月夜の砂漠に一つ星煌めく

日下奈緒

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「私、仕事でいなかったでしょう?」

「うん。」

「昼間はいつも、仕事なの。だから、昼間に来ても、私はいない。以上。」

「はあ?」

女のくせに、淡白な答え方だな。


「だからさっきの、ネシャートって誰?」

しかも、まだ拘っているし。

「だから、妹。」

「じゃあ、言う通り妹にしておいてあげる。」

いや、しておいてあげるって、本当に妹なんだけど。


「で?どうしてそんなに、何度も呼ぶの?」

やっぱり、アリアの方が俺よりも上だ。

「もしかして、叶わない恋?」

胸がズキッと、なった。

「……アリアはさ。そういう恋を、したことがあるの?」

「うーん。叶わなかった恋は、何度もあるけれど、最初から叶わない恋だって知ってて、好きになった事はないかな。」

「そうか……」

俺はアリアに、背中を向けた。

「なに?本当に妹で。しかもそういう恋?」

「黙って。」

するとアリアは、俺の後ろに寝転んで、後ろから俺を抱き締めてくれた。

「悲しい恋を、したのね。」

「別に……悲しくない。」

「じゃあ、辛い恋ね。」

「辛くもない。」

反抗的に、アリアに答えた。

「じゃあ、何がそんなに、ジャラールを切なくさせるの?」


何が?

何が……


「ネシャートの、側にいられない事が……」

するとアリアは、起き上がって、俺を上から見下ろした。

「ねえ、ジャラール。私、身代わりでもいいわよ。」

「そんなの、ダメだよ。」

「いいのよ。それで、ジャラールは元気になるんでしょ?」

「それでも、ダメだよ。」

俺も、起き上がった。

「だって、俺。アリアの事、好きなんだ。ネシャートの代わりなんて、俺が嫌だ。」

「ジャラール……」


同時に、二人の女性を愛するなんて、俺って自分勝手なのかな。

「嬉しい。」

でも、目の前にいるアリアは、とても嬉しそうにしている。

「私も、ジャラールの事が好きよ。だから、あなたの側にいられるなら、代わりでもいいって、そう思ったんだけど……」

アリアは、俺の目を見つめる。

「……その必要は、ないの?」

「ないよ。俺は、アリアの側にいる時は、アリア自身を見ているよ。他の代わりなんかじゃない。」

だけどアリアは、ため息をついた。

結構、ドキドキしながら言ったんだけどな。

「何か、気に食わないところがあった?」

「だって、私の側にいる時って……じゃあ、私が側にいない時は、その妹さんを、想っているの?」

「うーん。難しい質問。」

俺は目を瞑って、考えた。


「アリアが側にいない時……いない時……剣術の稽古の事、勉強の事……この国の行き先……」

「はあ?この国の行き先!?王様でもないのに!?」

俺は、ムッとした。

「国王じゃなくたって、この国の事を考えても、いいじゃないか!」

「だって、考えたところで、それをどこで発揮するのよ。」

「どこで?」

また、俺は目を瞑って、考えた。


そうだ。

俺は国王になる訳でもないのだから、考えても無駄って言えば、無駄だ。
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