月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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まだ昼間だと言うのに、アリアに会いたくなった。

人目を避け、星の間の奥にある階段から、外に出た。

ここから西の敷地に行けば、アリアが泊まっているテントに行き着く。


俺は、アリアに会いたい一心で、そのテントを目指した。

途中、ネシャートの部屋の窓が、上の方に見えた。

何でもない。

理由はなく、ただ無意識に、その窓を見上げた。

そこには、珍しく人影があった。

誰かは直ぐに分かった。

ネシャートだった。


俺はそれに気づくと、歩みを止めた。

ネシャートも、俺に気づいているようで、こちらを向いている。

悲しそうな顔。

会えないならせめて、姿だけでも……

それは、二人の共通の願いだったのかもしれない。

でも今は、アリアがいる。

俺はしばらくネシャートを見た後、また歩き出した。


西の敷地までは、ネシャートの部屋から、5分程で辿り着いた。

たくさんのテントがある。

この中から、アリアのテントを探すのは、容易ではない。


俺は通りかかった、一人の男に声を掛けた。

「すまぬが、アリアのテントはどこだ?」

「はあ?アリア?」

その男は、俺の事を上から下まで、舐めるように見ている。

「あんだ、誰だ?アリアと、どんな関係なんだ?」

アリアとの関係?

アリアとは恋人同士だけど、そんな事言って、アリアは大丈夫なのかな。

「……友人だ。」

「へえ。アリアにあんたみたいな、金持ちの友人がね。」

全くこの舞踏団の奴等は、俺がこの国の王子だと言う事に、面白い程に気づいていない。

ここにテントを立ててみれば?と言ったのは、この俺なのに。

そう言えばこの人達、挨拶に来た時、一度も顔を上げていなかったっけ。

今度からは、顔を上げさせて、自分の顔を見てもらうようにしよう。


「兄さん、アリアは今、いないよ。」

「いない?」

「躍りに行っているんだ。アリアは、団長の妹だし、稼ぎ頭だからな。日中はずっと、仕事だよ。」


「そうか。有り難う。」

手を挙げて、その男にお礼をした。

「おい、お坊っちゃんよ。」

「ん?」

見るとその男は、腕を組んで面白くなさそうに、していた。

「いくら何でも、それはないんじゃないか?人にモノを教わったら、頭を下げろ。」

俺は、ふっと沸き上がる怒りを、ぐっと堪えた。

「……有り難う。」

頭を下げるなんて、人生初かもしれない。

「分かればいいのさ。」

その男は、鼻息を荒くしながら、去って行った。


そして俺は、首元を掻きながら、また星の間に戻った。

「あーあ。父上の目を盗んで、ここまで来た甲斐は、なかったな。」

見つかったら、また勉強は捗っているか?訓練はどうだ?と、言いかねない。

早く王の部屋を抜け、自分の部屋に戻らないと。

そう思って、足早にその場を、駆け抜けた。


「よし。ここまで来れば、大丈夫だ。」

階段を降り、王の間の脇にある、長い廊下に差し掛かった時だ。
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