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第二章 騎士となるために
女神の加護
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男子の身体測定も順調であった。身長や体重といった基本的なものから瞬発力や筋力量なんてものまで計測している。
「奥田君、次は剣技だね? 楽しみだなぁ……」
笑みを浮かべた伸吾。剣技とは別に戦うわけではない。太刀筋の計測や筋力と魔力がロスなく伝達できているかを計測するものだ。
「楽しみ? 俺はど素人だから自信ねぇわ。師匠にも力だけだと言われてるしな」
「いやいや、君の師匠は厳しいんだね? 浅村大尉と三十分も戦える剣士だなんて佐官級にもいないんじゃない?」
伸吾は笑っている。一八は本当に技術面が不足していたのに、まるで信じていないようだ。
「技術云々じゃなく、あの反応速度。僕は鳥肌が立ったよ。最終的に大尉がスキルを使ったのはそれしか手がなかったからだ。彼女の斬撃を君は何度も受けたけれど、上手く剣の面から外していた。致命傷を与えられないと彼女を焦らせたんだ。あんな真似は誰にもできない。普通の剣士なら剣でいなそうとするからね」
意外にも伸吾は一八の試験をよく見ていた。確かに一八は捨て身の戦いを挑んだのだ。小手先の勝負は止めて自身の攻撃を重視した。しかし、柔術で鍛えた目は反射的に斬撃の威力を削いでいたらしい。
「僕は君と戦ってみたいよ――――」
最後に伸吾はそんなことをいう。
一八は返答に困っていた。知り合ったばかりだ。妙に自信ありげなところはあったけれど、彼からは強者にある威圧感など少しも感じなかった。
「まあ、そのうちな……」
当たり障りのない返答をし、一八は微笑んで見せる。人族に転生して学んだ処世術。笑みを見せるだけで大抵の場合は上手くいくはず。
「次は奥田一八! この計測台に打ち込みをしろ!」
ここで一八の名が呼ばれた。微妙な雰囲気であったから、この計測順は願ったり叶ったりだ。早速と奈落太刀を抜き、一八は計測台の前に立つ。
「全力で打ち込め。良いというまで続けろ」
地面には魔法陣が描かれていた。どうやら計測台だけで調べるのではなく、魔法陣からも情報を収集しているらしい。
一八は集中する。打ち込みは毎日続けていた。よって気負う必要もない。ましてこれは試験などではないのだから。
不思議と力が湧く。昨日は何のトレーニングもできなかったけれど、いつもより調子が良いと一八は感じている。
「打ち込み始めます!」
一八の大声が木霊する。基礎的な上下振りから斜め振りを繰り出す。
「や、止め! そこまでっ!」
どうしてか、たった二振りで計測を止められてしまう。一八としてはまだ全力ではなかったというのに。
だが、理由は明らかであった。あろうことか設置された計測台は連撃に耐えられず、二振り目を前にして破壊されていたのだ。
「ふうむ、聞きしに勝るとはこのことか。エンペラーの腕を斬り落としたという話は、誇張されたものでも冗談でもなかったんだな……」
計測官は何度も頭を振る。計測台を切り裂く新入生など今まで一人もいない。よって懐疑的であった話も受け入れるしかなくなっていた。
「しばし剣技計測は中断する。先に属性検査に向かってくれ」
器具を設置し直す時間に候補生たちは次なる測定へと回されている。
「奥田は待て。一応計測結果を伝えておく」
たった二振りであったものの、一八の測定は完了したらしい。端末を見せながら計測官が言った。
「威力は語るまでもない。また筋力の伝達も文句のつけようがないな。だが、魔力伝達がどうもおかしい……」
圧倒的な威力を見せつけた一八であるけれど、計測官は魔力伝達に異常があるように話す。
「何がおかしいんすか?」
「伝達率が200%となっている。全力で魔力を込めたのか?」
計測官の問いには首を振る。一八は軽く振っただけ。威力よりも正確性を重視したはずであった。
「ふむ、誤計測である可能性もあるが気になるな。奥田は先にステータスチェックに行け。もう女子の計測は終わっているはずだ」
「分かりました……」
どうにも不可解だが、命じられては従うしかない。一八は先にステータスチェックへと向かうことになった。
グランドを後にし講堂である学舎の一階へと到着。陰気な廊下の突き当たりの部屋へと一八は入っていく。
「奥田候補生です。入ります……」
ノックをして声をかけた一八だが、中からの応答よりも先に扉を開いていた。
だが、一瞬にして固まってしまう。一八は確かに女子の測定は終わっていると聞いたはずなのだ。
「か、一八さん!?」
「おい一八、堂々と覗きとはどういうことだ!?」
なぜだか、まだ女子が残っていた。計測着は薄手のシャツのみ。玲奈の薄着ならば見慣れていたものの、どうしてか魔道科である恵美里たちまでもがそこにいた。
「わぁああっ!? すまん!」
見入ってしまった一八だが、玲奈の怒声に慌てて扉を閉める。しかし、しばらくしてその扉は内側から開かれていた。
「奥田一八だな? 今し方連絡があった。魔道科も少し問題が発生したようでな。段取りが変更となっている。まあ気にするな。別に裸を見たわけじゃない。先に君の計測をしてくれとのことだから入って良いぞ」
白衣を着た女医は一八に言う。部屋の中からはどよめきが聞こえていたけれど、入れと命令されてしまった一八は恐縮しながらも入室していく。
「一八、死にたくなければこっちは見るなよ? 絶対の絶対にだ!」
女子たちはカーテンの仕切りがある方へと避難している模様。玲奈の声だけが耳に届いている。
「私は医師の三井だ。早速だがこのカプセルに入ってくれ。女子たちの反応は無視して構わん。前線では男女が共に過ごすことも多い。その内に慣れるはずだ」
一八は言われるがままカプセルへと入る。かなり窮屈であったけれど、何とか身を縮めて収まっていた。
「力を抜けと言っても無理か。カプセルを閉じるぞ。良いと言うまでできるだけ動かぬように」
聞けば十分もかかるらしい。計測後には身体が痛いだろうなと思う。しかしながら、どうせ受けることになるのだ。先に済ませておくのも悪くはない。
しばらくしてアラーム音が聞こえるや否にカプセルが開かれている。軋む身体を解そうと一八は大きく背伸びをしていた。
「おい奥田、君は今まで魔力切れになったことはあるか?」
まだカプセルから出ていないというのに三井が聞いた。一八はゆっくりと身体を起こしていたのだが、彼女はお構いなしである。
「魔力切れ? 完全に切れたのは一度だけっす。エンペラーと戦ったとき……」
「なるほどな。少しばかり君の魔力はおかしいことになっている」
そういえば剣術の計測官も同じようなことを言っていた。魔力伝達が200%だとか口にしていたはず。
「ステータスの魔力量は別におかしくないのだ。それこそ前衛士として優秀だといえるほどに……」
「じゃあ、何がおかしいんすか?」
魔力量であれば一八もハンディデバイスにて確認している。柔術部の仲間と比べても高かったし、何の問題もないと考えていた。
「新井計測官から聞いた話では魔力伝達が100%を越えていたらしい。肉体強化であればロスは生じないのだが、剣に循環させると必ずロスがある。通常はそのロスを剣の握りや振り方を変えることによって100%へと近付けていく訓練をするのだよ」
一八の異常について三井が語る。訓練によって100に近付けていくのが普通であり200%という数値は考えられないとのこと。
「ステータスチェックでは何も分からん。ただ予想の範疇をでない原因とも考えられる要素が一つだけある……」
三井が続けた。ステータスは概ね良好であって原因不明であるようだが、彼女は原因となり得るものを発見したらしい。
「それは女神の加護――――」
三井の発言にどよめく。避難している女子たちが思わず声を上げたのだ。玲奈を知る者たちはそのスキルを知っていたけれど、まさか一八まで女神の加護を持っているとは初耳であった。
「恐らく岸野玲奈も同じようなことになっているのではないだろうか。君たち二人の強さ。魔力効率が段違いであるのなら、格上相手でも十分に戦えるはずだ」
技術向上の努力は否定しないがなと三井は付け加えている。女神の加護を有する二人の共通点はその強さだ。兵団最強と名高い浅村大尉と一八は死闘を繰り広げている。玲奈もまた入学試験で試験官に勝利した二人に含まれていた。二人の強さに女神の加護が効果を発揮しているのだと三井は考えているようだ。
「ただし、燃費が悪い。本来なら君は今までの倍は剣を振れる。常に100%を超えるのかどうかはデータ不足だが、恒常的に超えているのなら君は100%に抑える感覚を身につけるべきだな」
三井が難点を述べた。100%を超える一振りは精神状態などにより一時的に引き起こされることがある。しかし、それは極限状態であったり、過度に高揚したりする場面に他ならない。ただの計測時に引き起こされるとは考えられなかった。
「奥田、今日の打ち込みで何か気を付けたことはないか? いつも通りであったか?」
ここで問いが向けられている。三井は医師であると同時に研究者だ。疑問を解決せずにはいられなかったのかもしれない。
「そういや今日はかなり調子が良いと感じた。だけど別に何も考えてないっす」
「なるほど、やはり一時的なものかもしれないな。計測に張り切るあまりに。ただ200%という数値は起こり得ない。無意識に女神の加護が発動した可能性は高い。君のデータを学会に報告してもいいか?」
「別に構わないっすけど、役に立つんすか? 赤ん坊の頃に散々調べられたみたいですけど、何も分からなかったみたいっす」
天恵技研究所なる組織は共和国の機関である。一八と玲奈は生まれて直ぐに様々な検査を受けたらしい。しかし、女神の加護は効果も発動条件も不明なままであった。
「調べたとして歴史上二人しかいないスキルだ。これは学者としての好奇心にすぎない。ただ二人が同時期に存在していることは互いの利益に繋がることもあるだろう」
効果のほどは二人も聞かされていない。そもそも加護がスキルに含まれているなんて考えもしなかったのだ。
「あと計測結果についてだが、奥田の最大魔力はまだまだ伸びる。訓練は魔力アップに重点を置きたまえ。岸野玲奈にも話したけれど、前線で魔力切れを起こさぬ衛士は貴重なのだ」
最後に評価をもらう。けれど、一八は頷くだけだ。
専攻プログラムは各人が目標を持って選ぶことになっている。伸びしろがあるというのなら、それに従うだけであった。
「剣術科の女子たちは着替えてグランドへと向かえ。魔道科の測定を再開する」
三井は淡々と仕事をこなしていく。恵美里たちが来ていたわけは彼女たち魔道科も問題が発生し、測定が前倒しになったからであった。
一八は一人グランドへと戻っていく。順番的に属性検査といういものがあるはずだ。
どうにも理解できたようでできない話。かといって別に問い質されたわけでもないし、効果は歓迎すべきものである。
一八は深く考えるのを止めて走り出すのだった……。
「奥田君、次は剣技だね? 楽しみだなぁ……」
笑みを浮かべた伸吾。剣技とは別に戦うわけではない。太刀筋の計測や筋力と魔力がロスなく伝達できているかを計測するものだ。
「楽しみ? 俺はど素人だから自信ねぇわ。師匠にも力だけだと言われてるしな」
「いやいや、君の師匠は厳しいんだね? 浅村大尉と三十分も戦える剣士だなんて佐官級にもいないんじゃない?」
伸吾は笑っている。一八は本当に技術面が不足していたのに、まるで信じていないようだ。
「技術云々じゃなく、あの反応速度。僕は鳥肌が立ったよ。最終的に大尉がスキルを使ったのはそれしか手がなかったからだ。彼女の斬撃を君は何度も受けたけれど、上手く剣の面から外していた。致命傷を与えられないと彼女を焦らせたんだ。あんな真似は誰にもできない。普通の剣士なら剣でいなそうとするからね」
意外にも伸吾は一八の試験をよく見ていた。確かに一八は捨て身の戦いを挑んだのだ。小手先の勝負は止めて自身の攻撃を重視した。しかし、柔術で鍛えた目は反射的に斬撃の威力を削いでいたらしい。
「僕は君と戦ってみたいよ――――」
最後に伸吾はそんなことをいう。
一八は返答に困っていた。知り合ったばかりだ。妙に自信ありげなところはあったけれど、彼からは強者にある威圧感など少しも感じなかった。
「まあ、そのうちな……」
当たり障りのない返答をし、一八は微笑んで見せる。人族に転生して学んだ処世術。笑みを見せるだけで大抵の場合は上手くいくはず。
「次は奥田一八! この計測台に打ち込みをしろ!」
ここで一八の名が呼ばれた。微妙な雰囲気であったから、この計測順は願ったり叶ったりだ。早速と奈落太刀を抜き、一八は計測台の前に立つ。
「全力で打ち込め。良いというまで続けろ」
地面には魔法陣が描かれていた。どうやら計測台だけで調べるのではなく、魔法陣からも情報を収集しているらしい。
一八は集中する。打ち込みは毎日続けていた。よって気負う必要もない。ましてこれは試験などではないのだから。
不思議と力が湧く。昨日は何のトレーニングもできなかったけれど、いつもより調子が良いと一八は感じている。
「打ち込み始めます!」
一八の大声が木霊する。基礎的な上下振りから斜め振りを繰り出す。
「や、止め! そこまでっ!」
どうしてか、たった二振りで計測を止められてしまう。一八としてはまだ全力ではなかったというのに。
だが、理由は明らかであった。あろうことか設置された計測台は連撃に耐えられず、二振り目を前にして破壊されていたのだ。
「ふうむ、聞きしに勝るとはこのことか。エンペラーの腕を斬り落としたという話は、誇張されたものでも冗談でもなかったんだな……」
計測官は何度も頭を振る。計測台を切り裂く新入生など今まで一人もいない。よって懐疑的であった話も受け入れるしかなくなっていた。
「しばし剣技計測は中断する。先に属性検査に向かってくれ」
器具を設置し直す時間に候補生たちは次なる測定へと回されている。
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たった二振りであったものの、一八の測定は完了したらしい。端末を見せながら計測官が言った。
「威力は語るまでもない。また筋力の伝達も文句のつけようがないな。だが、魔力伝達がどうもおかしい……」
圧倒的な威力を見せつけた一八であるけれど、計測官は魔力伝達に異常があるように話す。
「何がおかしいんすか?」
「伝達率が200%となっている。全力で魔力を込めたのか?」
計測官の問いには首を振る。一八は軽く振っただけ。威力よりも正確性を重視したはずであった。
「ふむ、誤計測である可能性もあるが気になるな。奥田は先にステータスチェックに行け。もう女子の計測は終わっているはずだ」
「分かりました……」
どうにも不可解だが、命じられては従うしかない。一八は先にステータスチェックへと向かうことになった。
グランドを後にし講堂である学舎の一階へと到着。陰気な廊下の突き当たりの部屋へと一八は入っていく。
「奥田候補生です。入ります……」
ノックをして声をかけた一八だが、中からの応答よりも先に扉を開いていた。
だが、一瞬にして固まってしまう。一八は確かに女子の測定は終わっていると聞いたはずなのだ。
「か、一八さん!?」
「おい一八、堂々と覗きとはどういうことだ!?」
なぜだか、まだ女子が残っていた。計測着は薄手のシャツのみ。玲奈の薄着ならば見慣れていたものの、どうしてか魔道科である恵美里たちまでもがそこにいた。
「わぁああっ!? すまん!」
見入ってしまった一八だが、玲奈の怒声に慌てて扉を閉める。しかし、しばらくしてその扉は内側から開かれていた。
「奥田一八だな? 今し方連絡があった。魔道科も少し問題が発生したようでな。段取りが変更となっている。まあ気にするな。別に裸を見たわけじゃない。先に君の計測をしてくれとのことだから入って良いぞ」
白衣を着た女医は一八に言う。部屋の中からはどよめきが聞こえていたけれど、入れと命令されてしまった一八は恐縮しながらも入室していく。
「一八、死にたくなければこっちは見るなよ? 絶対の絶対にだ!」
女子たちはカーテンの仕切りがある方へと避難している模様。玲奈の声だけが耳に届いている。
「私は医師の三井だ。早速だがこのカプセルに入ってくれ。女子たちの反応は無視して構わん。前線では男女が共に過ごすことも多い。その内に慣れるはずだ」
一八は言われるがままカプセルへと入る。かなり窮屈であったけれど、何とか身を縮めて収まっていた。
「力を抜けと言っても無理か。カプセルを閉じるぞ。良いと言うまでできるだけ動かぬように」
聞けば十分もかかるらしい。計測後には身体が痛いだろうなと思う。しかしながら、どうせ受けることになるのだ。先に済ませておくのも悪くはない。
しばらくしてアラーム音が聞こえるや否にカプセルが開かれている。軋む身体を解そうと一八は大きく背伸びをしていた。
「おい奥田、君は今まで魔力切れになったことはあるか?」
まだカプセルから出ていないというのに三井が聞いた。一八はゆっくりと身体を起こしていたのだが、彼女はお構いなしである。
「魔力切れ? 完全に切れたのは一度だけっす。エンペラーと戦ったとき……」
「なるほどな。少しばかり君の魔力はおかしいことになっている」
そういえば剣術の計測官も同じようなことを言っていた。魔力伝達が200%だとか口にしていたはず。
「ステータスの魔力量は別におかしくないのだ。それこそ前衛士として優秀だといえるほどに……」
「じゃあ、何がおかしいんすか?」
魔力量であれば一八もハンディデバイスにて確認している。柔術部の仲間と比べても高かったし、何の問題もないと考えていた。
「新井計測官から聞いた話では魔力伝達が100%を越えていたらしい。肉体強化であればロスは生じないのだが、剣に循環させると必ずロスがある。通常はそのロスを剣の握りや振り方を変えることによって100%へと近付けていく訓練をするのだよ」
一八の異常について三井が語る。訓練によって100に近付けていくのが普通であり200%という数値は考えられないとのこと。
「ステータスチェックでは何も分からん。ただ予想の範疇をでない原因とも考えられる要素が一つだけある……」
三井が続けた。ステータスは概ね良好であって原因不明であるようだが、彼女は原因となり得るものを発見したらしい。
「それは女神の加護――――」
三井の発言にどよめく。避難している女子たちが思わず声を上げたのだ。玲奈を知る者たちはそのスキルを知っていたけれど、まさか一八まで女神の加護を持っているとは初耳であった。
「恐らく岸野玲奈も同じようなことになっているのではないだろうか。君たち二人の強さ。魔力効率が段違いであるのなら、格上相手でも十分に戦えるはずだ」
技術向上の努力は否定しないがなと三井は付け加えている。女神の加護を有する二人の共通点はその強さだ。兵団最強と名高い浅村大尉と一八は死闘を繰り広げている。玲奈もまた入学試験で試験官に勝利した二人に含まれていた。二人の強さに女神の加護が効果を発揮しているのだと三井は考えているようだ。
「ただし、燃費が悪い。本来なら君は今までの倍は剣を振れる。常に100%を超えるのかどうかはデータ不足だが、恒常的に超えているのなら君は100%に抑える感覚を身につけるべきだな」
三井が難点を述べた。100%を超える一振りは精神状態などにより一時的に引き起こされることがある。しかし、それは極限状態であったり、過度に高揚したりする場面に他ならない。ただの計測時に引き起こされるとは考えられなかった。
「奥田、今日の打ち込みで何か気を付けたことはないか? いつも通りであったか?」
ここで問いが向けられている。三井は医師であると同時に研究者だ。疑問を解決せずにはいられなかったのかもしれない。
「そういや今日はかなり調子が良いと感じた。だけど別に何も考えてないっす」
「なるほど、やはり一時的なものかもしれないな。計測に張り切るあまりに。ただ200%という数値は起こり得ない。無意識に女神の加護が発動した可能性は高い。君のデータを学会に報告してもいいか?」
「別に構わないっすけど、役に立つんすか? 赤ん坊の頃に散々調べられたみたいですけど、何も分からなかったみたいっす」
天恵技研究所なる組織は共和国の機関である。一八と玲奈は生まれて直ぐに様々な検査を受けたらしい。しかし、女神の加護は効果も発動条件も不明なままであった。
「調べたとして歴史上二人しかいないスキルだ。これは学者としての好奇心にすぎない。ただ二人が同時期に存在していることは互いの利益に繋がることもあるだろう」
効果のほどは二人も聞かされていない。そもそも加護がスキルに含まれているなんて考えもしなかったのだ。
「あと計測結果についてだが、奥田の最大魔力はまだまだ伸びる。訓練は魔力アップに重点を置きたまえ。岸野玲奈にも話したけれど、前線で魔力切れを起こさぬ衛士は貴重なのだ」
最後に評価をもらう。けれど、一八は頷くだけだ。
専攻プログラムは各人が目標を持って選ぶことになっている。伸びしろがあるというのなら、それに従うだけであった。
「剣術科の女子たちは着替えてグランドへと向かえ。魔道科の測定を再開する」
三井は淡々と仕事をこなしていく。恵美里たちが来ていたわけは彼女たち魔道科も問題が発生し、測定が前倒しになったからであった。
一八は一人グランドへと戻っていく。順番的に属性検査といういものがあるはずだ。
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