鋭く刺さった。
言葉が、出てこなかった。
あの夜のこと、翌朝のこと。
確かに泣いた。たくさん。
でも、それでも――
「……それでも、あの人の腕の中が、安心できたんです。」
自分でも驚くくらい、静かな声だった。
「……バカだな。」
そう呟いた一条さんの目が、少しだけ揺れた。
「泣いてまで安心って、どんな地獄だよ。」
その言葉には、私を責める気配はなかった。
ただ、呆れてるような、自分に苛立っているような。
「……でも、一条さん。泣かされるだけじゃないです。」
「ん?」
「泣く前に、ちゃんと“愛してる”って言ってくれたんです。……私を、大切にすると。」
自分でも、顔が赤くなるのがわかる。
でも、それが私の正直な気持ちだった。
「そんなの――嘘に決まってるでしょ。」
低く呟いた一条さんが、ゆっくり私に歩み寄ってきた。
「……え?」
「桐生部長が“愛してる”なんて。やる為だったら、なんだって言う男だよ。」
その言葉に、耳を塞ぎたくなった。
「そんなこと……言わないです、あの人は……!」
「言うよ。誰にでも。“本気だ”とか、“守る”とか。……それが、あの人なんだ。」
ぎゅうっと胸が締めつけられる。
信じてきた想いが、少しずつ崩れていくのを感じた。
「俺は、そんな言葉、軽々しく言わない。」
そう言った一条さんは、私の肩をぐっと掴み、ためらうことなく抱きしめてきた。
「ちょっと……!何して――」
「俺、ずっと……ずっと我慢してた!」
耳元に届いた声は、震えていた。
「好きだった。ずっと。なのに、あんたはあの人ばかり見てた。」
抱きしめる力が、少しだけ強くなった。
「だからもう、黙ってられない。桐生部長のものになんか、なってほしくないんだ……!」
私は動けなかった。
一条さんの腕の中で、心だけがぐらぐらと揺れていた。
好きなのは、隼人さんのはずなのに。
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