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第17話 誕生
①
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そして月日は流れ、黄杏は産み月を迎えた。
「大丈夫ですよ、黄杏様。案ずるより産むが安しと申しますから。」
王宮付きの産婆が、黄杏に穏やかに、声を掛けた。
「はい。」
二度目の妊娠とは言え、一度目は残念な結果になった黄杏。
お腹の中の御子が、生きて産まれてくる事が、何よりも望みだった。
「元気に生まれてくるのであれば、姫君でもよい。」
毎晩添い寝する信志は、いつもそう、黄杏に言い聞かせた。
「周りは、特に白蓮が言う事は、気にするな。産まれてくる御子は、皆、宝に等しい。」
信志は、黄杏の体を撫でる。
「はい。その言葉、有難く頂戴いたします。」
自分が恋慕う相手の、御子。
それだけで黄杏は、幸せな気持ちになるのだった。
「ああ、いつ産まれてくるのであろう。」
信志は、今か今かと楽しみで仕方ない。
「もう少しでございますよ。」
黄杏も、お腹の御子が、産まれてくるが楽しみで仕方ない。
いや、それは……
王宮中が、待ち望んでいるに、違いなかった。
ある日黄杏が、外を散歩していると、急にお腹が痛くなった。
「うぅぅぅ……」
「黄杏様?」
女人が、黄杏に駆け寄る。
「産まれそう……」
「まあ、大変!」
女人は直ちに、黄杏を白蓮の屋敷の中にある、医療所に運んだ。
「まあ、陣痛が始まっているだろうね。」
それなのに、産婆はのほほんとしている。
「あの……お産の準備をしなくても、よろしいのですか?」
女人が慌てて、産婆に尋ねる。
「なあに。そう、慌てなくてもよい。産まれるのは、明日かもしれんし、明後日になるかもしれん。」
「明日?明後日で、ございますか?」
黄杏は、この苦しみがまだまだ続くのかと思うと、気が遠くなりそうだった。
「黄杏様。痛みの波が、もっと短くなったら、教えて下さいよ。」
「はぁ、はあ……」
そんな事を言われても、痛みに耐えるだけで、精一杯だ。
「ほほほ。苦しかろう。皆、そういうものじゃ。」
耐え難い痛みの中で、黄杏の額から、脂汗が滴り落ちる。
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ。どんなにもがき苦しもうとも、産まれてこなかった子は、今までおらん。」
黄杏は、荒い息の中、前に宿した御子を、思い出した。
「……私の、初めての御子は、産まれませんでした。」
「お腹の中で死んだとしても、お腹の外には、出てきたであろう?そういうものじゃ。」
何を言っても、呑気にお茶をすすっている産婆。
そんな産婆に、黄杏は話しかけてみた。
「産婆さんは、お子さんはいらっしゃるのですか?」
「ああ、5人産んだ。」
「皆、無事産まれたのですか?」
「一人は、黄杏様と一緒。腹の中で死んでしまった。他の4人のうち、二人は赤子の時に、死んだ。結局、大人になったのは、二人だけよ。」
そう言って、産婆は笑っている。
「……辛い思いを、なさったのですね。」
「ああ、そうじゃな。だが、産む時は、痛みに耐えるだけで、いっぱいじゃったよ。」
黄杏は、なぜか微笑む事ができた。
自分も一緒。
産みの苦しみに、今は耐えるだけしかできない。
「波が治まったら、握り飯でもいいから、食べておきなさいよ。腹が減って、力が出ないのでは、産まれるものも、産まれん。」
「はい……」
黄杏は、痛みの波が治まると、女人に差し出されたおにぎりに、手を伸ばすが、直ぐにまた、痛みが襲ってくる。
「無理せんでええよ。食べれる時に食べて、眠れる時に寝ておきんさい。」
そう言って産婆は、また呑気にお茶をすすっていた。
「……紅梅も同じように、苦しんでいたのですか?」
「ああ!あの子はな。そんなに痛そうにはしておらんかった。元来、痛みに強いお人なのかもしれん。」
黄杏は、紅梅が羨ましくなった。
思えば、自分の人生、苦しさや痛みなど、ほとんどなく過ごしてきた。
「……人生って、上手くできているんですね。」
「何を言うんじゃ。苦しまずに産んだら、その後の長い間、可愛がって育てようとは、思わんじゃろうに。」
「そう……ですね。」
黄杏は、度々襲ってくる耐えがたい痛みに、何とか耐えていた。
「うー……」
「ああ、そうやって声を出して、耐えておれ。産むには、もう少し時間がかかるんでな。」
産婆はそう言うと、窓のから外を眺めている。
「陽も落ちてきてか。産むのは、明日になりそうだ。」
「明日……」
黄杏は、この苦しみが明日まで続くかと思うと、気が遠くなりそうだった。
「黄杏様……」
そんな黄杏に、女人が手を伸ばした時だ。
「ああ、いい。眠れるんだって、寝ておきんさい。じゃなければ明日産む時の体力が、無くなってしまうでな。」
あくまで、産婆は冷静だ。
その時だ。
公務を終えた信志が、黄杏の元を訪れた。
「黄杏、陣痛がきたと聞いた。」
「信志様。」
黄杏が手を差し出すと、信志はその手を握る。
「ほほう。」
その様子を産婆が見て、にこにこ微笑みだした。
「仲がよろしいこと。でも、王ができることは、ありませぬ。」
せっかくのいい場面を、信志は邪魔されたようで、機嫌が悪い。
「何もできぬとは……励ますくらいはできるだろう。」
「確かにそうでありますね。」
そう言うと産婆は、少し後ろへ下がった。
しばらくして、黄杏はまた唸りだした。
「うぅぅ……ううう!」
「黄杏、しっかりしろ!」
すると産婆は、黄杏の腰を摩り始めた。
「こうすると、少しは痛みが和らぐのですよ、王。」
「ああ、そうか。」
信志は、産婆に言われた通り、黄杏の腰を撫でた。
「まだ産まれぬのか?」
「はっはー!そう、焦らさんな。産まれるのは、明日でございますじゃ。」
「明日!」
信志も黄杏と同じように、力が抜ける感じがした。
「そう簡単に、人は産まれんじゃて。おう、そうじゃ。王の母君もそうじゃった。」
信志は、産婆の方を見た。
「私の、母君?」
「ああ。王の母君・雪賢様は、王族の産まれでのう。白蓮様と同じように、この王宮でお生まれなさった。」
「……母が産まれた時の事を、知っているのですか?」
「知ってるも何も、我が産婆になって、初めて取り上げた御子様じゃ。」
シワシワの顔の産婆が、急に若い、初々しい産婆に見えた。
「先輩の産婆と共に、初めて人が産まれるのを見た。珠のように美しい姫君でのう。だが王族の中でも身分が低く、体が弱かった故、臣下へ嫁に出されるはずじゃった。」
産婆は、どこか一点を見つめている。
恐らく美しく成長した、母・雪賢を思い出しているのだろう。
「だが王の父君は、そのお美しい雪賢様を、見逃しはしなかった。周囲の反対を押し切って、お妃様に迎えた。次にお会いしたのは、雪賢様の出産の時じゃった。あの御子様が、今度は御子を産むのかと、胸が熱くなった。」
産婆は黄杏に、その雪賢を写しているようだった。
「あの方も、王をお産みなさるのに、2日ばかりかかった。もしかしたら、黄杏様も次代の王を、お産みなさるのかもしれぬな。」
「大丈夫ですよ、黄杏様。案ずるより産むが安しと申しますから。」
王宮付きの産婆が、黄杏に穏やかに、声を掛けた。
「はい。」
二度目の妊娠とは言え、一度目は残念な結果になった黄杏。
お腹の中の御子が、生きて産まれてくる事が、何よりも望みだった。
「元気に生まれてくるのであれば、姫君でもよい。」
毎晩添い寝する信志は、いつもそう、黄杏に言い聞かせた。
「周りは、特に白蓮が言う事は、気にするな。産まれてくる御子は、皆、宝に等しい。」
信志は、黄杏の体を撫でる。
「はい。その言葉、有難く頂戴いたします。」
自分が恋慕う相手の、御子。
それだけで黄杏は、幸せな気持ちになるのだった。
「ああ、いつ産まれてくるのであろう。」
信志は、今か今かと楽しみで仕方ない。
「もう少しでございますよ。」
黄杏も、お腹の御子が、産まれてくるが楽しみで仕方ない。
いや、それは……
王宮中が、待ち望んでいるに、違いなかった。
ある日黄杏が、外を散歩していると、急にお腹が痛くなった。
「うぅぅぅ……」
「黄杏様?」
女人が、黄杏に駆け寄る。
「産まれそう……」
「まあ、大変!」
女人は直ちに、黄杏を白蓮の屋敷の中にある、医療所に運んだ。
「まあ、陣痛が始まっているだろうね。」
それなのに、産婆はのほほんとしている。
「あの……お産の準備をしなくても、よろしいのですか?」
女人が慌てて、産婆に尋ねる。
「なあに。そう、慌てなくてもよい。産まれるのは、明日かもしれんし、明後日になるかもしれん。」
「明日?明後日で、ございますか?」
黄杏は、この苦しみがまだまだ続くのかと思うと、気が遠くなりそうだった。
「黄杏様。痛みの波が、もっと短くなったら、教えて下さいよ。」
「はぁ、はあ……」
そんな事を言われても、痛みに耐えるだけで、精一杯だ。
「ほほほ。苦しかろう。皆、そういうものじゃ。」
耐え難い痛みの中で、黄杏の額から、脂汗が滴り落ちる。
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ。どんなにもがき苦しもうとも、産まれてこなかった子は、今までおらん。」
黄杏は、荒い息の中、前に宿した御子を、思い出した。
「……私の、初めての御子は、産まれませんでした。」
「お腹の中で死んだとしても、お腹の外には、出てきたであろう?そういうものじゃ。」
何を言っても、呑気にお茶をすすっている産婆。
そんな産婆に、黄杏は話しかけてみた。
「産婆さんは、お子さんはいらっしゃるのですか?」
「ああ、5人産んだ。」
「皆、無事産まれたのですか?」
「一人は、黄杏様と一緒。腹の中で死んでしまった。他の4人のうち、二人は赤子の時に、死んだ。結局、大人になったのは、二人だけよ。」
そう言って、産婆は笑っている。
「……辛い思いを、なさったのですね。」
「ああ、そうじゃな。だが、産む時は、痛みに耐えるだけで、いっぱいじゃったよ。」
黄杏は、なぜか微笑む事ができた。
自分も一緒。
産みの苦しみに、今は耐えるだけしかできない。
「波が治まったら、握り飯でもいいから、食べておきなさいよ。腹が減って、力が出ないのでは、産まれるものも、産まれん。」
「はい……」
黄杏は、痛みの波が治まると、女人に差し出されたおにぎりに、手を伸ばすが、直ぐにまた、痛みが襲ってくる。
「無理せんでええよ。食べれる時に食べて、眠れる時に寝ておきんさい。」
そう言って産婆は、また呑気にお茶をすすっていた。
「……紅梅も同じように、苦しんでいたのですか?」
「ああ!あの子はな。そんなに痛そうにはしておらんかった。元来、痛みに強いお人なのかもしれん。」
黄杏は、紅梅が羨ましくなった。
思えば、自分の人生、苦しさや痛みなど、ほとんどなく過ごしてきた。
「……人生って、上手くできているんですね。」
「何を言うんじゃ。苦しまずに産んだら、その後の長い間、可愛がって育てようとは、思わんじゃろうに。」
「そう……ですね。」
黄杏は、度々襲ってくる耐えがたい痛みに、何とか耐えていた。
「うー……」
「ああ、そうやって声を出して、耐えておれ。産むには、もう少し時間がかかるんでな。」
産婆はそう言うと、窓のから外を眺めている。
「陽も落ちてきてか。産むのは、明日になりそうだ。」
「明日……」
黄杏は、この苦しみが明日まで続くかと思うと、気が遠くなりそうだった。
「黄杏様……」
そんな黄杏に、女人が手を伸ばした時だ。
「ああ、いい。眠れるんだって、寝ておきんさい。じゃなければ明日産む時の体力が、無くなってしまうでな。」
あくまで、産婆は冷静だ。
その時だ。
公務を終えた信志が、黄杏の元を訪れた。
「黄杏、陣痛がきたと聞いた。」
「信志様。」
黄杏が手を差し出すと、信志はその手を握る。
「ほほう。」
その様子を産婆が見て、にこにこ微笑みだした。
「仲がよろしいこと。でも、王ができることは、ありませぬ。」
せっかくのいい場面を、信志は邪魔されたようで、機嫌が悪い。
「何もできぬとは……励ますくらいはできるだろう。」
「確かにそうでありますね。」
そう言うと産婆は、少し後ろへ下がった。
しばらくして、黄杏はまた唸りだした。
「うぅぅ……ううう!」
「黄杏、しっかりしろ!」
すると産婆は、黄杏の腰を摩り始めた。
「こうすると、少しは痛みが和らぐのですよ、王。」
「ああ、そうか。」
信志は、産婆に言われた通り、黄杏の腰を撫でた。
「まだ産まれぬのか?」
「はっはー!そう、焦らさんな。産まれるのは、明日でございますじゃ。」
「明日!」
信志も黄杏と同じように、力が抜ける感じがした。
「そう簡単に、人は産まれんじゃて。おう、そうじゃ。王の母君もそうじゃった。」
信志は、産婆の方を見た。
「私の、母君?」
「ああ。王の母君・雪賢様は、王族の産まれでのう。白蓮様と同じように、この王宮でお生まれなさった。」
「……母が産まれた時の事を、知っているのですか?」
「知ってるも何も、我が産婆になって、初めて取り上げた御子様じゃ。」
シワシワの顔の産婆が、急に若い、初々しい産婆に見えた。
「先輩の産婆と共に、初めて人が産まれるのを見た。珠のように美しい姫君でのう。だが王族の中でも身分が低く、体が弱かった故、臣下へ嫁に出されるはずじゃった。」
産婆は、どこか一点を見つめている。
恐らく美しく成長した、母・雪賢を思い出しているのだろう。
「だが王の父君は、そのお美しい雪賢様を、見逃しはしなかった。周囲の反対を押し切って、お妃様に迎えた。次にお会いしたのは、雪賢様の出産の時じゃった。あの御子様が、今度は御子を産むのかと、胸が熱くなった。」
産婆は黄杏に、その雪賢を写しているようだった。
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