アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒

文字の大きさ
3 / 26
第2章 出会いは必然!?

しおりを挟む
ハローワークからの帰り道。

私は、虚しい気持ちでいっぱいだった。

一番求人があったのは、大学生の時だったのかもしれない。

当然だ。

求職市場において、新卒が一番欲しいと思われているのは。


こうして、みんな契約社員、派遣社員、パートアルバイトと、非正規雇用に流れていく。

そんな気がして、ならなかった。


そして、目の前の信号が、赤になった。

なんだ。

こんなところでも、足止めをくらうのか。

私は横断歩道の前で、立ち止まった。


止まっていた車が動き出す。

その時だった。

誰かに、背中を押された。


えっ……

そこからは、スーパースローモーション。

前のめりになった私が、片足で横断歩道の真ん中まで来て。

そこへやってきた車が、私目がけてやってくる。

車の運転手さんはもちろん、助手席の人も、『うわー!』と声をあげている。


轢かれる!

私は、固く目を閉じた。

だが一向に、私の体は飛ばない。

それどころか、やってきた車は、私の横で停まっていた。

「だ、大丈夫?お姉ちゃん!」

次から次へと、車のドアが開いて、車に乗っていた人達が、私の元へ集まってくる。

「は、はい……」

弱々しい声で返事をすると、私の後ろから低い声が、聞こえてきた。


「立てるか?」


振り向くと、そこには……

立派なスーツに身を包んだ、背の高い、紳士みたいな人がいた。

しかも、前髪が少しだけかかった目は、涼し気な細めで、色気を帯びている。

ああ、どうしよう。

今、ものすごくドストライクの好みの人に、会えた気分。


「おい!返事をしろ!」

「へっ!」

ハッと我に返ると、信号待ちしていた人達みんなが、私を覗いている。

「あっ、えっと……」

私は両足を見たけれど、どこも怪我をしていない。

両腕を見たけれど、怪我一つなし。

試しに立ってみたけれど、普通に立てる。

「よかった。歩けるか?」

「は、はい!」

2・3歩歩いてみるが、どこも痛くない。

「大丈夫みたいです。」

私がそう言うと、周囲に立っていた人達みんな、よかったと安心した。


「皆さん、ご迷惑かけました。」

私は去って行く人たちに、頭を下げた。

そんな私の腕を、やってきた車の運転手が、掴んだ。

「お姉ちゃん。後で頭を打っていたりしたら大変だから、俺達の車で病院に行こう。」

「病院!?」

「心配しないで。検査するだけだから。」


私の額から、汗がたらりと流れた。

この年末に、絶賛節約中の私が、病院で検査費用なんて、出せるわけがない!


「失礼。それは、私に任せて貰えますか?」

そう言ってくれたのは、あの私の好み、ドストライクの紳士だった。

「いいんですか?」

車の運転手も、あまりの展開に、何度も聞き返している。

「元はと言えば、私が急いでいて、このお嬢さんにぶつかってしまったのが、いけなかったんです。私が責任を取ります。」

はぁぁぁぁ。

私の事を”お嬢さん”

そして男らしい、”責任を取ります”発言!

ああ、中身も私の好みで、鼻血が出そうになる。


「じゃあ、お願いしますよ。」

「はい。」

その紳士は、車の運転手さんに頭を下げた。

その様子を見て、私も慌てて一礼をする。


「さてと。病院へ行こうか。」

紳士にそう言われ、ドキッとする。

だけど、どこも怪我していないのに、なんだか厚かましい。

「ああ、いいです。どこも怪我してませんし。」

「さっきの運転手も言っていたでしょう。後で頭が痛いとか、腰が痛いとか、こう言う事故には多いんですよ?」

うわっ!恐ろしい。

でも、検査代は今の私にはない。


「あっ、じゃあ……後で私一人で行くんで。」

頭をちょっと下げて、立ち去ろうとした。

「何を言っているんですか。」

紳士の大きな手が、私の背中を押した。

「さあ、行きましょう。」

その大きな手が、私を守ってくれているようで……

「はい……」

私は、勢いで着いて行く事になった。


けれど、その後が大変だった。

「社長。どちらの病院にされますか?」

「父の系列の病院があっただろう。」

「畏まりました。」

父の系列の病院!?

社長!?

「まさか……病院の院長!?」

「残念。」

あっさり答えを否定され、私は運転手付きのリムジンに、乗せられた。


「あ、あの……」

「君は、話始める時、かならず”あの”から入るね。」

口癖を指摘されて、私はちょっと、不機嫌になった。

だって、こんな状況普通に、~~何ですか?って質問できる?


「すみません。あなたは、何者なんですか?」

「ああ。自己紹介が遅れましたね。私は、折橋と言います。」

そしてその紳士は、名刺を一枚差し出した。

「有難うございます。」

私はそれを受け取ると、目を丸くした。


ネットワーク社 CEO!?

ネットワーク社って、あの有名な会社!?

しかもCEOって、確か……

最高責任者!?

しゃ、社長!?


私は何度も、名刺とその紳士を、交互に見た。

高そうなスーツ。

キラキラ光る靴。

ネクタイも、高級そうなシルクだ。

確かに、眩しい!!


「どうされました?どこか痛みますか?」

「あっ、いえ!お気になさらないでください。」

私は、リムジンの隅っこで、小さく丸まった。

こんな場違いなところ、私には無理だ。


「もうすぐで、病院に着きますよ。」

「はい……」

窓から見えるその病院は、敷地だけでも、どこかのお城みたいに広い。

しかも、テレビで見た事がある、金持ち専用の病院!?


「お嬢さん、お嬢さん?」

口を開けっ放しの私を、折橋さんは揺らす。

「あっ、すみません。」

慌てて口を拭いて、益々体が硬くなった。

「そんなに緊張しないでください。ただの検査ですから。」

「は、はい。」

それで緊張してるわけじゃないんだけど、そう言う事にしておかなきゃ、この先乗り切れない。


そうよ。

私は今、検査に緊張してるのよおおお。


そして駐車場に、滑らかなに着いたリムジン。

運転手の人がスッと降りて、後部座席のドアを開けてくれた。

「どうぞ、お嬢様。」

「は、はい。」

お嬢様でもないのに、お嬢様って呼ばれると、そう振舞わなきゃいけないのかなと、思っちゃう。

えーっと、足、足から確か、降りるんだよね。

私は足を伸ばすと、お尻を引きずった。

でもまだ、外には届かない。

また足を伸ばして、お尻を引きずり、また足を伸ばして、お尻を引きずり……

すると向かい側の席から、クククっと言う笑い声が聞こえてきた。

「申し訳ない。バカにしてるつもりでは、ないんですが。」

そう言って折橋さんは、またクククッと笑っている。


ええ、ええ。

そりゃあ、可笑しいでしょうね。

だって、リムジンなんか乗った事ないもん。

「いえ。気にしてないので。」

わざと低い声で答えて、さっさと車から降りた。


その後から降りた折橋さんは、長い足を車から出し、細い体が一気に出てきた。

その様子があまりにもカッコ良くて、見惚れてしまう。

「ん?」

不覚にも、折橋さんと目が合ってしまった。

見惚れているって知られたら、”この女、リムジンもまともに降りられないのに、俺に惚れるなよ”とか、思われる!!

私は急いで、下を向いた。


「さあ、行きましょうか。」

「……はい。」

折橋さんの後ろをついて行き、金持ち病院に、私は足を踏み入れた。

近づいて来たのは、美人な看護師さんだった。

まるでモデルのように、手足が長い。

「こちらは、初めてですか?」

「はい……」

「では、こちらにお名前や住所を、お書きください。」

渡された紙に、私は名前や住所を書く。

「はい、お願いします。」

書いた紙をまた、美人看護師に渡し、私は検査を待った。


「お名前、水久保……つむぎさんって、言うんですね。」

隣に座る折橋さんが、話しかけてきた。

「はい、珍しいですよね。漢字ならまだ箔が付くんですけど。」

「いえいえ。可愛らしいお名前ですよ。」

ニコッと笑った折橋さんは、まるで王子様のようだ。


私も釣られて笑顔になって、さり気なく折橋さんから貰った名刺を見る。

折橋 五貴。

ん?名前、ごき?


「それで、”いつき”と呼びます。僕も、珍しいでしょう?」

私の体が、ビクッと飛び上がる。

まさか、名刺を見てる事、バレた?

「は、はい。珍しいですね。」

はははっと、愛想笑いをした。

「何でも、人が生きていく中で大切な、智、仁、武、勇、信を現すとかで。僕の両親、そう言う事好きなんです。本人は、一切そう言うのないんですけどね。」

そんな事ないと、思った。

だって、折橋さん……

私は、自分の手をぎゅっと握った。


「私は、あると思います。」

「えっ?」

私と折橋さんは、顔を見合わせた。

「だって折橋さん、車道に飛び出した私を助けてくれたし、こうして病院に連れて来てくれたし……少なくても、優しくて勇気のある人だと、私は思います。」

ドキドキする。

なんでこんなありきたりな事言うのに、胸がドキドキするんだろう。

「……ありがとう、つむぎさん。」

その笑顔に、全身がドキンッとした。

「いえ……」

私はもうその笑顔に耐えられなくて、代わりに廊下の壁を見た。


どうしよう。

私、折橋さんの事……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

俺様御曹司に飼われました

馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!? 「俺に飼われてみる?」 自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。 しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……

その「好き」はどこまで本気ですか?

沙夜
恋愛
恋愛に少し臆病な大学院生、高遠 朱音。 自分に自信がなく、華やかな恋愛とは無縁の生活を送っていた彼女が出会ったのは、フランス人ハーフの超人気モデル、サイラスだった。 「一目惚れだ」 甘い言葉で一途なアプローチを受けるが、住む世界が違いすぎる彼を前に「どうせ遊びに決まっている」と、その好意を素直に受け取ることができない。 彼の本心が読めないまま曖昧な関係が続く中、朱音はサイラスが他の女性とキスをする場面を目撃してしまう。 「やっぱり遊びだった」と冷静を装う彼女だったが、その胸には、今まで知らなかった鋭い痛みが走り始めていた。

思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。 慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。 秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。 主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。 * ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。 * 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。 * 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。

大好きな背中

詩織
恋愛
4年付き合ってた彼氏に振られて、同僚に合コンに誘われた。 あまり合コンなんか参加したことないから何話したらいいのか… 同じように困ってる男性が1人いた

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

処理中です...