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第8部 婚姻の宣言 ②
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「気づいても……遅かったけれど。」
その背中に、私は何も言えなかった。
そして週が明けると、王宮に一つの知らせが響いた。
「第3皇子・アシュレイとカトリーナ妃の離婚を、ここに宣言する。」
王の重々しい声が、玉座の間に響く。
その場に居並ぶ貴族たちの中には、ささやく者、顔を見合わせる者もいた。
だが、主役の二人——アシュレイとカトリーナ妃は、ただ静かにその言葉を受け止めていた。
まるで、すでにすべてを覚悟し終えているかのように。
そして式が終わり、玉座の間から退出する際。
アシュレイは一瞬、彼女の隣に並び、そっと声をかけた。
「カトリーナ……少しは、実家で休めそうか?」
その声に、カトリーナ妃はぴくりと眉を動かした。
だが、顔を上げることはなかった。
「……いえ。」
短く、力なく返されたその言葉には、どこか諦めにも似た哀しみが滲んでいた。
「早々に、次の嫁ぎ先が決まりました。」
カトリーナ妃は、どこか他人事のように言った。
「えっ……」
私の声に、彼女はわずかに口元を歪める。
「ブラウン伯爵の元へ。年も随分と上で……爵位も、私の家より下よ。」
アシュレイは目を伏せたまま、小さく息を吐く。
「そうか。」
その一言の後、しばらく沈黙が落ちた。
「今度は、幸せになってほしい。」
その言葉に、カトリーナは初めて驚いたような表情を見せる。
「……アシュレイ。」
「俺が……一度は、心から愛した人だから。」
そう言って、アシュレイは彼女の手をそっと取り、その甲に優しく口づけた。
二人の間に言葉はもうなかった。
別れのキスは情ではなく、惜別と祈りの証。
そしてそれを最後に、ふたりはもう振り返ることなく、それぞれの道を歩み始めた。
しばらくして、アシュレイは私を庭園の奥へと連れていった。
緑に囲まれた、ガラス張りの小さなハウス。
まるで童話の中に出てくる温室のように、光がやさしく差し込んでいた。
「素敵……」
思わずこぼれた言葉に、アシュレイが微笑む。
「この庭園を見ながら、お茶を楽しめるんだよ。静かで落ち着くだろう?」
私はうなずいた。ここだけ時間の流れがゆっくりになるようで、夢の中にいるようだった。
テーブルにはアシュレイが用意してくれた紅茶と、焼き菓子が並んでいる。
「リリアーナ。どう?ここの暮らしは。」
「はい。皆さんによくしてもらっています。」
本当は、「特にアシュレイに」と言いたかったけれど、少し照れてごまかした。
アシュレイはカップを手に取り、真っ直ぐ私を見つめる。
「……ここで生きていく覚悟は、できた?」
胸が少しだけ熱くなった。
その背中に、私は何も言えなかった。
そして週が明けると、王宮に一つの知らせが響いた。
「第3皇子・アシュレイとカトリーナ妃の離婚を、ここに宣言する。」
王の重々しい声が、玉座の間に響く。
その場に居並ぶ貴族たちの中には、ささやく者、顔を見合わせる者もいた。
だが、主役の二人——アシュレイとカトリーナ妃は、ただ静かにその言葉を受け止めていた。
まるで、すでにすべてを覚悟し終えているかのように。
そして式が終わり、玉座の間から退出する際。
アシュレイは一瞬、彼女の隣に並び、そっと声をかけた。
「カトリーナ……少しは、実家で休めそうか?」
その声に、カトリーナ妃はぴくりと眉を動かした。
だが、顔を上げることはなかった。
「……いえ。」
短く、力なく返されたその言葉には、どこか諦めにも似た哀しみが滲んでいた。
「早々に、次の嫁ぎ先が決まりました。」
カトリーナ妃は、どこか他人事のように言った。
「えっ……」
私の声に、彼女はわずかに口元を歪める。
「ブラウン伯爵の元へ。年も随分と上で……爵位も、私の家より下よ。」
アシュレイは目を伏せたまま、小さく息を吐く。
「そうか。」
その一言の後、しばらく沈黙が落ちた。
「今度は、幸せになってほしい。」
その言葉に、カトリーナは初めて驚いたような表情を見せる。
「……アシュレイ。」
「俺が……一度は、心から愛した人だから。」
そう言って、アシュレイは彼女の手をそっと取り、その甲に優しく口づけた。
二人の間に言葉はもうなかった。
別れのキスは情ではなく、惜別と祈りの証。
そしてそれを最後に、ふたりはもう振り返ることなく、それぞれの道を歩み始めた。
しばらくして、アシュレイは私を庭園の奥へと連れていった。
緑に囲まれた、ガラス張りの小さなハウス。
まるで童話の中に出てくる温室のように、光がやさしく差し込んでいた。
「素敵……」
思わずこぼれた言葉に、アシュレイが微笑む。
「この庭園を見ながら、お茶を楽しめるんだよ。静かで落ち着くだろう?」
私はうなずいた。ここだけ時間の流れがゆっくりになるようで、夢の中にいるようだった。
テーブルにはアシュレイが用意してくれた紅茶と、焼き菓子が並んでいる。
「リリアーナ。どう?ここの暮らしは。」
「はい。皆さんによくしてもらっています。」
本当は、「特にアシュレイに」と言いたかったけれど、少し照れてごまかした。
アシュレイはカップを手に取り、真っ直ぐ私を見つめる。
「……ここで生きていく覚悟は、できた?」
胸が少しだけ熱くなった。
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