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第二章 騎士となるために
僅かな援軍
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キョウト支部では一般兵が集められ、マイバラ基地へと進軍を始めた。魔道トラックを掻き集め、全員が魔道車にて移動する予定。いち早く救援に向かうため、できる限りの行動をしていた。
「これより出発する。大部分の敵はオークだ。蹴散らしてやるぞ!」
ヒカリの声に大勢が反応している。やる気は十分だ。既に兵たちは共和国の危機を知らされており、この戦いの結果が及ぼす未来を想像しているのだ。絶対に負けられない戦いであることを全員が理解している。
中隊規模しかいないため、出撃は百人程度だ。魔道トラックの車列は二台のみ。先頭車両の運転席にはヒカリと優子がいた。
「今回もオークの軍勢ということは、またも進化級オークが含まれているのでしょうか?」
ハンドルを握るヒカリに優子が聞いた。思い出されるのは一年前の出来事。突如として現れたオークの軍勢はオークエンペラーが率いていたのだ。
「可能性は高いだろうな。恐らく連峰を越えるのにはオークが適していたのだろう。進化級クラスがいるだけで、彼らは従順な兵になるのだから……。まあしかし、群れたところでマイバラの兵力なら持ち堪えられるはず。救援を要請する理由はただのオークではないからだろう。進化級クラスが多くいるのか、はたまた天主が直接出向いているのか……」
天主という天軍の支配層。羽人とも呼ばれる彼らは滅多なことでは前線まで出て来ない。というのも天軍を構成する大部分は魔物であり、繁殖力が極めて低い天主は総力の1%に満たないという。ただし、天軍の総数は五十万にも達するといわれており、油断などできるはずもなかった。
「トウカイ王国との決戦には天主が確認されたらしい。強大な魔法を操る姿が目撃されたのだそうだ……」
援軍こそ送っていなかったが、キンキ共和国は斥候を送り込んでいた。そこで初めて天主を確認し、滅び行く王国を目にしたのだという。
「今回は前哨戦ですけど?」
「そうは考えていないと思うぞ。何しろ、ここまで幾度となく共和国兵団に退けられているのだ。タテヤマ連邦越えの進軍は困難であると十分に認識したはず。マイバラを陥落させることは間違いなく第一歩であるが、彼らにしてみれば大いなる一歩なのだよ」
なるほどと優子。一年前に体験したあの乱戦。この度の侵攻が本格的なものであるのなら、確実にその規模を超えてくるだろう。だとすればオークキング級が多数参戦していても不思議ではなかった。
「何にせよ、ある程度の統率者がいるはず。雑兵のオーク一頭ずつに使役術式を施すはずがないのだから……」
ヒカリの話に優子は溜め息を零す。まだ配備して三年目である彼女は大きな戦果を上げていない。大規模な戦闘も昨年にあったオークの軍勢だけだ。
「大尉、わたしは怖いですよ……」
思わず本音が漏れてしまう。足だけでなく身体中が震えている。戦うべき立場であるのは理解していても、待ち受ける脅威を考えると恐怖心が身体を支配した。
「怖い?」
「数多の災害級を討伐してきた大尉には絶対に分からないと思います。現場に着けば切り替えますけど、わたしは戦うのがどうしようもなく怖いです……」
騎士として失格であるが、優子は本心を口にしている。信頼する上官であるから、気持ちのままを述べられた。
「確かに私は胆力のある方だが、別に何も感じないわけではないぞ?」
ヒカリが返した。自身とて戦いに赴くときには何かしらの感情を覚えるのだと。
「不安感はいつもある。けれど、それは熟考したとして答えなどでない。だから戦いの前には勝利することしか考えないことにしている。意味あることに時間を使うべきだ」
「それは大尉が比類なき強者だからですよ!? わたしのような凡人の感情など分からないのです!」
不安をぶつけるように優子。解決をみない感情の対処方法。彼女はヒカリに押し付けるように言った。
ふっと声を出すヒカリは宥めるつもりなのか、優子に話を続けた。
「魔物にも感情がある。敵の強さを推し量ることもできる。従って弱気な態度ではつけ上がらせるだけ。魔物などその剣で圧倒してやれば大人しくなるのだ。だから気持ちで負けるな。仮にもお前は私の片腕だ。世界一安全な場所にいる優子が怯えてどうする? 自信を持って戦えばいい。オークなど蹴散らしてやればいいのだ!」
どうにも承服しかねる話だ。しかし、優子は分かっている。自身の立ち位置こそが世界一安全であるのだと。それは今まで見てきた通りだ。オークエンペラーでさえも斬り裂いた彼女の背後は安全が保証されている。
「分かりました……。わたしにできることをやります。騎士として、共和国民のために」
「優子にとって、いい経験になるはずだ。近いうちに我々は前線配備となるだろう。予行演習として剣を振るがいいさ」
どこまでも考え方が違ったけれど、ヒカリは優子の理解者であり、師でもある。
騎士学校を首席で卒業した優子はずっとヒカリに稽古してもらっていたのだ。よって学生の頃よりも実力がついているはず。だからこそ自信を持って戦うべき。
優子は溜め息を吐きながらも笑顔を見せた。いつもよりも早く気持ちを切り替えられている。
「大尉、絶対に勝利しましょう――――」
「これより出発する。大部分の敵はオークだ。蹴散らしてやるぞ!」
ヒカリの声に大勢が反応している。やる気は十分だ。既に兵たちは共和国の危機を知らされており、この戦いの結果が及ぼす未来を想像しているのだ。絶対に負けられない戦いであることを全員が理解している。
中隊規模しかいないため、出撃は百人程度だ。魔道トラックの車列は二台のみ。先頭車両の運転席にはヒカリと優子がいた。
「今回もオークの軍勢ということは、またも進化級オークが含まれているのでしょうか?」
ハンドルを握るヒカリに優子が聞いた。思い出されるのは一年前の出来事。突如として現れたオークの軍勢はオークエンペラーが率いていたのだ。
「可能性は高いだろうな。恐らく連峰を越えるのにはオークが適していたのだろう。進化級クラスがいるだけで、彼らは従順な兵になるのだから……。まあしかし、群れたところでマイバラの兵力なら持ち堪えられるはず。救援を要請する理由はただのオークではないからだろう。進化級クラスが多くいるのか、はたまた天主が直接出向いているのか……」
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「トウカイ王国との決戦には天主が確認されたらしい。強大な魔法を操る姿が目撃されたのだそうだ……」
援軍こそ送っていなかったが、キンキ共和国は斥候を送り込んでいた。そこで初めて天主を確認し、滅び行く王国を目にしたのだという。
「今回は前哨戦ですけど?」
「そうは考えていないと思うぞ。何しろ、ここまで幾度となく共和国兵団に退けられているのだ。タテヤマ連邦越えの進軍は困難であると十分に認識したはず。マイバラを陥落させることは間違いなく第一歩であるが、彼らにしてみれば大いなる一歩なのだよ」
なるほどと優子。一年前に体験したあの乱戦。この度の侵攻が本格的なものであるのなら、確実にその規模を超えてくるだろう。だとすればオークキング級が多数参戦していても不思議ではなかった。
「何にせよ、ある程度の統率者がいるはず。雑兵のオーク一頭ずつに使役術式を施すはずがないのだから……」
ヒカリの話に優子は溜め息を零す。まだ配備して三年目である彼女は大きな戦果を上げていない。大規模な戦闘も昨年にあったオークの軍勢だけだ。
「大尉、わたしは怖いですよ……」
思わず本音が漏れてしまう。足だけでなく身体中が震えている。戦うべき立場であるのは理解していても、待ち受ける脅威を考えると恐怖心が身体を支配した。
「怖い?」
「数多の災害級を討伐してきた大尉には絶対に分からないと思います。現場に着けば切り替えますけど、わたしは戦うのがどうしようもなく怖いです……」
騎士として失格であるが、優子は本心を口にしている。信頼する上官であるから、気持ちのままを述べられた。
「確かに私は胆力のある方だが、別に何も感じないわけではないぞ?」
ヒカリが返した。自身とて戦いに赴くときには何かしらの感情を覚えるのだと。
「不安感はいつもある。けれど、それは熟考したとして答えなどでない。だから戦いの前には勝利することしか考えないことにしている。意味あることに時間を使うべきだ」
「それは大尉が比類なき強者だからですよ!? わたしのような凡人の感情など分からないのです!」
不安をぶつけるように優子。解決をみない感情の対処方法。彼女はヒカリに押し付けるように言った。
ふっと声を出すヒカリは宥めるつもりなのか、優子に話を続けた。
「魔物にも感情がある。敵の強さを推し量ることもできる。従って弱気な態度ではつけ上がらせるだけ。魔物などその剣で圧倒してやれば大人しくなるのだ。だから気持ちで負けるな。仮にもお前は私の片腕だ。世界一安全な場所にいる優子が怯えてどうする? 自信を持って戦えばいい。オークなど蹴散らしてやればいいのだ!」
どうにも承服しかねる話だ。しかし、優子は分かっている。自身の立ち位置こそが世界一安全であるのだと。それは今まで見てきた通りだ。オークエンペラーでさえも斬り裂いた彼女の背後は安全が保証されている。
「分かりました……。わたしにできることをやります。騎士として、共和国民のために」
「優子にとって、いい経験になるはずだ。近いうちに我々は前線配備となるだろう。予行演習として剣を振るがいいさ」
どこまでも考え方が違ったけれど、ヒカリは優子の理解者であり、師でもある。
騎士学校を首席で卒業した優子はずっとヒカリに稽古してもらっていたのだ。よって学生の頃よりも実力がついているはず。だからこそ自信を持って戦うべき。
優子は溜め息を吐きながらも笑顔を見せた。いつもよりも早く気持ちを切り替えられている。
「大尉、絶対に勝利しましょう――――」
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