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第10部 それでも、あなたを選ぶ
②
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お父さんは無言のまま、湯呑みを手に取り、一口飲んだ。
「……お父さん。」
私は思わず声をかけた。
お父さんはゆっくり隼人さんを見つめた。
「漁師の娘を、大事にしてくれるか。」
「はい。命をかけて、守ります。」
その言葉に、お父さんの口元がふっと緩んだ。
「ならいい。あとは、紗英次第だな。」
「ありがとう、お父さん……」
思わず私は涙ぐんだ。
隼人さんは、そっと私の手を握ってくれた。
「今日は泊まっていくんだろう。飲みなさい。」
お父さんが言って、徳利を手にした。
「はい、頂きます。」
隼人さんが盃を差し出すと、お父さんはにやりと笑って注いだ。
「うん、美味い。」
口に含んだ隼人さんが、素直な感想を漏らす。
「日本酒が分かるか!」
「ええ、実は祖父が酒蔵をやっていたもので。昔から好きでした。」
「ほう、そうか。じゃあ、ここの酒の良さも分かるな。」
「はい。旨味の深さが違います。」
お父さんが満足そうにうなずき、隼人さんの肩をぽんと叩いた。
「こりゃ安心だな。酒の味が分かる男に、娘は任せられる。」
「ありがとうございます。」
隼人さんは照れながらも礼儀正しく頭を下げる。その様子に、私は心があたたかくなった。
「ところで、将来はどこに住む予定なんだ?」
「はい、都内に。」
隼人さんがきっぱりと答えると、お父さんは少しうつむいて、「そうか」とだけ言った。
その顔が、急に真剣になる。
「この町に来る気はないか。」
「えっ?」
思わず私は声を上げた。まさか、そんなことを言い出すなんて。
「隼人さんの事務所、都内なのよ?まだ立ち上げたばかりで……」
「分かってる。おまえから、都内に事務所を構えたばかりだということも聞いてる。」
お父さんはゆっくりと腕を組み、厳しいまなざしで隼人さんを見据えた。
「うちはな、紗英一人なんだ。兄弟を作ってやれなかったのは、申し訳なかったと思ってる。だが――」
そこで一度言葉を切って、私を見た。
「――紗英しかいないんだよ。」
その言葉には、父としての不器用な愛が詰まっていた。都会に送り出したとはいえ、本音ではずっと、帰ってきてほしいと思っていたのだ。
私の胸がきゅっと締めつけられる。
「隼人さん……」
彼は困ったように私を見て、そしてお父さんに向き直った。
「……ありがとうございます。その想い、ちゃんと受け止めます。」
続く隼人の言葉を、私は息を呑んで待った。
「今すぐは難しいですが、仕事が落ち着いたらこちらに移住しましょう。」
その一言に、お父さんの顔が少し和らいだ。
「隼人さん!」
私は思わず隼人さんの胸に飛び込んだ。
嬉しさと安心が込み上げて、自然と涙があふれる。
「……お父さん。」
私は思わず声をかけた。
お父さんはゆっくり隼人さんを見つめた。
「漁師の娘を、大事にしてくれるか。」
「はい。命をかけて、守ります。」
その言葉に、お父さんの口元がふっと緩んだ。
「ならいい。あとは、紗英次第だな。」
「ありがとう、お父さん……」
思わず私は涙ぐんだ。
隼人さんは、そっと私の手を握ってくれた。
「今日は泊まっていくんだろう。飲みなさい。」
お父さんが言って、徳利を手にした。
「はい、頂きます。」
隼人さんが盃を差し出すと、お父さんはにやりと笑って注いだ。
「うん、美味い。」
口に含んだ隼人さんが、素直な感想を漏らす。
「日本酒が分かるか!」
「ええ、実は祖父が酒蔵をやっていたもので。昔から好きでした。」
「ほう、そうか。じゃあ、ここの酒の良さも分かるな。」
「はい。旨味の深さが違います。」
お父さんが満足そうにうなずき、隼人さんの肩をぽんと叩いた。
「こりゃ安心だな。酒の味が分かる男に、娘は任せられる。」
「ありがとうございます。」
隼人さんは照れながらも礼儀正しく頭を下げる。その様子に、私は心があたたかくなった。
「ところで、将来はどこに住む予定なんだ?」
「はい、都内に。」
隼人さんがきっぱりと答えると、お父さんは少しうつむいて、「そうか」とだけ言った。
その顔が、急に真剣になる。
「この町に来る気はないか。」
「えっ?」
思わず私は声を上げた。まさか、そんなことを言い出すなんて。
「隼人さんの事務所、都内なのよ?まだ立ち上げたばかりで……」
「分かってる。おまえから、都内に事務所を構えたばかりだということも聞いてる。」
お父さんはゆっくりと腕を組み、厳しいまなざしで隼人さんを見据えた。
「うちはな、紗英一人なんだ。兄弟を作ってやれなかったのは、申し訳なかったと思ってる。だが――」
そこで一度言葉を切って、私を見た。
「――紗英しかいないんだよ。」
その言葉には、父としての不器用な愛が詰まっていた。都会に送り出したとはいえ、本音ではずっと、帰ってきてほしいと思っていたのだ。
私の胸がきゅっと締めつけられる。
「隼人さん……」
彼は困ったように私を見て、そしてお父さんに向き直った。
「……ありがとうございます。その想い、ちゃんと受け止めます。」
続く隼人の言葉を、私は息を呑んで待った。
「今すぐは難しいですが、仕事が落ち着いたらこちらに移住しましょう。」
その一言に、お父さんの顔が少し和らいだ。
「隼人さん!」
私は思わず隼人さんの胸に飛び込んだ。
嬉しさと安心が込み上げて、自然と涙があふれる。
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