43 / 56
Ⅳ
③
しおりを挟む
「ジャラール王子。」
聞き覚えのある、声がした。
振り返らなくても分かる。
皮肉なものだ。
「お久しぶりに、お目にかかりますね。」
「ああ。元気にしていたか?ネシャート。」
「はい。ジャラール王子も、お元気そうで何よりです。」
コツコツと、足音を立てながら、俺に近づくネシャート。
どうしてだろう。
それだけで、心臓の鼓動が早くなる。
「ジャラール王子……」
切ない声で、俺を呼ぶネシャートに、手を伸ばしてしまいそうになる。
でも無理だ。
ネシャートに、手を伸ばす事は、育ててくれた恩に、背く行為だ。
すると、ふとネシャートが、静かに微笑んだ。
「ネシャート?」
「いいえ、すみません。何だかしばらくお会いしない間に、ジャラール王子が、大人っぽくなられたように見えて……」
その深く、美しい瞳で見つめられると、ドキッとして顔を背けてしまった。
「そうだな……もうしばらくで、15歳になり成人になる。少しは成長しないとな。」
ネシャートに合わせて、冗談を言ったつもりだった。
だがネシャートの表情は、みるみるうちに、悲しそうになっていく。
「それは……あの方の影響ですか?」
「あの方?」
「……最近王子が、目にかけていると言う、踊り子の事です。」
俺は驚いて、目を丸くした。
「……知っているのか?」
「知っているも何も、そういうお噂は、嫌でも耳に入ってきます。」
震えた声で、ネシャートは答えた。
「そうか……」
知っているのなら、隠す必要もないと、俺は思った。
「ネシャート。」
「はい。」
俺に恋人ができれば、ネシャートも少しは、心が楽になるだろうと。
「噂は本当だ。私は、その踊り子を、恋人にしている。」
先ほどの自分のように、目を丸くして驚くネシャート。
もしかしたら、その噂は、嘘だと思ったのだろうか。
「妻に迎えるかは、分からない。だが、別れるつもりもない。」
そう言った途端、ネシャートの目に、涙が溜まり始めた・
「ネシャート?」
何も言わず、首を横に振る彼女。
「はぁぁ……うぅぅぅ……」
はっきりとは分からないが、泣き叫ぶ事を、我慢しているような、気がした。
「ネシャート!」
たまらずに、ネシャートに手を伸ばした。
「触らないで!」
初めて聞く、乱暴な言い方。
「……他の女に触れた手で、私に触らないで。」
「え……」
一瞬、何を言っているのか、分からなかった。
「ひどい方。私はあの後も、あなたを想って、涙を流していると言うのに。」
「ネシャート、すまぬ。」
「そんな簡単に謝って、済む問題だと、お思いですか!」
ネシャートは、後ずさりしながら、息を切らしている。
「ネシャート。落ち着くんだ。」
「来ないで。」
その間も、ハァハァと、息苦しく呼吸をしている彼女。
聞き覚えのある、声がした。
振り返らなくても分かる。
皮肉なものだ。
「お久しぶりに、お目にかかりますね。」
「ああ。元気にしていたか?ネシャート。」
「はい。ジャラール王子も、お元気そうで何よりです。」
コツコツと、足音を立てながら、俺に近づくネシャート。
どうしてだろう。
それだけで、心臓の鼓動が早くなる。
「ジャラール王子……」
切ない声で、俺を呼ぶネシャートに、手を伸ばしてしまいそうになる。
でも無理だ。
ネシャートに、手を伸ばす事は、育ててくれた恩に、背く行為だ。
すると、ふとネシャートが、静かに微笑んだ。
「ネシャート?」
「いいえ、すみません。何だかしばらくお会いしない間に、ジャラール王子が、大人っぽくなられたように見えて……」
その深く、美しい瞳で見つめられると、ドキッとして顔を背けてしまった。
「そうだな……もうしばらくで、15歳になり成人になる。少しは成長しないとな。」
ネシャートに合わせて、冗談を言ったつもりだった。
だがネシャートの表情は、みるみるうちに、悲しそうになっていく。
「それは……あの方の影響ですか?」
「あの方?」
「……最近王子が、目にかけていると言う、踊り子の事です。」
俺は驚いて、目を丸くした。
「……知っているのか?」
「知っているも何も、そういうお噂は、嫌でも耳に入ってきます。」
震えた声で、ネシャートは答えた。
「そうか……」
知っているのなら、隠す必要もないと、俺は思った。
「ネシャート。」
「はい。」
俺に恋人ができれば、ネシャートも少しは、心が楽になるだろうと。
「噂は本当だ。私は、その踊り子を、恋人にしている。」
先ほどの自分のように、目を丸くして驚くネシャート。
もしかしたら、その噂は、嘘だと思ったのだろうか。
「妻に迎えるかは、分からない。だが、別れるつもりもない。」
そう言った途端、ネシャートの目に、涙が溜まり始めた・
「ネシャート?」
何も言わず、首を横に振る彼女。
「はぁぁ……うぅぅぅ……」
はっきりとは分からないが、泣き叫ぶ事を、我慢しているような、気がした。
「ネシャート!」
たまらずに、ネシャートに手を伸ばした。
「触らないで!」
初めて聞く、乱暴な言い方。
「……他の女に触れた手で、私に触らないで。」
「え……」
一瞬、何を言っているのか、分からなかった。
「ひどい方。私はあの後も、あなたを想って、涙を流していると言うのに。」
「ネシャート、すまぬ。」
「そんな簡単に謝って、済む問題だと、お思いですか!」
ネシャートは、後ずさりしながら、息を切らしている。
「ネシャート。落ち着くんだ。」
「来ないで。」
その間も、ハァハァと、息苦しく呼吸をしている彼女。
3
あなたにおすすめの小説
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
魔族の花嫁に選ばれた皇太子妃
葉柚
恋愛
「ロイド殿下。お慕い申しております。」
「ああ。私もだよ。セレスティーナ。」
皇太子妃であるセレスティーナは皇太子であるロイドと幸せに暮らしていた。
けれど、アリス侯爵令嬢の代わりに魔族の花嫁となることになってしまった。
皇太子妃の後釜を狙うアリスと、セレスティーナのことを取り戻そうと藻掻くロイド。
さらには、魔族の王であるカルシファーが加わって事態は思いもよらぬ展開に……
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる