オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第一章 転生者二人の高校生活

結果報告

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 受験から二週間が過ぎていた。玲奈の予想通りに一八の手元には合格通知が届いている。玲奈もまた合格通知を手にし、岸野家と奥田家は連日のお祭り騒ぎとなっていた。

 本日は朝稽古のあと学校へ報告に行くつもりだったのだが、一八は武士に捕まっている。
「よくやったぞ、一八! 儂はお前を誇りに思う!」
「師範、もう何度目っすか? 今日は学校へ行くんすから!」
 玲奈は笑っている。可能性として薄いと考えていたのは間違いない。けれど、一八は限られた時間の中で精一杯の努力をし、そして勝ち取ったのだ。従って武士の言葉に嘘などほんの少しもなかった。

「一八、諦めろ。父上は四六時中貴様の話ばかりしている。付き合ってやるのも弟子の仕事だ。私は先に学校へ行くからな?」
「ま、待て! 俺も行く!」
 武士を放置し、一八は急いで制服に着替える。玲奈がそこにいたのに更衣室へ駆け込むことなく。

 しばらくすると車のクラクションが響いた。どうやら七条家の魔道車が到着したらしい。
「一八、急げ! 置いていくぞ?」
「だから待てって!」
 慌てて道場をあとにする二人。待たせてはならないと飛び出していた。
 二人が現れるや、運転手が後部座席を開いてくれる。この辺りは流石に貴族だ。恐縮してしまうほどの好待遇である。

 一八が乗り込むと奥側に恵美里がいた。試験のときとは違って後部座席に彼女がいる。
「あ? もしかして俺は助手席っすか?」
「ああいえ、お話しするのには後部座席の方が良いかと思いまして。わたくしたちは大きくありませんので三人でも大丈夫かと……」
 思えば恵美里とも随分と打ち解けられた。出会って間もない頃は過度に警戒されていたけれど、今や隣に座っても構わないと彼女は言う。これも全て頑張ったからだ。生徒会や剣術に打ち込む姿が彼女の印象を上書きさせたに違いない。
「遅くなりましたが、奥田会長合格おめでとうございます」
 魔道車が動き出すや恵美里が話を切り出す。恐らくそれが後部座席にいた理由。視線を合わせて伝えようと、彼女は後部座席にいたはずだ。

「ああいえ、七条会長こそおめでとうございます」
 一八が返した通り、恵美里もまた魔道科に合格している。カラスマ女子学園生徒会では小乃美も舞子も合格し、推薦をもらえた生徒会役員は全員が難関を突破していた。
「本当に全員が合格できて良かったですね?」
 恵美里は知らない。教員に頼み込んでまで推薦を手にした男がいたこと。高嶺の花に手を伸ばした男が人知れず不合格になっていたことを。
「そ、そうっすね……」
 詳しい話を一八は聞いていない。一月までは月謝を払い終えていたけれど、合格発表のあと来田は道場に姿を見せなくなった。ケリをつけるように玲奈をけしかけたのは彼自身であるが、流石に気の毒に感じてしまう。

「とにかく来年から同じ士官候補生です。よろしくお願いします」
 改めて一八は頭を下げた。正直に恵美里がいなければ今の自分はないと思っている。彼女にそのつもりはなくとも、一八は恵美里という存在に感謝していた。
 頂点に立つ者は意図せず周囲に影響を与えるもの。まさに恵美里にはその才覚があるように思う。一八は自然と巻き込まれており、知らず知らずのうちに導かれている。

 受験が有利になったのはエンペラーと一騎討ちをしたからであり、本を正せば恵美里とあのとき校門で出会ったから。偶然ではあったけれど、彼女がいなければ一八の知名度はなく、その他大勢として受験するしかなかったはずだ。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。奥田会長……」
「もう会長ではないので、名前か名字で呼んでください。俺もそうさせてもらいますから」
 春先を考えれば目覚ましい進歩である。玲奈以外の女子と普通に会話できるなど、一八には考えられないことであった。

「おい一八、距離感を間違えるな? 殿下は貴様と同列にいないのだからな!」
「あら玲奈さんこそ、距離感を間違っていますよ? わたくしは姫君などではない。良い機会ですので改めてお友達として接していただきたい。以降わたくしのことは恵美里と呼び捨てになさってくださいね?」
「いやいや、そんなことは不可能です! 天地がひっくり返ろうと……」
「命令です! 玲奈さん……?」
 どうやら今度ばかりは恵美里も本気であるようだ。中等部からエスカレーター式に進学した高等部とは違う。職場とも言うべき騎士学校ではお互いの関係を再構築すべきなのだと。

 流石に玲奈は戸惑っている。前世を捨てた彼女だが、生き写しのような恵美里を呼び捨てになんて出来なかった。
「恵美里さん! 俺も良いっすよね?」
「ええ、もちろんです」
 玲奈が躊躇していると一八が先に呼んでしまう。それも名字ではなく名前を。これには玲奈もカチンときてしまう。
「一八、私より先に名前で呼ぶとは何事か!?」
「んん? なら玲奈も呼べばいいだろう? 恵美里さんが構わないと言ってるし」
 過度に躊躇ってしまうけれど、一八だけが親しくするのは我慢ならない。だとすれば自分もまた彼女の名をそのままに呼ぶだけだ。

「え、恵美里さま……」
「敬称も必要ありません! わたくしたちはお友達なのですよ?」
 前世を引き摺っていた頃ならば、とても受け入れられない。だが、今の玲奈はレイナ・ロゼニアを捨てた。もう主従関係などなく、二人の間柄は中学からの同級生。常に一緒に行動していた二人は他人からすれば親友であったに違いない。
 良い機会だと思う。全ての呪縛を解き放つとき。思い切りよくその名を呼べば過去が終わり、新しい関係が構築されるはず。

 大きく息を吸ってから、玲奈はそれを吐き出す。無理矢理に言葉を絞り出すために、彼女は吐き出される息へと無理矢理に声を乗せた。
「恵美里……」
 らしくないか細い声が車中に響く。さりとて玲奈以外の二人にはちゃんと届いている。だが、二人して思わず吹き出してしまうくらい玲奈の声は小さかった。
「ふはは、何だよそれ!?」
「玲奈さん、自信を持ってください!」
「し、仕方ないだろう!? ずっと殿下と呼んでいたのだから!」
 これ以上ないほど和やかな雰囲気となる。
 この先に待ち受けるのは決して牧歌的な未来ではない。運命と呼ぶべき戦いが待ち受けているはずだ。

 女神マナリス曰く人族は窮地に陥るという。しかし、運命は定まっていないとも口にしていた。
 人族が再び隆盛を極めるとするならば、鍵となるのは転生者の二人に違いない。マナリスの意図がどうであれ、回避すべき未来を知る二人ならば切り開いていけるはずだ。

 学生とは名ばかりで、兵団所属となる士官候補生。迫り来る危機に対処すべく、一八と玲奈は研鑽を続ける。やり直しの人生は途中退場しないように。

 今度こそは平穏な未来へ辿り着けるようにと……。


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今回で第一章が完結です。
評価いただけますと嬉しいです。
引き続き第二章もよろしくお願い致します。
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