月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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両手を振って、思いっきり否定した。

「ないないない!絶対ない!」

「何よ!それ!」

その女は事もあろうに、俺の体を叩いてきた。

「痛いっ!」

女から、いや他人から叩かれた事がない俺は、それだけで人生観が変わった。


「失礼よね!こんないい女、目の前にして!」

腕を組んで、つーんとしている。

「いくらいい女だって、好きじゃなかったら、そういう事するか!」

「あら、真面目だ事。って言うか今、私の事いい女だって、認めたわね。」

ニヤッと笑った彼女。

ネシャートとは違うタイプだけど、あの廊下に立って、媚を売ってくるような女達とも違う。

「いいわ。一緒に星を見ましょう。」

そう言って彼女は、俺の手を引き、絨毯に寝転んだ。


「君、名前何て言うの?」

「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが、礼儀よ。」

「はいはい。私は、ジャラールだ。」

「あら、この国の王子と、同じ名前じゃない。」


同じ名前って、全然気づかないんだな、この人。

って言うか、俺って王子としてのオーラが、全くないのかな。

「私は、アリアよ。」

「アリア……」

「踊り子をしているの。あなたは?」

「私は……」

言いかけて、何も言えなかった。

一体俺は、何をしているのだろう。

「なあに?何もしていないの?もしかして、お金持ちのお坊っちゃま?」

「一応……」

お坊っちゃまって言う表現が嫌だったけれど、事実だ。


「すごいじゃない。学校とか行っているの?」

「ううん。勉強はしているけれど、先生を部屋に呼んでいる。」

「家庭教師ってやつ?」

「そう……なるのかな。」

「すごいすごい!お金持ちなんじゃない!」

「私がじゃないよ。親がね。」


そうだ。

俺はこの子のように、得意な事がある訳でもなく、自分で稼ぐ事もできない。

親の財産を、そのまま使っているだけだ。

「ねえ、アリア。踊って見せて。」

「急に?その前に、星を見せてよ。」

自分の言った事を、覆されるのも、生まれて初めてだった。

「はははっ!」

「えっ!?今度は急に、笑うの?」

「いや、面白くてさ。」

「面白い!?道化師でも有るまいし。」

「何、それ?」

「知らないの?そっちの方が、面白いわ。」

お互い顔を合わせながら、アリアと笑い合った。


誰かとこんなに笑い合うなんて、そうだな……ハーキムとネシャート以来だ。


「アリアはいくつ?」

「私は17歳。ジャラールは?」

「俺は14歳。もう少しで15歳になる。」

「へえー。歳まで王子様と一緒なのね。」

だから、いい加減そこで気づかないかな。

俺がその、“王子”だって事。

まあ、気づかないなら気づかないで、余計な気を使わないから、いいんだけどさ。

「アリア、ほら。星、見えてきたよ。」

「ホントだ。」
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