家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒

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第5部 恋のまねごとと、伯爵の怒り

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「今日、お兄様は?」

突然、ルシアが落ち着きなくあたりを見回した。

「セドリックなら、今日は午前中は書斎で仕事をしていて、今は——」

そう答える途中で、彼女は私の言葉を遮るように階段へ駆け出した。

「お兄様あっ!」

高い声を響かせながら、まるで駄々をこねる子どものように、彼女は屋敷の奥へと消えていく。

「ちょ、ちょっとルシア!」

慌てて私は後を追いかける。

ルシアが向かったのは、セドリックの私室だった。

ノックもせずに扉を開けると、そこには椅子に腰かけて本を読んでいた彼の姿。

「お兄様あっ、かわいい妹がお願いに来ました~」

猫なで声で身をくねらせながら近づくルシアに、セドリックは目を細め、眉をひそめた。

「……何の用だ?」

彼は警戒心を隠そうともせず、椅子から身を起こす。

「お願い、お兄様。ルシアを、あの王子との婚約から助けてぇ……」

袖を引く仕草は甘える妹のようでいて、どこか芝居がかっていた。

その場の空気に、私は息を呑んだ。

セドリックがどう出るか——その目が、静かにルシアを見据えていた。

「お願い、お兄様……ルシア、困ってるの……」

そう言いながら、ルシアはセドリックの袖に手をかけ、潤んだ瞳で見上げていた。

セドリックは困惑した表情で、私の方に視線を向けてきた。

私が頷くと、彼は静かに席を勧めた。

「だが、王子との結婚を断れば君は、立場を失いかねないぞ。」

セドリックの言葉は冷静で的確だった。

確かに、王族との縁談を断ることは、公爵家にとって大きな損失になりかねない。

「他に誰かいい人がいたら、話は別だけどな。」

彼はやんわりと、他の選択肢を探すよう促す。

「それはね……お兄様が私の相手になってくれれば解決じゃない?」

その言葉に、空気が一変した。

「はあっ⁉」

私は思わず大声を上げてしまった。

信じられない。何を言っているの、この妹は。

するとルシアはくるりと振り向き、扉に手をかけて——鍵をかけた。

「ちょっと、ルシア!何してるの⁉」

私は怒りと不安に声を震わせた。

「元々お兄様は、私のことがよかったんでしょう?」

私は思わず息をのんだ。信じられない——ルシアが口にしたその言葉。

「お姉様と婚約する前、私に結婚してくれって手紙をくれたじゃない。」

へなへなと膝から崩れ落ちた。そんなこと、聞いてない。

いや、思い出した。ルシアには以前、山のような婚約希望の手紙が届いていたことを。

けれど、まさか——その中に、セドリックの名もあったなんて。
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