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第一章 転生者二人の高校生活
任務
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オークの群れに突き進んでいく一八たち。ところが、ふと大声が二人を呼び止める。
「おい待て、そこの二人!」
声の方向に二人が視線をやると、そこには知った顔があった。ただし、民間人ではない。一八の記憶に焼き付いたままであるその人物は当然のこと軍人であり、かつて一八を焚き付けた浅村ヒカリに他ならなかった。
先を急いでいた一八だが、エアパレットを止めずにいられなかった。彼女は部隊長であるはずだし、今ならばあの屈辱を晴らせるのではないかと。
「おい一八!?」
制止するような玲奈だが、彼女も誰が声をかけたのか分かっている。無視するわけにはならない人物であると。
「ほう、また君たちか? 仲がいいのだな?」
咎められるものと思いきやヒカリは笑っている。ここにいるということは義勇兵。ヒカリは瞬時に推し量っていた。
「浅村大尉、私たちは先を急いでいる。恵美里殿下……、ああいや七条中将の娘さんに中将の救出を頼まれているのだ……」
玲奈の話にヒカリはオッと小さく声を上げた。しかし、直ぐさま表情を変え、またも彼女は白い歯を見せて笑っているかのよう。
「まずは問おう。あれから少しは出来るようになったか?」
返答はどうしてか質問である。しかも話の流れに沿ったとは思えないものだ。
少しばかり考えるようにした玲奈だが、直ぐさま頷きを返している。
「おいババァ、俺も強くなったぞ? 今は魔道剣術士だ!」
「一八、貴様は黙っていろ!」
相手は部隊を率いる士官である。彼女を怒らせてしまえば、義勇兵が出しゃばるなんて出来なくなってしまうはず。
「ババァは聞き捨てならんな? 私はこう見えてまだ二十二歳。少年、これからは美しいお姉さんと呼びたまえよ」
玲奈はハラハラとしていたのだが、玲奈だけでなくヒカリの隣に立つ女性も慌てふためいている。
睨み合うようなヒカリと一八。しかし、一八もまた現状を理解している。言い争っている暇などないのだと。
「じゃあ姉ちゃんよ、俺たちは先を急ぎたい。義勇兵は別にお前たちの部下ってわけじゃねぇんだろ?」
「まあここまで抜けて来たのだから力は付けたか。よかろう。どうせ目指すところは同じだ……」
意外にもヒカリは一八の要請に応じている。目指すところが同じだとも彼女は続けた。
「オークの軍勢の向こう側。オオツ砦が微かに見えるだろう? あの砦には魔法障壁が張ってあり、通信は届かん。だが、砦内に七条小隊がいる可能性は高いとみている。何しろオーク共は執拗に砦を意識しているからな」
ヒカリの推測によれば、七条小隊はオオツ砦に籠城しているとのこと。強固な魔法障壁を張っているため、外部からの通信が届かないようである。
「見ての通りここまで抜けて来られたのは私と優子だけ。部下たちはキョウトへ侵攻する魔物の相手で手一杯。どういう作戦を練ろうかと考えていたところだ……」
中隊規模の編成であったものの、二人以外は一般兵であり、大量の魔物がキョウトへ流れていかぬよう食い止めるのが精一杯であったらしい。
「取るべき作戦は二つ。そして君たちがそれを選べ。囮となりオークの軍勢を食い止める係か、若しくは後方へと回り込みオオツ砦の小隊と合流する役か。ちなみにオークは女を見ると必ず興奮し、捕まってしまえば、気が触れるまで犯されるだろう」
脅すようなヒカリ。それは玲奈に問うているも同然だった。義勇兵ではあっても彼女は女子高生。このような場所で彼女が穢れることを良しとしない感じだ。
「大尉、せっかくだが私はオークについてよく知っているし、これくらいの軍勢ならば相手にしたこともある。よって心配ご無用。我らは先を行く。一刻も早く小隊と合流したい」
「ふむ、確かに君のナイトは頼りがいがありそうだ。任せても良いのだね? この先には災厄とも呼ばれるオークキングがいる可能性もあるぞ?」
ヒカリの脅しが続いた。通常のオークとは比べものにならぬ怪物だと彼女は言う。
それは玲奈も知っていることである。前世の記憶のままであれば、オークキングは明らかに強者であり災厄であった。
「望むところ。今回は一人じゃない。必ずや小隊と合流し、救出すると誓います」
毅然とした返答にヒカリは頷いた。玲奈たちの覚悟を理解した様子である。
「ならばこれを持て。君たちも飲んでおくがいい」
手渡されたのは小瓶が詰め込まれたリュックだった。受け取った玲奈は小首を傾げている。
「それは魔力回復薬だ。それを小隊へと手渡してくれ。魔力さえ回復できたのなら、中将の部隊が帰路を切り開いてくれよう」
「ヒカリ大尉、この子たち義勇兵ですよ!? 予備の薬はもうないのです。もし失敗に終われば……」
ヒカリの隣にいる優子という女性が口を挟んだ。彼女としては反対らしい。小隊へ手渡す回復薬を義勇兵に持たせるなんてことは。
「優子、後方を見てみろ? たった二人であの群れを抜けてここまで来られるか? それが答えだ……」
チラッと後方を一瞥したあと優子は黙り込む。確かに中隊諸共突っ込んできた自分たちとは異なる。乱戦である戦場を抜けてここまで来るのには、それなりの強さが必要だった。
「君たち、何としてでも回復薬は死守してください。この作戦は始めから小隊が自力で戻ることが前提なのです。貴方たちがそれを手渡してくれるだけで状況が一変する。だけど失敗に終われば小隊どころか私たちも危うくなります」
優子の念押しに玲奈が代表して了解と返している。何も問題はなかった。伝えられた任務は考えていたオークの殲滅よりもずっと簡単だったからだ。
「では急げ。良い具合に雨が降ってきた。君たちは雨靄に紛れ、西側から回り込むように移動しろ。奥田一八に岸野玲奈、必ずや砦に辿り着け。期待している」
急に雨足が強くなってきた。戦いづらくはなっていたけれど、秘密裏に進行する一八たちにとっては有り難い雨だ。
これより作戦が始まる。ヒカリと優子が囮となり、彼女たちが暴れ回っている隙に一八と玲奈が後方へと回り込む。小隊と合流できたのなら作戦完了である。
ヒカリと優子のエアパレットが輝きを帯びる。声を上げオークの気を引きつけながら、二人は突進していく。
横目でそれを確認する玲奈。小さく息を吐いたあと彼女もまた告げた。
「一八、一刻も早く終わらせるぞ……」
二人もまた作戦通りに行動を開始。大きく円を描くように迂回をして進む。
このときまだ二人は知らなかった。この作戦の無意味さ。オークの群れの規模がどれほどのものであったのかを……。
「おい待て、そこの二人!」
声の方向に二人が視線をやると、そこには知った顔があった。ただし、民間人ではない。一八の記憶に焼き付いたままであるその人物は当然のこと軍人であり、かつて一八を焚き付けた浅村ヒカリに他ならなかった。
先を急いでいた一八だが、エアパレットを止めずにいられなかった。彼女は部隊長であるはずだし、今ならばあの屈辱を晴らせるのではないかと。
「おい一八!?」
制止するような玲奈だが、彼女も誰が声をかけたのか分かっている。無視するわけにはならない人物であると。
「ほう、また君たちか? 仲がいいのだな?」
咎められるものと思いきやヒカリは笑っている。ここにいるということは義勇兵。ヒカリは瞬時に推し量っていた。
「浅村大尉、私たちは先を急いでいる。恵美里殿下……、ああいや七条中将の娘さんに中将の救出を頼まれているのだ……」
玲奈の話にヒカリはオッと小さく声を上げた。しかし、直ぐさま表情を変え、またも彼女は白い歯を見せて笑っているかのよう。
「まずは問おう。あれから少しは出来るようになったか?」
返答はどうしてか質問である。しかも話の流れに沿ったとは思えないものだ。
少しばかり考えるようにした玲奈だが、直ぐさま頷きを返している。
「おいババァ、俺も強くなったぞ? 今は魔道剣術士だ!」
「一八、貴様は黙っていろ!」
相手は部隊を率いる士官である。彼女を怒らせてしまえば、義勇兵が出しゃばるなんて出来なくなってしまうはず。
「ババァは聞き捨てならんな? 私はこう見えてまだ二十二歳。少年、これからは美しいお姉さんと呼びたまえよ」
玲奈はハラハラとしていたのだが、玲奈だけでなくヒカリの隣に立つ女性も慌てふためいている。
睨み合うようなヒカリと一八。しかし、一八もまた現状を理解している。言い争っている暇などないのだと。
「じゃあ姉ちゃんよ、俺たちは先を急ぎたい。義勇兵は別にお前たちの部下ってわけじゃねぇんだろ?」
「まあここまで抜けて来たのだから力は付けたか。よかろう。どうせ目指すところは同じだ……」
意外にもヒカリは一八の要請に応じている。目指すところが同じだとも彼女は続けた。
「オークの軍勢の向こう側。オオツ砦が微かに見えるだろう? あの砦には魔法障壁が張ってあり、通信は届かん。だが、砦内に七条小隊がいる可能性は高いとみている。何しろオーク共は執拗に砦を意識しているからな」
ヒカリの推測によれば、七条小隊はオオツ砦に籠城しているとのこと。強固な魔法障壁を張っているため、外部からの通信が届かないようである。
「見ての通りここまで抜けて来られたのは私と優子だけ。部下たちはキョウトへ侵攻する魔物の相手で手一杯。どういう作戦を練ろうかと考えていたところだ……」
中隊規模の編成であったものの、二人以外は一般兵であり、大量の魔物がキョウトへ流れていかぬよう食い止めるのが精一杯であったらしい。
「取るべき作戦は二つ。そして君たちがそれを選べ。囮となりオークの軍勢を食い止める係か、若しくは後方へと回り込みオオツ砦の小隊と合流する役か。ちなみにオークは女を見ると必ず興奮し、捕まってしまえば、気が触れるまで犯されるだろう」
脅すようなヒカリ。それは玲奈に問うているも同然だった。義勇兵ではあっても彼女は女子高生。このような場所で彼女が穢れることを良しとしない感じだ。
「大尉、せっかくだが私はオークについてよく知っているし、これくらいの軍勢ならば相手にしたこともある。よって心配ご無用。我らは先を行く。一刻も早く小隊と合流したい」
「ふむ、確かに君のナイトは頼りがいがありそうだ。任せても良いのだね? この先には災厄とも呼ばれるオークキングがいる可能性もあるぞ?」
ヒカリの脅しが続いた。通常のオークとは比べものにならぬ怪物だと彼女は言う。
それは玲奈も知っていることである。前世の記憶のままであれば、オークキングは明らかに強者であり災厄であった。
「望むところ。今回は一人じゃない。必ずや小隊と合流し、救出すると誓います」
毅然とした返答にヒカリは頷いた。玲奈たちの覚悟を理解した様子である。
「ならばこれを持て。君たちも飲んでおくがいい」
手渡されたのは小瓶が詰め込まれたリュックだった。受け取った玲奈は小首を傾げている。
「それは魔力回復薬だ。それを小隊へと手渡してくれ。魔力さえ回復できたのなら、中将の部隊が帰路を切り開いてくれよう」
「ヒカリ大尉、この子たち義勇兵ですよ!? 予備の薬はもうないのです。もし失敗に終われば……」
ヒカリの隣にいる優子という女性が口を挟んだ。彼女としては反対らしい。小隊へ手渡す回復薬を義勇兵に持たせるなんてことは。
「優子、後方を見てみろ? たった二人であの群れを抜けてここまで来られるか? それが答えだ……」
チラッと後方を一瞥したあと優子は黙り込む。確かに中隊諸共突っ込んできた自分たちとは異なる。乱戦である戦場を抜けてここまで来るのには、それなりの強さが必要だった。
「君たち、何としてでも回復薬は死守してください。この作戦は始めから小隊が自力で戻ることが前提なのです。貴方たちがそれを手渡してくれるだけで状況が一変する。だけど失敗に終われば小隊どころか私たちも危うくなります」
優子の念押しに玲奈が代表して了解と返している。何も問題はなかった。伝えられた任務は考えていたオークの殲滅よりもずっと簡単だったからだ。
「では急げ。良い具合に雨が降ってきた。君たちは雨靄に紛れ、西側から回り込むように移動しろ。奥田一八に岸野玲奈、必ずや砦に辿り着け。期待している」
急に雨足が強くなってきた。戦いづらくはなっていたけれど、秘密裏に進行する一八たちにとっては有り難い雨だ。
これより作戦が始まる。ヒカリと優子が囮となり、彼女たちが暴れ回っている隙に一八と玲奈が後方へと回り込む。小隊と合流できたのなら作戦完了である。
ヒカリと優子のエアパレットが輝きを帯びる。声を上げオークの気を引きつけながら、二人は突進していく。
横目でそれを確認する玲奈。小さく息を吐いたあと彼女もまた告げた。
「一八、一刻も早く終わらせるぞ……」
二人もまた作戦通りに行動を開始。大きく円を描くように迂回をして進む。
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