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第1部 売れ残り令嬢と、成り上がり伯爵の縁談
③
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そしてある日、父に呼ばれた。
執務室の扉をくぐると、父は既に机に書類を広げていた。
「これが最後の相手だ。」
父は冷たい口調で言いながら、一枚の書状を私に差し出した。
――セドリック・グレイバーン伯爵。
一瞬、意味がわからなかった。
「……えっ?伯爵家……ですか?」
思わず声が震える。私はその名に聞き覚えがなかった。
「なにかの……間違いでは?」
父の機嫌を損ねると分かっていても、言わずにはいられなかった。
エルバリー家は、長い歴史を誇る由緒正しき公爵家。
たとえ今、財政が傾いているとはいえ、格下の伯爵家と親戚になるなんて――
「グレイバーン家は新興貴族だ。金はあるが、名はない。公爵家との縁談は、向こうにとって願ってもない話だろうな。」
父は書状を指で叩きながら言った。
私は目の前がぐらぐらと揺れるような気がした。
なぜ、私がそんな……名も由緒もない家の人と――
「私は……伯爵と結婚するんですか?」
声が震えた。
自分でも驚くほど、心の奥がざわついていた。
「他に相手がいないのだから、仕方ないだろう。」
父は一切の感情を見せずに言い放つ。
「……それでも支度金が入るんだ。」
一瞬、意味が飲み込めなかった。
「……支度金?」
「そうだ。相手はこのエルバリー家に金を入れてくれる。それだけで万々歳だ。」
私は言葉を失った。
つまり、私は金と引き換えに――売られるのだ。
「お金のために、私を……」
「家のためだ。」
父は淡々と続ける。
「貴族の娘が家を支えるのは当然だろう。ましてや、おまえにはもう選り好みなどできん。」
そんな……私はただ、愛されることを望んだだけなのに。
そばかすがあるから?
誰にも選ばれないから?
だから私は、見も知らぬ成り上がりの伯爵に売られるの?
喉の奥がつまったように、言葉が出てこない。
ただ、指先だけがかすかに震えていた。
それでも父は、まるで家具でも売るように話を続ける。
「安心しろ。伯爵は若く、悪い噂もない。顔も悪くないそうだ。」
そんな問題じゃない。
私は今、この瞬間、父に見捨てられたのだと悟った――
もしそうであれば、私は問いたかった。
せめて、相手がどんな人なのかを知りたかった。
私という存在をどう見ているのかを――。
「伯爵は、私のことを……どう思っているのですか?」
父は面倒そうに眉をひそめた。
「特には、何も。」
「……特には?」
「そばかすのことも含めて、何も言っていない。」
私は思わず息を飲んだ。
それはつまり――
「興味がないということですか?」
「だから、何も言っていないと言っただろう。」
父の声は冷ややかだった。
そばかすが気にならないという意味ではなく、
私という存在自体に、興味を持たれていない。
言葉にされないその無関心こそが、何より残酷だった。
執務室の扉をくぐると、父は既に机に書類を広げていた。
「これが最後の相手だ。」
父は冷たい口調で言いながら、一枚の書状を私に差し出した。
――セドリック・グレイバーン伯爵。
一瞬、意味がわからなかった。
「……えっ?伯爵家……ですか?」
思わず声が震える。私はその名に聞き覚えがなかった。
「なにかの……間違いでは?」
父の機嫌を損ねると分かっていても、言わずにはいられなかった。
エルバリー家は、長い歴史を誇る由緒正しき公爵家。
たとえ今、財政が傾いているとはいえ、格下の伯爵家と親戚になるなんて――
「グレイバーン家は新興貴族だ。金はあるが、名はない。公爵家との縁談は、向こうにとって願ってもない話だろうな。」
父は書状を指で叩きながら言った。
私は目の前がぐらぐらと揺れるような気がした。
なぜ、私がそんな……名も由緒もない家の人と――
「私は……伯爵と結婚するんですか?」
声が震えた。
自分でも驚くほど、心の奥がざわついていた。
「他に相手がいないのだから、仕方ないだろう。」
父は一切の感情を見せずに言い放つ。
「……それでも支度金が入るんだ。」
一瞬、意味が飲み込めなかった。
「……支度金?」
「そうだ。相手はこのエルバリー家に金を入れてくれる。それだけで万々歳だ。」
私は言葉を失った。
つまり、私は金と引き換えに――売られるのだ。
「お金のために、私を……」
「家のためだ。」
父は淡々と続ける。
「貴族の娘が家を支えるのは当然だろう。ましてや、おまえにはもう選り好みなどできん。」
そんな……私はただ、愛されることを望んだだけなのに。
そばかすがあるから?
誰にも選ばれないから?
だから私は、見も知らぬ成り上がりの伯爵に売られるの?
喉の奥がつまったように、言葉が出てこない。
ただ、指先だけがかすかに震えていた。
それでも父は、まるで家具でも売るように話を続ける。
「安心しろ。伯爵は若く、悪い噂もない。顔も悪くないそうだ。」
そんな問題じゃない。
私は今、この瞬間、父に見捨てられたのだと悟った――
もしそうであれば、私は問いたかった。
せめて、相手がどんな人なのかを知りたかった。
私という存在をどう見ているのかを――。
「伯爵は、私のことを……どう思っているのですか?」
父は面倒そうに眉をひそめた。
「特には、何も。」
「……特には?」
「そばかすのことも含めて、何も言っていない。」
私は思わず息を飲んだ。
それはつまり――
「興味がないということですか?」
「だから、何も言っていないと言っただろう。」
父の声は冷ややかだった。
そばかすが気にならないという意味ではなく、
私という存在自体に、興味を持たれていない。
言葉にされないその無関心こそが、何より残酷だった。
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