第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】

日下奈緒

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第9部 新しい妃として ③

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「その……リリアーナの、どこをそんなに気に入ってくれたのでしょうか。」

アシュレイは優しく微笑んだ。

「リリアーナさんは、僕を肩書きでも過去でもなく、“今の僕”を見てくれたんです。真っ直ぐに。……それが、僕に“本当の愛”を教えてくれたんです。」

その言葉に、私は胸がいっぱいになった。

両親は顔を見合わせる。

「正直、離婚された時は……アシュレイ殿下はもう、愛など信じない方だと、思っていました。」

母の声はどこか寂しげで、そして安堵しているようでもあった。

「僕も、そう思っていました。」

アシュレイは穏やかに言葉を重ねた。

「でも、リリアーナさんが僕の心を溶かしてくれたんです。だから今度こそ、大切にしたいんです。彼女の人生を、僕のすべてを懸けて幸せにしたい。」

父の頬が、わずかに緩んだように見えた。

「第3皇子、アシュレイ殿下。」
父は一歩前に出ると、まっすぐ背筋を伸ばし、深く敬礼した。

「どうか娘を、よろしくお願いいたします。どうかその手で、良き方向へ導いてやってください。」

騎士として、そして一人の父としての真摯な願いが、その言葉には込められていた。

アシュレイは静かに胸に手を当て、力強く答えた。

「僕のすべてをかけて、リリアーナさんを幸せにします。結婚のお許し、ありがたく頂戴いたします。」

その真っ直ぐな眼差しに、父の目に涙が浮かんでいた。

「リリアーナ……」

「はい。」

「俺は……娘を、誇りに思う。」

その言葉に、私は胸が熱くなった。

――ようやく、家族に祝福される未来が、現実のものとなったのだ。

そして日が明けて、私とアシュレイの婚礼が行われた。

花のレースをあしらった、あの純白のウェディングドレスを身に纏い、私は父と腕を組んでバージンロードを歩く。

「綺麗ね。」

参列者の誰かが、そう呟いた声が聞こえた。

胸がいっぱいになりながらも、私はまっすぐ前を見た。

その先には、正装をしたアシュレイが立っている。

凛としたその姿は、王族の威厳に満ちているのに、私を見つめる瞳だけが、ひどく優しかった。

バージンロードの終わりで父の手から引き継がれ、アシュレイが私の手をそっと握った。

「宜しくお願い致します、殿下。」

父の声は少し震えていた。

「お任せ下さい。」

アシュレイは落ち着いた声でそう答え、軽く一礼する。父は静かに席へ戻った。

壇上に静寂が満ちる。

「では、誓いの言葉です。」

祭司が厳かに告げると、空気が張り詰める。

「第3皇子、アシュレイ・ルヴェールは、リリアーナ・ファルクレスト嬢を妻とし、これを敬い、支え、一生の愛を誓います。」

その声と同時に、彼のエメラルドの瞳が私を捉える。

まっすぐで、濁りのない視線。

愛と誓いのすべてが、そこに込められている気がした。
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