神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第3部 絡まる心と想い ②

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「キャッ……!」

思わず目を閉じたその瞬間――

ズバッ!

何かが引き裂かれる、生々しい音が響いた。

恐る恐る目を開けると、目の前で黒い魔物の身体が宙を舞い、粉々に砕けていく。

その中心に立つのは――レオ様だった。

金色の瞳が、まっすぐ魔物を睨みつけている。

その姿は、まるで神話の中の英雄のようだった。

「レオ様っ!」

私は思わず声を上げた。

「下がっていろ、エミリア。」

短く言うと、レオ様は再び剣を構え、次々と魔物へ斬りかかる。

魔物たちはまるで怯えたように後退し始めた。

……強い。なんて、強い人なの。

やがて、最後の魔物が倒れた。

レオ様は静かに剣を収めると、私の方へと戻って来た。

「大丈夫か? エミリア」

「はい……はいっ!」

胸が高鳴って止まらない。

「俺がついてきてよかった。」

そう言って、微笑む彼の額に、汗がにじんでいた。

「それは……?」

レオ様は、手にした剣を私に見せた。

「魔物を退治する、伝説の剣だ。……実はこれ、騎士団長でも持てない。国王直属の守護剣だからな。」

細身でありながら、魔物を切り裂く凄まじい威圧感を放つ聖剣。

その輝きが、レオ様の気高さを映しているようだった。

しかし――

「っ、レオ様!」

彼の腕から、赤い血が流れていた。

「どうして……!」

「はは、大した傷じゃないよ。ちょっとかすっただけ。」

そう言って笑おうとするレオ様の手を、私はそっと取った。

「すぐに、癒します。私の力で……!」

私の手から、淡い光が灯る。

それは、彼を守ってくれたことへの、感謝と誓いの光だった。

「すごい……みるみる傷が癒えていく。」

レオ様が、目を見開いて私の手元を見ていた。

私の掌から放たれる淡い光が、彼の腕の傷を包み込み、ゆっくりと閉じていく。

だけど――

「うっ……」

目の前がふっと霞んだ。

膝が崩れ、私はそのまま前のめりに倒れ込んでしまう。

「……エミリア!」

すぐに、強い腕が私を受け止めてくれた。

「レオ様……」

私の頭をそっと抱き寄せると、彼は顔を曇らせた。

「……俺のために、無理をして……」

優しい声が、耳元に染み込む。

初めて見る、こんな悲しそうな顔――

「ごめんなさい、まだ……浄化が終わってなくて……」

「心配するな。浄化は、あとでいい。」

「でも、私……」

「いいんだ。少し、休め。」

そう言って、彼は私を自分の膝に抱き上げるように座らせてくれた。

まるで壊れ物を扱うように、優しく、丁寧に。

「俺の腕の中なら、安心できるだろ?」

そうささやかれた瞬間、まぶたがとろんと重くなる。

気づけば私は、彼の温もりの中で、目を閉じていた。

ああ、なんてあったかい――。

これが、守られるということなんだ。

私の頬に触れる指先が、優しくて、優しくて……

私は夢の中へと、落ちていった。
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