家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第1部 売れ残り令嬢と、成り上がり伯爵の縁談

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そしてある日、父に呼ばれた。

執務室の扉をくぐると、父は既に机に書類を広げていた。

「これが最後の相手だ。」

父は冷たい口調で言いながら、一枚の書状を私に差し出した。

――セドリック・グレイバーン伯爵。

一瞬、意味がわからなかった。

「……えっ?伯爵家……ですか?」

思わず声が震える。私はその名に聞き覚えがなかった。

「なにかの……間違いでは?」

父の機嫌を損ねると分かっていても、言わずにはいられなかった。

エルバリー家は、長い歴史を誇る由緒正しき公爵家。

たとえ今、財政が傾いているとはいえ、格下の伯爵家と親戚になるなんて――

「グレイバーン家は新興貴族だ。金はあるが、名はない。公爵家との縁談は、向こうにとって願ってもない話だろうな。」

父は書状を指で叩きながら言った。

私は目の前がぐらぐらと揺れるような気がした。

なぜ、私がそんな……名も由緒もない家の人と――

「私は……伯爵と結婚するんですか?」

声が震えた。

自分でも驚くほど、心の奥がざわついていた。

「他に相手がいないのだから、仕方ないだろう。」

父は一切の感情を見せずに言い放つ。

「……それでも支度金が入るんだ。」

一瞬、意味が飲み込めなかった。

「……支度金?」

「そうだ。相手はこのエルバリー家に金を入れてくれる。それだけで万々歳だ。」

私は言葉を失った。

つまり、私は金と引き換えに――売られるのだ。

「お金のために、私を……」

「家のためだ。」

父は淡々と続ける。

「貴族の娘が家を支えるのは当然だろう。ましてや、おまえにはもう選り好みなどできん。」

そんな……私はただ、愛されることを望んだだけなのに。

そばかすがあるから?

誰にも選ばれないから?

だから私は、見も知らぬ成り上がりの伯爵に売られるの?

喉の奥がつまったように、言葉が出てこない。

ただ、指先だけがかすかに震えていた。

それでも父は、まるで家具でも売るように話を続ける。

「安心しろ。伯爵は若く、悪い噂もない。顔も悪くないそうだ。」

そんな問題じゃない。

私は今、この瞬間、父に見捨てられたのだと悟った――


もしそうであれば、私は問いたかった。
せめて、相手がどんな人なのかを知りたかった。
私という存在をどう見ているのかを――。

「伯爵は、私のことを……どう思っているのですか?」

父は面倒そうに眉をひそめた。

「特には、何も。」

「……特には?」

「そばかすのことも含めて、何も言っていない。」

私は思わず息を飲んだ。

それはつまり――

「興味がないということですか?」

「だから、何も言っていないと言っただろう。」

父の声は冷ややかだった。

そばかすが気にならないという意味ではなく、

私という存在自体に、興味を持たれていない。

言葉にされないその無関心こそが、何より残酷だった。
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