第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第8部 婚姻の宣言 ③

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「そうね。まだ、私が王族として生きていけるとは、思っていないけれど……」

私はそっと、目の前のアシュレイを見つめた。

その横顔には、迷いも不安もない。

まるで未来を見据えているかのようだった。

「でも、あなたと一緒なら……乗り越えていけそうな気がするの。」

私の言葉に、アシュレイは優しく微笑むと、私の手をそっと取った。

その手は温かく、しっかりと私の指を包んでくる。

「君は……俺に、勇気と自信をくれたんだ。」

まっすぐに向けられたその瞳は、陽を受けたエメラルドのように力強く輝いていた。

「君を初めて抱いた時、この人を――リリアーナを、一生をかけて守り抜こうって、心に誓ったんだ。」

その声には、揺るぎない決意があった。

胸の奥がじんと熱くなる。

――私は、もう一人じゃない。アシュレイと共に生きていける。

そして、アシュレイが私の手を引き、そっと立たせた。

「えっ? 急に?」

驚く私を見て、彼はにこっと優しく笑った。

そして、まるで夢の中のように──私の目の前で、片膝をついた。

「アシュレイ……?」

夕陽が差し込む庭園のハウスの中。

風が花を揺らし、小鳥のさえずりが遠くで聞こえる。

その中で、彼の低く、そして確かな声が響いた。

「リリアーナ・ファルクレスト嬢。この第3皇子、アシュレイ・ルヴェールと……結婚してほしい。」

その瞳は、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも真剣だった。

ずっと夢に見た言葉。

でも、こんなおとぎ話のような場所で、それを言ってくれるなんて……思ってもみなかった。

胸が高鳴り、涙がこみあげる。

「私で……いいの?」

震える声でそう聞いた私に、アシュレイは、まるで抱きしめるように微笑んだ。

「君以外、考えられない。」

何を思ったのか、私の目からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。

止めようとしても、溢れてくる。

「……もし、他の令嬢たちがあなたに言い寄ってきたら?」

アシュレイは一瞬、目をぱちくりさせた。

「そんなの、全部断るだろ。」

当然のように言うその言葉に、胸がきゅっとなる。

「もし、国王陛下が別の令嬢を連れてきたら?」

「いや、父上は俺の気持ちを知ってるって。」

「もし……」

問いかけの途中で、アシュレイが声を荒げた。

「ああ、もう!」

そう言って、彼は私をぎゅっと強く抱きしめた。

「……俺と、結婚したくないの?」

その声には、どこか不安さえ滲んでいた。

私は、彼の胸に顔をうずめた。

「……そんなわけ、ない……」

震える声でそう返した瞬間、アシュレイの腕の力が少しだけ強くなった。

そのぬくもりが、私のすべてを包み込んでくれる気がした。

「リリアーナの正直な気持ち、聞かせて。」

宝石のように澄んだ瞳が、まっすぐに私を見つめてくる。

その瞳に映る自分を見て、私は迷わず言葉を紡いだ。

「私は……あなたと……」

「うん。」

「ずっと一緒にいたい。」

その瞬間、どちらからともなく、私たちは唇を重ねた。

ぬくもりが胸に満ちて、心がひとつになるのを感じた。

「ずっと一緒だよ。」

「うん……」

「結婚しようね。」

「うんっ!」

抱きしめられたその腕の中は、世界で一番あたたかかった。

私は今、確かに幸せを掴んだのだ。

王都に来て、アシュレイに出会って。

たくさん泣いて、悩んで、それでも……この人と出会えたから。

私は――しあわせです。
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