第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第9部 新しい妃として ①

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そして、私とアシュレイの婚礼の準備が始まった。

「純白のシルクに、可憐な花をあしらったレースを重ねましょう。」

仕立て屋の女性は、とても嬉しそうに提案してくれる。

「第3皇子殿下が、これほど熱を入れておられるのは珍しいことですわ。」

そう微笑まれて、胸がくすぐったくなる。

「前妃のときは、衣装も式も本当に簡素で……」

「本当に簡素で……」

「簡素?」

思わず聞き返すと、仕立て屋の女性が気まずそうに笑った。

「ええ、政略結婚だったからですかね。第3皇子のご婚礼なのに、正直お気の毒でしたよ。」

ドレスの最終調整が終わり、立ち上がろうとした時、部屋の扉がノックされる。

「リリアーナ、入ってもいい?」

「アシュレイ……」

彼は遠慮がちに入ってきたが、私を見るやいなや目を輝かせた。

「ああ、いいね。やっぱりリリアーナには、花をあしらったドレスが似合うと思ったんだ。」

私の顔ではなく、ドレスにじっと目を留めている彼に、思わずくすりと笑ってしまう。

「私じゃなくて、ドレスに夢中なの?」

「いやいや、ドレスを引き立ててるのはリリアーナだから。間違いなく。」

彼は照れたように笑い、そっと私の手を取った。

「君がこのドレスでバージンロードを歩くのを想像しただけで、胸がいっぱいになるよ。」

その優しい声に、胸がぎゅっとなった。

私は、彼に本当に愛されている。

そう実感する一瞬だった。

そして翌日。

結婚式のため、遠く北方の地から私の両親が王都にやってきた。

「リリアーナ!」

「お父さん、お母さん!」

その懐かしい声に、私は思わず駆け寄って抱きついた。ああ、いつぶりの再会だろう。

「本当に結婚するのね。まさか、ダリウスよりも先に嫁ぐなんて思ってなかったわ。」

母は頬を紅潮させ、目を細めて私のドレス姿を見つめた。

「私も、夢みたいなの……」

そう呟いた時だった。

「おい、見ろよ。さすが騎士の家だな。まったく華やかさがない。」

「親父も親父だし、娘も色気がないねぇ。」

声のする方を振り返ると、大臣たち数名が立っていた。

口元を隠して笑うその様子に、胸の奥がずんと重くなる。

「なあ、リリアーナ。相手の方って、偉い人なんだろ?どういう人なんだ?」

父の問いかけに、私は言葉を濁す。

「お父さん……」

「だって、このドレスだって生半可な額じゃないし、あそこにいた大臣たち、明らかに騎士の家を愚弄していたじゃないか。」

父の声には、怒りと不安が混ざっていた。

母も心配そうに私を見つめている。

「それは……」言いかけた瞬間、ふいにドアが開いた。

「初めまして。」

現れたのは、よく見慣れた深紅の軍服に身を包んだアシュレイだった。

「リリアーナさんの結婚相手の、アシュレイ・ルヴェールです。」
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