月夜の砂漠に紅葉ひとひら

日下奈緒

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黒幕の黒幕

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「なんだ?侵入者か?」

ドアの近くにいた護衛の人達が、窓へと移動していく。

その隙に、廊下を走って角を曲がる。

あのたくさんのお姉さん達が、ジャラールさんを待っていた場所だ。


「と言う事は、ラナーの部屋はこっちだよ。」

元来た道をそのまま戻る。

私ってもしかしたら、天才?

そんな事を思いながら、廊下を進むとラナーの姿を発見。


「あっ、ラナー!……」

手を振ろうとしたら、ラナーは走ってどこかへ行ってしまった。

「うそっ!」

せっかくここまで来たのに。

案の定、ラナーの部屋には鍵が掛かっている。

勝手に制服を取る事もできない。


「仕方ないな~」

追いかけてラナーに、鍵を開けてもらうしかない。

私はラナーの後を追った。

「いた。」

やっと見つけたラナーは、また素早く廊下の角を曲がる。

「早いよ。」

私は小走りでラナーが曲がった場所へ行く。

そして気づく。

ラナーの動きがおかしい事に。

まるで誰かに知られたくないように、急に姿を消す。

「ラナー?」

姿を消した場所を探して、ラナーを見つけては、また走って追いかける。

最終的にラナーが辿り着いたのは、キッチンだった。

「なんでこんな面倒な事すんの?」

キッチンがある場所は、中央の階段を降りた場所にあった。

ラナーの部屋からは、階段を降りてすぐ側だ。

なのにわざわざ、建物の一番奥まで来て、階段を降りたら、また違う場所の階段を使って降りる。

まるでジグザグ。

わざとそうしているみたいに。


「で?ここで何をするの?」

キッチンを覗くと、ミルクを鍋で温めている。

「なんだ。温かい牛乳飲みたかっただけ?」

ガックリきて、さっさと部屋の鍵を貸して貰おうとした時だ。

ラナーが粉上のモノを、鍋の中に入れていた。



胸騒ぎがする。

ねえ、ラナー。

それは誰が飲むの?


しばらくしてラナーは、その牛乳の入ったカップを、誰にも見られないようにトレーに乗せる。

そしてまたキョロキョロ。

キッチンのドアを開けても、キョロキョロ。

怪しい。

素人の私から見ても、かなり怪しい。


そう思った私は、キッチンから姿を消したラナーの後をついて行く。

見失わないように、と思ったら今度はゆっくりと廊下を歩いて行く。

さっきの、そそくさと逃げるような動きとは、全く違った。


ラナーの向かった先は、ジャラールさんと同じくらい、いやもっと大きな扉の前だった。

護衛はラナーの顔を見ただけで、扉を開けた。

「どこなんだろう……」


ただラナーの部屋の鍵を貸してほしいだけで、こんなところへ来てしまって。

仕方がない。

今日は諦めるかと、後ろを振り向いた瞬間。


「………っ!!」

長い指で口を覆われ、カーテンの後ろへ、連れて行かれる。

「静かに。」

聞いた事のある声に、少しだけ振り向く。

「ジャラ……」

名前を呼ぼうとして、また口を塞がれた。

「どうして……寝てたはずじゃ……」

「クレハ。それ以上言うと、今度は唇でその口を塞ぐぞ。」


ジャラールさんにキスされたんじゃ、敵わない。

大人しく黙っている事にした。


扉の前にいるラナーは、護衛の人にあっさり通され、あの大きな扉へ入って行く。

「クレハはここで待っていろ。」

「あっ、ジャラールさん!!」

振り向いたその姿は、マンガに出てきそうな程のカッコよさ。

思わずよろめく。


「クレハ?」

「あっ、いやいや。私も一緒に行っていい?」

「ダメだ。」

ジャラールさんは、即答すると背中を向けた。

「おっと!」

必死にジャラールさんの腕を掴む。

「私、ラナーに部屋の鍵借りに来たんだよね。」


へへへと笑って見せたけど、ジャラールさんの表情は変わらない。

「……なぜ鍵を借りる必要があるのだ。」

「これ、ラナーに借りた服なんだよね。自分の服はラなが持っているから……」

「だとしたら、しばらくその服でいろ。」

そう言ってジャラールさんは、扉へ行こうとした。


「おっと!」

「今度はなんだ!」

「欲しいのは服じゃなくて、携帯なの!」

「携帯?」

「携帯電話。それが必要なの!」

この国にはまだ携帯がないのか、ジャラールさんは"なんだ、それは?"と言う顔。

まずい。

通話やメールは出来ないって諦めてたけど、もしかしたらゲームもできなかったりして。


「分かった。中に連れて行ってやる。」

「やった!」

「その代わり……」

「はい?」

ジャラールさんは、どこか一点を見つめながら、考えている。

「いや、いい。その時はその時だ。」

今度は私が頭の上にクエスチョンマーク。


「来い。」

ジャラールさんはそう言うと、私を連れて、大きな扉の前に立った。

「ジャラール王子。」

護衛の人達が、直立不動になる。

「扉を開けてくれ。」

「はい。」

扉を開けると、護衛の人達は私に気づく。

まずいよ。


「ジャラール王子。そちらの方は?」

「この者は、私の付き人だ。」

「失礼しました。」

初めて会った人達が、私に頭を下げる。

不思議な感じ。


大きな扉を開けると、贅沢を施した装飾品満載の廊下が現れた。

「キレイ……」

一歩ずつ歩く度に、見たこともないような、美しいモノに目を奪われた。

「すごいだろう。」

「うん……」

「広さも俺の部屋の倍はある。」

「ええっ!?倍?」

ジャラールさんの部屋だって、相当な広さだよ?


「次の国王になられる方だ。格が違う。」

「次の国王……」

思わず息を飲む。

背筋が真っ直ぐになる。


もしかしたら、私。

とんでもないところへ来ているんじゃないか……


そして長い廊下の真ん中辺りに来た時だ。

「ここからは声を出さないように。」

私は大きく頷いた。

目の前の扉を、音を立てないように開け、更に奥の部屋へ向かう。

そしてジャラールさんは、奥の部屋の扉を、少しだけ開けた。


そこから漏れた光に、ジャラールさんの顔が照らされる。

その表情は、見たこともない程に厳しい。

こんな顔見せられたら、"声を出すな"って言われなくても、出せないでしょう


しかしなんで、そんな難しい顔してるかな。

滅多にお目にかかれない王子様の真剣顔に、ラッキーと思いながら見惚れていた。

う~ん。

やっぱりカッコいい。


すると急に扉を開けて、ジャラールさんはスッと入って行ってしまった。

「ジャ……」

あっ!と思って、口を押さえる。

声を出すなって言われてたんだっけ。


「そこまでだ。」

中からジャラールさんの声が聞こえた。

そっと覗きこむと、ジャラールさんが誰かの腕を掴んでいる。

誰?

私はもう少しだけ、扉を開けた。

「ジャラール王子……」

見えたのは、ラナーだった。

「君だったのか。通りでなかなか原因が分からないわけだ。」


えっ?

私は扉を開けた。

ラナーがハッとして、こっちを見た。

「クレハ様……どうしてここに……」

「あ、あの……私、ラナーの部屋の鍵を、貸して貰いたくて……」

「鍵?」


うわっ。

なんかそんな空気じゃない。

どうしよう。


「ラナー。すまぬが、クレハに鍵を貸してやってくれないか。」

ジャラールさんに言われ、ラナーはポケットから、部屋の鍵を取り出した。

それをジャラールさんが、受けとる。


「そして君にはこのまま、地下牢に行ってもらう。」

えっ!?

ど、どう言う事?

「ジャラールさん!?ラナーが何かしたんですか?」

するとジャラールさんは、ラナーの腕を掴みながら、こう言った。

「……ネシャートの容態は、夜中が一番酷かった。就寝前は、ネシャートの側近しか近づけないはず。護衛は必死に怪しい者が部屋に入らないか、厳重に警備したが見つからなかった。」

ジャラールさんは、ラナーの腕を掴んだまま、持っていたカップを奪い、近くにあった魚の水槽に入れた。

魚は変わらずに泳いでいたが、しばらくして小指の半分程の小さな魚は、水面に横たわりながら浮いてきた。

「これって……」

「死んでいるんだ。小魚が死ぬくらいの毒が、飲み物の中に入っている。これを飲んだら、毒に慣れている王族とて、体を病むだろう。」


私は目の前が、クルクル回りだした。

「ラナー、もしかして……あの時……」

「見ていたのですね。」

ラナーは落ち着いている。

反って私の方が、立っていられずに、そのまま座り込んでしまった。


「誰か!!」

ジャラールさんが叫ぶと、護衛の人達が中に入って来た。

「どうされました?」

「この者を地下牢に連れて行け!!」

「……ネシャート王女の侍女をですか?」

護衛達は、後ずさりをする。

「ネシャート王女への反逆だ。私が責任を持つ。連れて行け!」

「はい。」

ようやくラナーを捕まえた時も、護衛達は手が震えていた。

「……ラナーは、そんなに偉い人なの?」

「ああ。俺の次に偉いんじゃないか?何せ次期国王の侍女だからな。」

「そ、そんな人が……ネシャートさんを?どうして……」

「知らぬ。後で本人に聞くしかないだろう。とは言っても、答えぬとは思うがな。」


どうして、あのラナーが?

自分の主人を?

例えるなら、ハーキムさんがジャラールさんに毒をもるのと一緒じゃない。

そんな事!!


「どうしたのです?」

奥の部屋から澄んだ声が聞こえた。

「ネシャート。」

「ジャラール。なぜここに?」

お互い近づくと、体を寄せ合う二人。

手を触れるわけでもなく、抱き締め合うわけでもないのに、二人の仲睦まじさは分かる距離。


あっ、もしかしたら……

この人が……


見とれている私に気づいたジャラールさんは、私にこう告げた。

「クレハ。この方が未来の国王、ネシャート王女だ。」
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