月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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「おにいと気軽に会ってはいけないと、女中に言われたのです。」

それを言われて、俺も一緒に俯く。

「もう、子供ではないと……言われて……」

「ああ。おにいも、同じ事を言われたよ。」

お互い下を向きながら、どうする事もできないこの状態に、ただ身を置くしかなかった。


「なぜ兄妹なのに、会ってはいけないのですか?」

「会ってはいけない、と言う訳ではない。何かあれば、いつでも会う事はできる。」

「何かなければ、会う事は許されないのですか?」

目に涙が浮かぶ。

同じ気持ちだったんだ。

俺も、ネシャートも……


「私達はもう、無邪気な子供じゃない。」

「おにい……」

「お互い王家の為に、私は王子として、ネシャートは王女として、やらなければならない事があるんだ。」

「じゃあ……王家に生まれて来なければ、私はおにいと、ずっと一緒にいられたの?」

大粒の涙を流すネシャート。

俺はその時、生まれて初めてと言うくらいに、ネシャートを強く抱き締めた。

「ずっと、一緒にいるよ。」

「おにい?」

「ずっと、ネシャの側にいる。兄妹なんだ。誰も、私たちを引き離す事なんて、できるものか!」

強くネシャートを抱き締めて、泣きじゃくる彼女を、ずっと慰めていた。


「ネシャート王女!ネシャート王女!」

外で彼女を探す、女中の声がする。

「行った方がいい。」

俺は彼女の、背中を押した。

「でも!」

「これが、最後じゃない。また、いつでも会えるから。」

そう言い聞かせて、ネシャートを部屋の外に、連れ出した。


女中達は、ネシャートが見つかって、安心していた。

まだ子供のネシャートの手を引き、部屋へ戻って行く。

その様子を、ずっと部屋の中から、見ていた。

離れる事が嫌なのは、自分だけじゃない。

その不思議な安心感が、その時の俺を支えてくれていたんだ。

しばらくして、俺の前に一人の侍従が、召し出された。

「ハーキムと申します。」

俺よりも2つ年上の、ハーキムと名乗る者は、まだ俺と一緒に子供の癖に、どこか大人びていた。

「ジャラールである。以後、宜しく頼む。」

「はっ!」

一切、俺を見ないハーキムの、初対面の印象は、“得体の知れぬ者”だった。


「では、ジャラール王子。これよりは、数名の女中を残し、後はハーキム率いる侍従達が、お仕え致します。」

今まで俺の側にいてくれた女中が、頭を下げた。

「そなたは?」

「残念ながら、公務に戻らせて頂きます。」

者心付いた時から一緒だった、小太りの女中との別れの時が来た。

「今まで、世話になった。」

「勿体ないお言葉でございます。」

「また会おう。その時まで、元気で。」

「ジャラール王子も。」


ずっと側に仕えていてくれた割には、あっさりとした別れだった。
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