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第一章 転生者二人の高校生活
生まれ変わった一八
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翌朝、一八はいつもと同じ時間に起床していた。今日からは朝練がない。しかしながら、ロードワークの距離を伸ばし、スタミナの強化に務めている。
まだ玲奈の朝稽古に参加するレベルではないし、とりあえずは指示された通り四時間以内に一万回の素振りをやり遂げる体力を作らねばならなかった。
「焦っても上手くいくはずがねぇ。地道にやっていくだけだ」
睡眠時間は二時間となっていた。ヘトヘトになりながらも勉強だって手を抜かない。前世を通して初めて訪れた高い壁を越えるために、一八は命をも削る覚悟を決めている。
ロードワークを終えて朝食を食べると学校に行く。寝不足は明らかであったのだが、長めのロードワークにより何とか頭をリセットできていた。
いつもなら寝て過ごす授業。だが、それこそが今の自分を作り上げた原因である。従って一八は熱心にノートを取り、一秒を惜しむかのように教科書とにらめっこだ。
ここまで真剣に生きられるとは一八自身も思わぬことであった。人間らしい努力に満ちた日々。少しばかり嬉しく思う。本能のままに生きた前世からようやく進歩できたのではないかと。
「ある意味、浅村とかいう跳ねっ返りに感謝だな……」
授業が終われば教員に質問をする。どの授業でも毎回驚かれてしまうのは仕方のないことだ。気恥ずかしくもあったけれど、独学で解けぬのなら先生を頼るべき。そんな一八の姿は教師を含めた生徒全員が小首を傾げており、別人に入れ替わったのではないかと思われていた。
放課後になり一八は生徒会役員室へと向かう。ただし本日は役員が集まる会議ではない。体育祭実行委員として玲奈から与えられた宿題を終わらせるためだ。
「一八さん、柔術部を辞められたって本当ですか?」
道すがら来田に呼び止められてしまう。既にその話は知れ渡っており、来田もその話を聞きつけたらしい。
「ああ本当だ。あとはお前に任せたい。こんなとこでサボってねぇで真面目に活動しろ。お前には素質があったというのに、努力しねぇんじゃ強くなんてなれねぇよ」
歩きながらの会話である。一八は面倒臭そうに言った。
「私があまり部活へ行かなくなったのにはわけがあります。中学時代は真面目に取り組んでいたのですがね。武道学館に入ってヤル気を失っただけです……」
来田の話に一八は眉根を寄せる。ずっと続けていたことに対する情熱。それを失う切っ掛けが彼には分からなかった。
「圧倒的な強さを見てしまったから。私は奥田一八という才能を前に気後れしてしまったのです。努力でどうこうできる相手じゃない。それは直ぐに分かりました……」
聞けば原因は一八であったらしい。しかし、そんな理由に一八が納得するはずはない。彼が最も忌み嫌う後ろ向きな思考であったからだ。
「どうやら俺はお前を過大評価していたようだ。俺如きが才能? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺は華奢な女に何度も投げられ、クソマズい地面を幾度となく舐めさせられるような男だぞ?」
思い出すだけで腹が立つ。投げ返してやらねば気が済まない。それこそ諦めてしまっては柔術に捧げた時間の全てが嘘になってしまうのだと。
「一八さんを投げ飛ばす女性? それはやはり玲奈様でしょうか?」
「ホントお前は馬鹿だな? 玲奈は柔術なんて学んでねぇよ。俺を軽々と投げやがったのは守護兵団の浅村ヒカリとかいう女だ……」
来田は絶句していた。なぜなら浅村ヒカリは超のつく有名人。来田と同じ中学の出身であり、彼女の武勇伝は一つや二つどころではなかった。
「まあ浅村の姉ならあり得るでしょうね……」
妙な話になり、一八は考える。そういえば浅村ヒカリは妹の話をしていた。確か妹が玲奈と決勝戦で戦ったとかどうとか。
「妹は弱いんだろ? 玲奈に負けたんじゃないか? 玲奈は全中無敗の剣士だし……」
「それは存じませんが、中学では有名人でした。浅村アカリは全中に出場するほどの剣士でしたから。まあでも負けた相手が玲奈様であるのなら納得です。かといって浅村アカリが有名であったのは姉である浅村ヒカリによるところが大きいです。中学時代から魔物を狩っていたなんていう逸話まで残っていますからね……」
姉に比べれば凡庸ですと来田。全国大会に出場する者が弱いはずはなかったが、偉大な姉の存在は彼女の強さを日陰に追いやったらしい。
二人は生徒会役員室へと到着。柔術部を頼まれた来田だが、彼もまた部屋へと入っていく。
「おう、揃っているようだな?」
既に選ばれた土居と野江、副会長でもある滝井は部屋に来ていた。一八に怒鳴られないためにも授業が終われば駆け足で役員室に飛び込んでいる。
一八が会長席に座るや、
「早速始める。俺は時間がねぇからな。さっさと終わらせるぞ。それでお前たち、玲奈から聞いた体育祭のプログラムを考えてきたか?」
実行委員に渡されたプリントには希望競技提案書なるものがあった。それには十個の空欄がある。全てを埋めろとは聞いていないが、枠がある以上は書き込む必要があるだろう。
一八の問いに全員が黙り込む。予想はしていたけれど、一八は誰も考えてきていないと察知している。
「お前らは本当に使えねぇな?」
「いや、奥田さんだって考えてないんしょ?」
土居が反論する。確かに一八は何も考えていない。しかし、彼はそれどころではなかったのだ。だからこそ怠惰に過ごしていただろう委員たちに苛立ちが募る。
「俺は剣術の特訓から勉強までしてんだよ! 昨日寝たのは三時で五時には起きてんだぞ!?」
流石に土居は言い返せない。この数日に亘り一八は明らかに別人なのだ。授業も真面目に受けているし、柔術部を退部してしまうほどの本気を見せている。
「奥田さん、マジで騎士学校を受けるつもりっすか?」
「当たり前だ。冗談なんかで勉強できるか! 俺は騎士になるって決めたんだ……」
全員が強い人だと思う。よもや武道学館生でありながら騎士学校を受験する者が現れるなんてと。
「じゃあ、俺は徒競走で良いかと思うっす……」
一八の熱意に当てられたのか土居が意見した。時間がないとの話。言い争う時間も惜しいのは間違いなかった。
「ならば百メートル走と二百と四百を入れたら三つ埋まりますね? 私としては長距離も書いておけばと思います」
副会長滝井が手を挙げて補足的に続けた。これにより一度に四つの欄を書き込めている。
このあとは定番である幅跳びや高跳び、砲丸投げからリレーまで意見が飛び出す。考えていたより全員が真剣に考えてくれた。
「みんな、ありがとうな。本当に助かる。あと二つだ。何かないか?」
一八が頭を下げると全員が恐縮していた。誰しもが認める武道学館の頭なのだ。彼がいるからこそ武道学館は一つに纏まっているとさえいえる。礼を言うのは自分たちだと全員が思っていた。
「部外者で悪いのですが、意見しても良いでしょうか?」
ここで同席した来田が手を挙げた。彼もまた協力してくれるのだという。
「せっかく合併するのでしょう? だったら男女がペアになってできる競技とかどうでしょうか? に、二人三脚とか……。べ、別に私は玲奈様と組んずほぐれつしたいなどと考えてはいませんが……」
顔を赤らめながら話す来田は若干気持ち悪い。欲望丸出しであったものの、来田の意見に全員がポンと手を叩いた。
「来田、それだよ! 俺が求めていたものは! せっかく時間を使うんだ。楽しいにこしたことはねぇ! 二人三脚は外せねぇな!」
「だったら騎馬戦とかも良くないっすか? 女子を上にしたら覗き放題だし、密着度も高いっす!」
ここで野江も意見した。彼の提案には全員が天才かよと感嘆の声を上げている。
「ダ、ダンスも良いのではないですかね? れ、玲奈様とお手々繋いで……」
来田の妄想が加速していた。しかし、既に騎馬戦で十個の提案が済んだところだ。かといってダンスというのも悪くはない。女子と合法的に手を繋ぐ機会など武道学館生にはなかったのだ。
「ちくしょう。お前らがこれ程までに有能だとは知らなかったぜ。騎馬戦もダンスも採用だ! 問題は何を削るかだが……」
一向に決まらないかと思われた話し合いであるが、予想もしない方向で頭を悩ませることになった。
「奥田さん、密着度で考えると組み体操なんか良くないっすか? 小学生以来っすけど」
このあとも削除する競技より提案が続く。ツイスターゲームとか凡そ高校の体育祭とは思えぬものばかりが飛び出し、瞬く間に空欄は混合競技で埋められていく。
「完璧じゃないか! 体育祭が楽しみだな!」
一八が満面の笑みでリストを見返している。徒競走の二種目が残されただけで、あとは下心丸出しのプログラムが用紙には並んでいた。
この提案書の採用には両校の承認が必要になることなど、全員が忘れているようだ……。
まだ玲奈の朝稽古に参加するレベルではないし、とりあえずは指示された通り四時間以内に一万回の素振りをやり遂げる体力を作らねばならなかった。
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いつもなら寝て過ごす授業。だが、それこそが今の自分を作り上げた原因である。従って一八は熱心にノートを取り、一秒を惜しむかのように教科書とにらめっこだ。
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授業が終われば教員に質問をする。どの授業でも毎回驚かれてしまうのは仕方のないことだ。気恥ずかしくもあったけれど、独学で解けぬのなら先生を頼るべき。そんな一八の姿は教師を含めた生徒全員が小首を傾げており、別人に入れ替わったのではないかと思われていた。
放課後になり一八は生徒会役員室へと向かう。ただし本日は役員が集まる会議ではない。体育祭実行委員として玲奈から与えられた宿題を終わらせるためだ。
「一八さん、柔術部を辞められたって本当ですか?」
道すがら来田に呼び止められてしまう。既にその話は知れ渡っており、来田もその話を聞きつけたらしい。
「ああ本当だ。あとはお前に任せたい。こんなとこでサボってねぇで真面目に活動しろ。お前には素質があったというのに、努力しねぇんじゃ強くなんてなれねぇよ」
歩きながらの会話である。一八は面倒臭そうに言った。
「私があまり部活へ行かなくなったのにはわけがあります。中学時代は真面目に取り組んでいたのですがね。武道学館に入ってヤル気を失っただけです……」
来田の話に一八は眉根を寄せる。ずっと続けていたことに対する情熱。それを失う切っ掛けが彼には分からなかった。
「圧倒的な強さを見てしまったから。私は奥田一八という才能を前に気後れしてしまったのです。努力でどうこうできる相手じゃない。それは直ぐに分かりました……」
聞けば原因は一八であったらしい。しかし、そんな理由に一八が納得するはずはない。彼が最も忌み嫌う後ろ向きな思考であったからだ。
「どうやら俺はお前を過大評価していたようだ。俺如きが才能? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺は華奢な女に何度も投げられ、クソマズい地面を幾度となく舐めさせられるような男だぞ?」
思い出すだけで腹が立つ。投げ返してやらねば気が済まない。それこそ諦めてしまっては柔術に捧げた時間の全てが嘘になってしまうのだと。
「一八さんを投げ飛ばす女性? それはやはり玲奈様でしょうか?」
「ホントお前は馬鹿だな? 玲奈は柔術なんて学んでねぇよ。俺を軽々と投げやがったのは守護兵団の浅村ヒカリとかいう女だ……」
来田は絶句していた。なぜなら浅村ヒカリは超のつく有名人。来田と同じ中学の出身であり、彼女の武勇伝は一つや二つどころではなかった。
「まあ浅村の姉ならあり得るでしょうね……」
妙な話になり、一八は考える。そういえば浅村ヒカリは妹の話をしていた。確か妹が玲奈と決勝戦で戦ったとかどうとか。
「妹は弱いんだろ? 玲奈に負けたんじゃないか? 玲奈は全中無敗の剣士だし……」
「それは存じませんが、中学では有名人でした。浅村アカリは全中に出場するほどの剣士でしたから。まあでも負けた相手が玲奈様であるのなら納得です。かといって浅村アカリが有名であったのは姉である浅村ヒカリによるところが大きいです。中学時代から魔物を狩っていたなんていう逸話まで残っていますからね……」
姉に比べれば凡庸ですと来田。全国大会に出場する者が弱いはずはなかったが、偉大な姉の存在は彼女の強さを日陰に追いやったらしい。
二人は生徒会役員室へと到着。柔術部を頼まれた来田だが、彼もまた部屋へと入っていく。
「おう、揃っているようだな?」
既に選ばれた土居と野江、副会長でもある滝井は部屋に来ていた。一八に怒鳴られないためにも授業が終われば駆け足で役員室に飛び込んでいる。
一八が会長席に座るや、
「早速始める。俺は時間がねぇからな。さっさと終わらせるぞ。それでお前たち、玲奈から聞いた体育祭のプログラムを考えてきたか?」
実行委員に渡されたプリントには希望競技提案書なるものがあった。それには十個の空欄がある。全てを埋めろとは聞いていないが、枠がある以上は書き込む必要があるだろう。
一八の問いに全員が黙り込む。予想はしていたけれど、一八は誰も考えてきていないと察知している。
「お前らは本当に使えねぇな?」
「いや、奥田さんだって考えてないんしょ?」
土居が反論する。確かに一八は何も考えていない。しかし、彼はそれどころではなかったのだ。だからこそ怠惰に過ごしていただろう委員たちに苛立ちが募る。
「俺は剣術の特訓から勉強までしてんだよ! 昨日寝たのは三時で五時には起きてんだぞ!?」
流石に土居は言い返せない。この数日に亘り一八は明らかに別人なのだ。授業も真面目に受けているし、柔術部を退部してしまうほどの本気を見せている。
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全員が強い人だと思う。よもや武道学館生でありながら騎士学校を受験する者が現れるなんてと。
「じゃあ、俺は徒競走で良いかと思うっす……」
一八の熱意に当てられたのか土居が意見した。時間がないとの話。言い争う時間も惜しいのは間違いなかった。
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このあとは定番である幅跳びや高跳び、砲丸投げからリレーまで意見が飛び出す。考えていたより全員が真剣に考えてくれた。
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一八が頭を下げると全員が恐縮していた。誰しもが認める武道学館の頭なのだ。彼がいるからこそ武道学館は一つに纏まっているとさえいえる。礼を言うのは自分たちだと全員が思っていた。
「部外者で悪いのですが、意見しても良いでしょうか?」
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「せっかく合併するのでしょう? だったら男女がペアになってできる競技とかどうでしょうか? に、二人三脚とか……。べ、別に私は玲奈様と組んずほぐれつしたいなどと考えてはいませんが……」
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「来田、それだよ! 俺が求めていたものは! せっかく時間を使うんだ。楽しいにこしたことはねぇ! 二人三脚は外せねぇな!」
「だったら騎馬戦とかも良くないっすか? 女子を上にしたら覗き放題だし、密着度も高いっす!」
ここで野江も意見した。彼の提案には全員が天才かよと感嘆の声を上げている。
「ダ、ダンスも良いのではないですかね? れ、玲奈様とお手々繋いで……」
来田の妄想が加速していた。しかし、既に騎馬戦で十個の提案が済んだところだ。かといってダンスというのも悪くはない。女子と合法的に手を繋ぐ機会など武道学館生にはなかったのだ。
「ちくしょう。お前らがこれ程までに有能だとは知らなかったぜ。騎馬戦もダンスも採用だ! 問題は何を削るかだが……」
一向に決まらないかと思われた話し合いであるが、予想もしない方向で頭を悩ませることになった。
「奥田さん、密着度で考えると組み体操なんか良くないっすか? 小学生以来っすけど」
このあとも削除する競技より提案が続く。ツイスターゲームとか凡そ高校の体育祭とは思えぬものばかりが飛び出し、瞬く間に空欄は混合競技で埋められていく。
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