家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第1部 売れ残り令嬢と、成り上がり伯爵の縁談

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「伯爵と結婚するしか、道は残されていないのですね……」

私はかすれた声でそう言った。力なく、けれど確かに。

父は書類に目を落としたまま、事務的に返す。

「断っても、これ以上の相手は出てこない。」

胸の奥がきしむように痛んだ。

言葉を失っていると、母が口を開いた。

「いいじゃない。お金を持っている人と結婚するのが、そんなに嫌なの?」

柔らかな声だった。

けれど、私にはその響きが冷たく感じられた。

「そういうわけでは……」と答えると、母は微笑んで言った。

「お父様も私も、クラリスの幸せを祈っているのよ。心からね。」

祈っている――その言葉が、虚しく響く。

私の気持ちも、希望も、すべて置き去りにされたまま。


「わかりました。このお話、お受け致します。」

それしか道がないのなら。

抗っても、私にはもう選べる立場などないのだ。

口にした途端、胸の奥がひどく冷えた。

まるで自分の人生が、誰かの都合で決まっていく感覚に、息が詰まった。

婚約の意思を告げると、父は「そうか」とひとことだけ呟いた。

私は静かに執務室を後にした。


廊下に出た瞬間、ちょうど妹のルシアがすれ違った。

「まあ、お姉様。なんだか浮かない顔してるわね?」

明るく笑うその顔は、陽の光を受けた陶器のようにきれいだった。

きめ細かな白い肌に、華やかなブロンドの髪。

そばかす一つない完璧な顔立ち。

私は思わず目をそらした。

今の私には、ルシアが眩しすぎる。

彼女にはすでに複数の公爵家から縁談が舞い込み、どの相手も熱心だった。

私が断られ続けた同じ世界で、妹は愛され、選ばれている。

「羨ましいわ、ルシア……」

「どうして羨ましいの?」

無邪気な声で尋ねるルシアに、私は答えられなかった。

視線をそらし、ただ足元の絨毯を見つめる。

「ねえ、お姉様。何かあったなら言って。私たちの仲じゃない。」

ルシアはそう言って、私の手をそっと取った。

柔らかくて、温かい手だった。

昔からそうだった。
甘え上手で、人に愛される術を自然と知っている子。

「……何もないわ。」

言いかけた言葉を飲み込んで、私は微笑んだふりをした。

本当は言いたかった。

羨ましいの。

あなたのように、美しく生まれたかった。

断られることのない未来が、最初から用意されていることが、どれほど幸福か。

でも——私は姉。

涙も弱音も、見せてはいけない立場だった。
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