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第4章 追いかけた先に、あなたがいた
③
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怖かった。不安だった。会いたかった――そして今、ちゃんと来てくれた。
「副社長……ご存じのお客様でしたか?」
警備員の表情が変わる。手も、そっと離された。
「うちの受付がご迷惑をかけたようで、すみません。」
「いえ……こちらこそ、確認不足で失礼しました。」
そう言って頭を下げた警備員の姿が遠のく中で、私は玲央さんの腕の中にいた。
「大丈夫?」
「はい……でも、会えて、よかった。」
玲央さんは少し困ったように笑って、でもその瞳は真剣だった。
「どうしたの?」
優しい声に顔を伏せたまま答えられないでいると、玲央さんがそっと屈んで、私の目を覗き込んだ。
「もしかして……俺に会いに来てくれた?」
私はゆっくり顔を上げた。
そこには、頬を赤く染めた玲央さんがいた。
照れくさそうに、でも嬉しそうに、目元が少し緩んでいる。
私は、こくんと大きく頷いた。
「……何か、OLみたいな恰好してるからさ。一瞬、見間違いかと思ったよ。」
玲央さんは、ちょっとだけ笑った。
その笑顔が、たまらなく懐かしくて愛おしくて。
「来てよかった。」
ぽつりと、そう呟いた私の声に、玲央さんが「ひよりさん」と優しく呼んだ。
気づけば、私は玲央さんにしがみついていた。
抑えきれなかった。ずっとずっと、こうしたかった。
「……会いたかった。」
その言葉が喉の奥からこぼれる。
震える声で、まるで子どもみたいに。
「……俺もだよ。」
玲央さんの腕が、そっと私の背中を包み込む。
この温もりは、本物だ。
まるで時間が止まったみたいに、静かに、ゆっくりと、心がほどけていく。
ビルの前の喧騒も、通り過ぎる人の目も、今は何も気にならなかった。
ただ、ようやく――この気持ちが通じた。
しばらくそのまま抱きしめ合っていたけれど、玲央さんは、そっと私を引き離した。
「ごめん。もう……会わないって、言っておきながら。」
「ううん。」
私は首を横に振った。
「会いたかったから。玲央さんに……会いたかったから。」
玲央さんの瞳をまっすぐ見つめると、彼は視線を逸らすように、横を向いた。
「……ごめん。それ以上言われると、期待してしまう。」
「期待?」
私は少し身をずらし、彼の視線に入るように顔を覗き込んだ。
「何を?」
その瞬間、玲央さんの表情が、少しだけ歪んだ。
そして、かすれるような声で答えた。
「……君と一緒にいられるじゃないかって。」
――心がきゅうっとなる。
そんなの、私だって、ずっと期待してた。
「じゃあ……期待しても、いいよ。」
気づいたら、そんな言葉が口をついていた。
玲央さんの目が、驚いたように私を見た。
私は小さく笑って、そっと手を伸ばす。
「私、ちゃんと気持ち伝える。何度でも。玲央さんが、忘れようとしても、私が全部思い出させる。」
「副社長……ご存じのお客様でしたか?」
警備員の表情が変わる。手も、そっと離された。
「うちの受付がご迷惑をかけたようで、すみません。」
「いえ……こちらこそ、確認不足で失礼しました。」
そう言って頭を下げた警備員の姿が遠のく中で、私は玲央さんの腕の中にいた。
「大丈夫?」
「はい……でも、会えて、よかった。」
玲央さんは少し困ったように笑って、でもその瞳は真剣だった。
「どうしたの?」
優しい声に顔を伏せたまま答えられないでいると、玲央さんがそっと屈んで、私の目を覗き込んだ。
「もしかして……俺に会いに来てくれた?」
私はゆっくり顔を上げた。
そこには、頬を赤く染めた玲央さんがいた。
照れくさそうに、でも嬉しそうに、目元が少し緩んでいる。
私は、こくんと大きく頷いた。
「……何か、OLみたいな恰好してるからさ。一瞬、見間違いかと思ったよ。」
玲央さんは、ちょっとだけ笑った。
その笑顔が、たまらなく懐かしくて愛おしくて。
「来てよかった。」
ぽつりと、そう呟いた私の声に、玲央さんが「ひよりさん」と優しく呼んだ。
気づけば、私は玲央さんにしがみついていた。
抑えきれなかった。ずっとずっと、こうしたかった。
「……会いたかった。」
その言葉が喉の奥からこぼれる。
震える声で、まるで子どもみたいに。
「……俺もだよ。」
玲央さんの腕が、そっと私の背中を包み込む。
この温もりは、本物だ。
まるで時間が止まったみたいに、静かに、ゆっくりと、心がほどけていく。
ビルの前の喧騒も、通り過ぎる人の目も、今は何も気にならなかった。
ただ、ようやく――この気持ちが通じた。
しばらくそのまま抱きしめ合っていたけれど、玲央さんは、そっと私を引き離した。
「ごめん。もう……会わないって、言っておきながら。」
「ううん。」
私は首を横に振った。
「会いたかったから。玲央さんに……会いたかったから。」
玲央さんの瞳をまっすぐ見つめると、彼は視線を逸らすように、横を向いた。
「……ごめん。それ以上言われると、期待してしまう。」
「期待?」
私は少し身をずらし、彼の視線に入るように顔を覗き込んだ。
「何を?」
その瞬間、玲央さんの表情が、少しだけ歪んだ。
そして、かすれるような声で答えた。
「……君と一緒にいられるじゃないかって。」
――心がきゅうっとなる。
そんなの、私だって、ずっと期待してた。
「じゃあ……期待しても、いいよ。」
気づいたら、そんな言葉が口をついていた。
玲央さんの目が、驚いたように私を見た。
私は小さく笑って、そっと手を伸ばす。
「私、ちゃんと気持ち伝える。何度でも。玲央さんが、忘れようとしても、私が全部思い出させる。」
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