神託で選ばれたのは聖女の私!? 皇太子の溺愛が止まらない【完結】

日下奈緒

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第9部 魔女クラリーチェとの激闘 ⑦

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「あっ……あっ……いやっ……!」

クラリーチェの叫び声が、大広間に響き渡った。

その身体に絡みつく青黒い魔力の奔流――

「マル=ナル・サエルヴァ……!」

古の魔女の王。その邪なる魂が、今まさにクラリーチェを“器”として完全に支配しようとしていた。

「くっ……!」

私は一歩前に出た。レオも隣に並び、共に剣を握る。

「討つべきは……マル=ナル・サエルヴァの本体か!」

「クラリーチェを……救う!」

私たちは聖剣を同時に構えた。サエーナの遺した、神聖なる力。

「う、うわああああ!」

クラリーチェの瞳から光が失われていく。

髪が宙に舞い、まるで別人のように口元が吊り上がる。

『フフフフ……ようやくこの時が来た。人間どもを滅ぼし、魔女の王国を築くのだ……!』

その声はもう、クラリーチェのものではなかった。

「クラリーチェ……!」

私は震える手で、レオの手の上に自分の手を重ねた。

「お願い……もう一度だけ、あの子に届いて……!」

私は目を閉じた。心の奥にある“祈り”を、聖剣に込めて。

「どうか……この剣に宿る聖なる力よ――愛を知らぬ魂を討ち、クラリーチェを救って!」

その瞬間、眩い光が剣から放たれた!

レオと私の身体が、聖なる光に包まれる。

そしてその光は一直線に、魔の核を飲み込んでいたクラリーチェへと放たれ――

「うわあああああああっ!!」

クラリーチェの身体が空に浮かび、叫びながら、内側から輝きはじめる――

「――光が……届いてる……!」

私の手と、レオの手に宿る聖剣の輝きが、クラリーチェの全身を包み込んだ。

「う……ああ……っ!」

クラリーチェの身体が仰け反り、空中で痙攣するように震える。

『やめろ……貴様らぁあああ!!』

それはもう、クラリーチェの声ではなかった。

黒く瘴気のように膨れ上がっていた魔力の核から、青黒い影がゆっくりと剥がれはじめたのだ。

「うわああああああああああああああああっっ!!」

――バキィン!

空気が裂ける音とともに、クラリーチェの胸元から何かが“はがれる”ように、青黒い塊が浮かび上がった。

『貴様……貴様だけは……!王族の血と、聖女の力……!我が破滅を運ぶ、忌まわしき運命……ッ!』

その“影”のような魂が、悍ましい顔を作り上げ、こちらに爪を向ける。

「レオ、今よ!」

「おおおおおっ!!」

「マル=ナル・サエルヴァ! 闇へ還れ!」

聖剣が眩い閃光を放ち、空気が震えるような爆音が鳴り響いた。だが――

『還るものかあああああああ!!』

マル=ナルの魂は、まるで深淵から這い出した怨嗟の塊のように、光に抗って呻いた。

クラリーチェの身体からなおも引き剥がされまいと、黒き鎖のような魔力を這わせてくる。

「くっ……! 強い……!」

聖剣を握る腕が、しなるように痺れた。その時だった――

――ふいに、誰かの手が、私たちの上から重なる。

『手を貸す!』

太く、低く、そして優しさを含んだ声。
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