欲望のシーツに沈む夜~50のベッドの記憶~

日下奈緒

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3、部長の失恋と、年下部下の甘い牙

もう、部長じゃなくても

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家に着き、先にシャワーを浴びた陸が戻ってきたとき――

彼の表情は、もう“部下”ではなかった。

あれは、まぎれもなく“オス”の顔だった。

今から私を、ひとりの女として抱こうとする男の顔。

「何もかも、俺に任せて。」

そう言って微笑むその顔に、心臓が跳ねた。

そんなセリフ、本当に言う人がいるなんて……恥ずかしさと期待がないまぜになって、頬が熱を持つ。

でも、逃げる隙間はなかった。

気づけば、私たちは肌を重ね、すべてを脱ぎ捨てていた。

「俺、途中でやめないから。」

その囁きの直後、陸の腰が激しく動き始める。

吐息が混ざり合い、深く、奥まで突き上げてくる彼の熱。

ベッドが軋み、快感の波が何度も押し寄せてくる。

こんなふうに、欲しがられるなんて――

私はもう、完全に彼に飲み込まれていた。

乱れたシーツの中、まだ身体の奥に熱を残したまま、私は彼の腕の中にいた。

「沙耶。」

耳元で囁かれた名前に、びくりと肩が跳ねる。

いつもは“部長”って呼ぶくせに――。

「……部長だってば。」

そう言い返すと、彼はいたずらっぽく笑って私の額にキスを落とした。

「もう部長じゃない。俺の女、でしょ?」

そんなストレートな言葉に、胸がキュッと締めつけられる。

恥ずかしさで顔をそむけようとすると、彼の腕が私を引き寄せた。

腕枕。

そのぬくもりがやけに優しくて、さっきまでの“獣”とは思えない。

指先がゆっくりと私の髪を撫でるたび、心がとろけていく。

こんなふうに愛されたの、いつぶりだろう――

私はそっと目を閉じた。

翌朝、出社した彼は、まるで昨夜のことなどなかったかのように、いつもの“忠犬”に戻っていた。

「部長、この資料、デスクに置いておきますね。」

「えっ!もうできたの?」

そのスピードに、思わず目を見張る。

「相変わらず、仕事が早いわね。」

そう言うと、彼は少し得意げに微笑んだ。

「この忠犬、部長に頼まれた仕事だけは、最優先で終わらせますから。」

「……何それ。」

思わず吹き出した私に、彼はわざとらしく肩をすくめてみせる。

当たり前じゃないですか――そう言ったあと、ふと私を振り返った。

その一瞬。

さっきまでの笑顔が消え、真っ直ぐに見つめる視線に、心臓が跳ねた。

あの目は――昨夜、私を何度も貫いた“オスの顔”。

「沙耶。」

誰にも聞こえないような小声で、彼が囁く。

「……今夜も、いいですよね?」

甘く、低く、熱を含んだその声に、私は返事ができなかった。

ただ、顔を背けたまま、頬が赤くなっていくのを止められなかった――。
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