オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
85 / 212
第二章 騎士となるために

女神の加護

しおりを挟む
 男子の身体測定も順調であった。身長や体重といった基本的なものから瞬発力や筋力量なんてものまで計測している。
「奥田君、次は剣技だね? 楽しみだなぁ……」
 笑みを浮かべた伸吾。剣技とは別に戦うわけではない。太刀筋の計測や筋力と魔力がロスなく伝達できているかを計測するものだ。

「楽しみ? 俺はど素人だから自信ねぇわ。師匠にも力だけだと言われてるしな」
「いやいや、君の師匠は厳しいんだね? 浅村大尉と三十分も戦える剣士だなんて佐官級にもいないんじゃない?」
 伸吾は笑っている。一八は本当に技術面が不足していたのに、まるで信じていないようだ。

「技術云々じゃなく、あの反応速度。僕は鳥肌が立ったよ。最終的に大尉がスキルを使ったのはそれしか手がなかったからだ。彼女の斬撃を君は何度も受けたけれど、上手く剣の面から外していた。致命傷を与えられないと彼女を焦らせたんだ。あんな真似は誰にもできない。普通の剣士なら剣でいなそうとするからね」
 意外にも伸吾は一八の試験をよく見ていた。確かに一八は捨て身の戦いを挑んだのだ。小手先の勝負は止めて自身の攻撃を重視した。しかし、柔術で鍛えた目は反射的に斬撃の威力を削いでいたらしい。

「僕は君と戦ってみたいよ――――」
 最後に伸吾はそんなことをいう。
 一八は返答に困っていた。知り合ったばかりだ。妙に自信ありげなところはあったけれど、彼からは強者にある威圧感など少しも感じなかった。
「まあ、そのうちな……」
 当たり障りのない返答をし、一八は微笑んで見せる。人族に転生して学んだ処世術。笑みを見せるだけで大抵の場合は上手くいくはず。

「次は奥田一八! この計測台に打ち込みをしろ!」
 ここで一八の名が呼ばれた。微妙な雰囲気であったから、この計測順は願ったり叶ったりだ。早速と奈落太刀を抜き、一八は計測台の前に立つ。
「全力で打ち込め。良いというまで続けろ」
 地面には魔法陣が描かれていた。どうやら計測台だけで調べるのではなく、魔法陣からも情報を収集しているらしい。

 一八は集中する。打ち込みは毎日続けていた。よって気負う必要もない。ましてこれは試験などではないのだから。
 不思議と力が湧く。昨日は何のトレーニングもできなかったけれど、いつもより調子が良いと一八は感じている。
「打ち込み始めます!」
 一八の大声が木霊する。基礎的な上下振りから斜め振りを繰り出す。

「や、止め! そこまでっ!」
 どうしてか、たった二振りで計測を止められてしまう。一八としてはまだ全力ではなかったというのに。
 だが、理由は明らかであった。あろうことか設置された計測台は連撃に耐えられず、二振り目を前にして破壊されていたのだ。

「ふうむ、聞きしに勝るとはこのことか。エンペラーの腕を斬り落としたという話は、誇張されたものでも冗談でもなかったんだな……」
 計測官は何度も頭を振る。計測台を切り裂く新入生など今まで一人もいない。よって懐疑的であった話も受け入れるしかなくなっていた。
「しばし剣技計測は中断する。先に属性検査に向かってくれ」
 器具を設置し直す時間に候補生たちは次なる測定へと回されている。

「奥田は待て。一応計測結果を伝えておく」
 たった二振りであったものの、一八の測定は完了したらしい。端末を見せながら計測官が言った。
「威力は語るまでもない。また筋力の伝達も文句のつけようがないな。だが、魔力伝達がどうもおかしい……」
 圧倒的な威力を見せつけた一八であるけれど、計測官は魔力伝達に異常があるように話す。
「何がおかしいんすか?」
「伝達率が200%となっている。全力で魔力を込めたのか?」
 計測官の問いには首を振る。一八は軽く振っただけ。威力よりも正確性を重視したはずであった。

「ふむ、誤計測である可能性もあるが気になるな。奥田は先にステータスチェックに行け。もう女子の計測は終わっているはずだ」
「分かりました……」
 どうにも不可解だが、命じられては従うしかない。一八は先にステータスチェックへと向かうことになった。

 グランドを後にし講堂である学舎の一階へと到着。陰気な廊下の突き当たりの部屋へと一八は入っていく。
「奥田候補生です。入ります……」
 ノックをして声をかけた一八だが、中からの応答よりも先に扉を開いていた。
 だが、一瞬にして固まってしまう。一八は確かに女子の測定は終わっていると聞いたはずなのだ。

「か、一八さん!?」
「おい一八、堂々と覗きとはどういうことだ!?」
 なぜだか、まだ女子が残っていた。計測着は薄手のシャツのみ。玲奈の薄着ならば見慣れていたものの、どうしてか魔道科である恵美里たちまでもがそこにいた。

「わぁああっ!? すまん!」
 見入ってしまった一八だが、玲奈の怒声に慌てて扉を閉める。しかし、しばらくしてその扉は内側から開かれていた。
「奥田一八だな? 今し方連絡があった。魔道科も少し問題が発生したようでな。段取りが変更となっている。まあ気にするな。別に裸を見たわけじゃない。先に君の計測をしてくれとのことだから入って良いぞ」
 白衣を着た女医は一八に言う。部屋の中からはどよめきが聞こえていたけれど、入れと命令されてしまった一八は恐縮しながらも入室していく。

「一八、死にたくなければこっちは見るなよ? 絶対の絶対にだ!」
 女子たちはカーテンの仕切りがある方へと避難している模様。玲奈の声だけが耳に届いている。
「私は医師の三井だ。早速だがこのカプセルに入ってくれ。女子たちの反応は無視して構わん。前線では男女が共に過ごすことも多い。その内に慣れるはずだ」
 一八は言われるがままカプセルへと入る。かなり窮屈であったけれど、何とか身を縮めて収まっていた。

「力を抜けと言っても無理か。カプセルを閉じるぞ。良いと言うまでできるだけ動かぬように」
 聞けば十分もかかるらしい。計測後には身体が痛いだろうなと思う。しかしながら、どうせ受けることになるのだ。先に済ませておくのも悪くはない。

 しばらくしてアラーム音が聞こえるや否にカプセルが開かれている。軋む身体を解そうと一八は大きく背伸びをしていた。
「おい奥田、君は今まで魔力切れになったことはあるか?」
 まだカプセルから出ていないというのに三井が聞いた。一八はゆっくりと身体を起こしていたのだが、彼女はお構いなしである。
「魔力切れ? 完全に切れたのは一度だけっす。エンペラーと戦ったとき……」
「なるほどな。少しばかり君の魔力はおかしいことになっている」
 そういえば剣術の計測官も同じようなことを言っていた。魔力伝達が200%だとか口にしていたはず。

「ステータスの魔力量は別におかしくないのだ。それこそ前衛士として優秀だといえるほどに……」
「じゃあ、何がおかしいんすか?」
 魔力量であれば一八もハンディデバイスにて確認している。柔術部の仲間と比べても高かったし、何の問題もないと考えていた。
「新井計測官から聞いた話では魔力伝達が100%を越えていたらしい。肉体強化であればロスは生じないのだが、剣に循環させると必ずロスがある。通常はそのロスを剣の握りや振り方を変えることによって100%へと近付けていく訓練をするのだよ」
 一八の異常について三井が語る。訓練によって100に近付けていくのが普通であり200%という数値は考えられないとのこと。

「ステータスチェックでは何も分からん。ただ予想の範疇をでない原因とも考えられる要素が一つだけある……」
 三井が続けた。ステータスは概ね良好であって原因不明であるようだが、彼女は原因となり得るものを発見したらしい。

「それは女神の加護――――」
 三井の発言にどよめく。避難している女子たちが思わず声を上げたのだ。玲奈を知る者たちはそのスキルを知っていたけれど、まさか一八まで女神の加護を持っているとは初耳であった。

「恐らく岸野玲奈も同じようなことになっているのではないだろうか。君たち二人の強さ。魔力効率が段違いであるのなら、格上相手でも十分に戦えるはずだ」
 技術向上の努力は否定しないがなと三井は付け加えている。女神の加護を有する二人の共通点はその強さだ。兵団最強と名高い浅村大尉と一八は死闘を繰り広げている。玲奈もまた入学試験で試験官に勝利した二人に含まれていた。二人の強さに女神の加護が効果を発揮しているのだと三井は考えているようだ。

「ただし、燃費が悪い。本来なら君は今までの倍は剣を振れる。常に100%を超えるのかどうかはデータ不足だが、恒常的に超えているのなら君は100%に抑える感覚を身につけるべきだな」
 三井が難点を述べた。100%を超える一振りは精神状態などにより一時的に引き起こされることがある。しかし、それは極限状態であったり、過度に高揚したりする場面に他ならない。ただの計測時に引き起こされるとは考えられなかった。

「奥田、今日の打ち込みで何か気を付けたことはないか? いつも通りであったか?」
 ここで問いが向けられている。三井は医師であると同時に研究者だ。疑問を解決せずにはいられなかったのかもしれない。
「そういや今日はかなり調子が良いと感じた。だけど別に何も考えてないっす」
「なるほど、やはり一時的なものかもしれないな。計測に張り切るあまりに。ただ200%という数値は起こり得ない。無意識に女神の加護が発動した可能性は高い。君のデータを学会に報告してもいいか?」
「別に構わないっすけど、役に立つんすか? 赤ん坊の頃に散々調べられたみたいですけど、何も分からなかったみたいっす」
 天恵技研究所なる組織は共和国の機関である。一八と玲奈は生まれて直ぐに様々な検査を受けたらしい。しかし、女神の加護は効果も発動条件も不明なままであった。

「調べたとして歴史上二人しかいないスキルだ。これは学者としての好奇心にすぎない。ただ二人が同時期に存在していることは互いの利益に繋がることもあるだろう」
 効果のほどは二人も聞かされていない。そもそも加護がスキルに含まれているなんて考えもしなかったのだ。

「あと計測結果についてだが、奥田の最大魔力はまだまだ伸びる。訓練は魔力アップに重点を置きたまえ。岸野玲奈にも話したけれど、前線で魔力切れを起こさぬ衛士は貴重なのだ」
 最後に評価をもらう。けれど、一八は頷くだけだ。
 専攻プログラムは各人が目標を持って選ぶことになっている。伸びしろがあるというのなら、それに従うだけであった。

「剣術科の女子たちは着替えてグランドへと向かえ。魔道科の測定を再開する」
 三井は淡々と仕事をこなしていく。恵美里たちが来ていたわけは彼女たち魔道科も問題が発生し、測定が前倒しになったからであった。

 一八は一人グランドへと戻っていく。順番的に属性検査といういものがあるはずだ。
 どうにも理解できたようでできない話。かといって別に問い質されたわけでもないし、効果は歓迎すべきものである。

 一八は深く考えるのを止めて走り出すのだった……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...