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3、部長の失恋と、年下部下の甘い牙
獣の顔、知っていますか?
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「ここ、個室じゃないと落ち着かないでしょ」
連れて来られたのは、ちょっと洒落たダイニングバーだった。
個室のソファ席に案内され、私はそっとため息をついた。
正直、まだ気持ちの整理はついていない。
けれど、陸の前では自然と力が抜けていた。
彼は変に気を遣わず、いつも通りでいてくれる。
「部長、お酒強いですよね。何飲みます?」
「今日は……軽くでいいわ。」
軽く。あくまで“残念会”。それ以上でもそれ以下でもない。
そんなつもりで、グラスを交わした。
けれど、どこかいつもと違った。
彼の視線はまっすぐで、何度も私の瞳を射抜いてくる。
冗談を飛ばして笑い合いながらも、ふとした間に熱が潜んでいた。
「……私、今日さ、振られたの。」
ぽつりとこぼした言葉に、グラスの中の氷が揺れた。
陸は返事をしないまま、少しだけ身を乗り出した。
「俺じゃ、ダメなんですか?」
「えっ……?」
「ずっと、見てました。部長のこと。」
彼の声は低く、いつもよりずっと男らしい音をしていた。
驚いて何かを返そうとしたけれど、言葉が出てこない。
心が、ついていかない。
「俺、忠犬でしたよね? 何でも言うこと聞く、便利な部下。」
そう言って、彼は苦笑した。
「でも、今日だけは……従えそうにないんです。」
手が、そっと私の手に重なる。
その温度に、息が詰まった。
「沙耶さん。」
名前を呼ばれた瞬間、ぞくりと背筋が震えた。
「……それ、職場で呼ぶなって言ったのに。」
「じゃあ、今は“部長”じゃないってことで。」
ふいに、彼の手が私の頬に触れた。
肌が熱い。いや、きっと私の方がもっと。
「……ねぇ、帰ろうか。」
「え?」
「俺の家、近いんです。」
その言葉に、何も言い返せなかった。
このまま断れば、いつもの関係に戻れる。
でも、そうすれば、きっと私は――後悔する。
タクシーに乗るまで、何も話さなかった。
ただ手だけが、しっかりとつながれていた。
彼の部屋は、シンプルで清潔だった。
靴を脱いだ途端、ふわりと抱き寄せられる。
「ずっと、触れたかった。」
囁くような声とともに、唇が重なった。
深く、熱く、求めるように。
キスひとつで、私はもう動けなかった。
その舌が触れるたび、心が、身体が、彼に染まっていく。
ソファに押し倒され、彼の手が服の隙間に滑り込む。
「我慢してたんです、ずっと。……今日で、終わりにします。」
シャツのボタンが外され、ブラウスの中に彼の熱い手のひらが這う。
指先が触れるたび、私の声が震えた。
「部長の全部……俺だけにください。」
その言葉に、抗う力はもう残っていなかった。
忠犬だと思っていた彼が、こんなにもオスのように情熱的だったなんて――
知らなかった。
連れて来られたのは、ちょっと洒落たダイニングバーだった。
個室のソファ席に案内され、私はそっとため息をついた。
正直、まだ気持ちの整理はついていない。
けれど、陸の前では自然と力が抜けていた。
彼は変に気を遣わず、いつも通りでいてくれる。
「部長、お酒強いですよね。何飲みます?」
「今日は……軽くでいいわ。」
軽く。あくまで“残念会”。それ以上でもそれ以下でもない。
そんなつもりで、グラスを交わした。
けれど、どこかいつもと違った。
彼の視線はまっすぐで、何度も私の瞳を射抜いてくる。
冗談を飛ばして笑い合いながらも、ふとした間に熱が潜んでいた。
「……私、今日さ、振られたの。」
ぽつりとこぼした言葉に、グラスの中の氷が揺れた。
陸は返事をしないまま、少しだけ身を乗り出した。
「俺じゃ、ダメなんですか?」
「えっ……?」
「ずっと、見てました。部長のこと。」
彼の声は低く、いつもよりずっと男らしい音をしていた。
驚いて何かを返そうとしたけれど、言葉が出てこない。
心が、ついていかない。
「俺、忠犬でしたよね? 何でも言うこと聞く、便利な部下。」
そう言って、彼は苦笑した。
「でも、今日だけは……従えそうにないんです。」
手が、そっと私の手に重なる。
その温度に、息が詰まった。
「沙耶さん。」
名前を呼ばれた瞬間、ぞくりと背筋が震えた。
「……それ、職場で呼ぶなって言ったのに。」
「じゃあ、今は“部長”じゃないってことで。」
ふいに、彼の手が私の頬に触れた。
肌が熱い。いや、きっと私の方がもっと。
「……ねぇ、帰ろうか。」
「え?」
「俺の家、近いんです。」
その言葉に、何も言い返せなかった。
このまま断れば、いつもの関係に戻れる。
でも、そうすれば、きっと私は――後悔する。
タクシーに乗るまで、何も話さなかった。
ただ手だけが、しっかりとつながれていた。
彼の部屋は、シンプルで清潔だった。
靴を脱いだ途端、ふわりと抱き寄せられる。
「ずっと、触れたかった。」
囁くような声とともに、唇が重なった。
深く、熱く、求めるように。
キスひとつで、私はもう動けなかった。
その舌が触れるたび、心が、身体が、彼に染まっていく。
ソファに押し倒され、彼の手が服の隙間に滑り込む。
「我慢してたんです、ずっと。……今日で、終わりにします。」
シャツのボタンが外され、ブラウスの中に彼の熱い手のひらが這う。
指先が触れるたび、私の声が震えた。
「部長の全部……俺だけにください。」
その言葉に、抗う力はもう残っていなかった。
忠犬だと思っていた彼が、こんなにもオスのように情熱的だったなんて――
知らなかった。
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