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第二章 騎士となるために
望むことは……
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班員たちが山を下りていくのを確認した伸吾。小さく息を吐いてから、キッとヒュドラを睨み付ける。
「一分でも時間を稼げたら大丈夫だろう……」
エアパレットを操り、伸吾はヒュドラに取りつく。距離を取れば猛毒の餌食になるのだ。だとすれば近付いて頭を切り落としていくだけである。
「斬り裂けぇぇっ!」
九本にもなるヒュドラの頭。最大級の危険度に成長していたけれど、伸吾は果敢に斬りかかっていた。
目一杯に属性を乗せた一撃はヒュドラの頭を切り落とす。彼が持つ光属性は魔物に対して絶大的な効果を発揮している。
「いける!」
伸吾とて無駄死にするつもりはなかった。出来る限りに痛めつけ、あわよくば勝利してやろうと。
しかし、ヒュドラは一本の頭を切り落とされたとして、まるで怯む様子はない。それどころか、伸吾は即座に反撃を受けてしまう。
残る八本の頭部が時間差で伸吾を襲った。巧みに避けていた伸吾だが、遂には脇腹に噛みつかれてしまう。あろうことか、その攻撃は無惨にも伸吾の脇腹に深い傷を負わせていた。
エアパレットごと落下し、周囲にはおびただしい血が飛散している。更には激痛が全身を駆け抜けていく。苦痛に思わず声を上げてしまうけれど、生憎と仲間はもういない。
「ここまでか……」
薄れゆく意識の中で伸吾は覚悟を決めた。尚もヒュドラは追撃を加えようとしているのだ。大きく口を開き猛毒を吐いて伸吾にとどめを刺そうとしている……。
意図せず、この短い人生が脳裏に再生された。人が人生の最後に見るという映像。過度に端折った人生の縮図を伸吾は振り返る羽目になっている。
この人生が終わる時だ。伸吾は襲い来るヒュドラに確信していた……。
ところが、
「伸吾ォォオオオォッ!!」
耳をつんざくような大声が伸吾の意識を繋ぎとめた。
振り向くとそこには待ちに待った人がいる。八尺という大太刀を振りかぶった一八がヒュドラに飛びかかっていた。
属性発現により大幅に伸びた刀身。背丈の二倍ほどもある炎の刃が襲いかかるヒュドラの首を一度に刈り取っている。
「奥田君……?」
その姿は圧倒的だった。一八は一度に二本もの首を一撃で斬り落としてしまう。
そういえば伸吾は五体満足の一八が攻撃をする様子を初めて見る。一八の全力攻撃を見るのはこれが初めてだった。
やはり剣士としての次元が違う。正直な感想はそんなところであった……。
「私もいるぞっ!」
一瞬遅れて聞こえた甲高い声。もちろん、それは聞き慣れた声だ。伸吾の瞳に映るその太刀筋はいつも通りに美しく華麗であり、そして圧巻だった。
一八の逆側から飛び込んだ玲奈の一撃も視認できるほどの稲妻を帯びながら、ヒュドラの頭部を二つ斬り落としている。
それだけで終わらない。一八と玲奈はエアパレットを急旋回し、作戦であったのかスピードを落とすことなくすれ違う。その勢いのまま、二人ともが逆側へと飛びかかっていく。
「鷹山君!」
完全に目を奪われていた伸吾に声かけがあった。また声をかけた女性は透かさずエクスキュアを施してくれる。酷い怪我を負った伸吾だが、これにより九死に一生を得るのだった。
「鷹山君、話せる? 他の班員は?」
治療を終えた早久良が魔力回復薬を飲みながら聞く。今も眼前にはヒュドラがいたというのに、彼女は落ち着き払っているようだ。
「すまない。宮之阪さんが猛毒を受けた。ピュアリフィケーションをかけながら下山中なんだ。ついて来てくれるかい?」
「ええ、もちろん! 私たちはそのために来たのよ?」
流石は首席だなと伸吾は感心している。前衛士を信頼しているのか、彼女は動じることなくヒュドラに背を向けたまま笑顔を作っていた。
「魔力装填完了! 前衛士のお二人様、あとはお任せください!」
ここで伸吾は目撃している。一般兵では見ないコンビネーション。それはまさに共和国民を守るためだけに存在する騎士の姿だった。
剣士二人が攻撃を仕掛けている間に、魔道士が強大魔法を準備する。また剣士は時間稼ぎなどではなく、明確にダメージを与えていた。
「強い……」
まるで一流の騎士が編成された班のように見える。立て続けに頭を斬り落としただけでなく、今まさにヒュドラはその生を奪われようとしていたのだから。
「クリムゾンニードル!!」
刹那に真紅の槍が撃ち出されていく。ガトリング砲に込められた魔力を使い切るまでそれは射出され続けた。
ヒュドラの腹部目掛けて無数の炎槍が撃ち出されている。初弾から貫通はしなかったものの、無数に撃ち出された炎の槍は遂にヒュドラの鱗を貫いて、腹部に幾つもの風穴を開けてしまう。
完全にオーバーキルとなっていた。今もまだ執拗に撃ち出される炎の槍はヒュドラを穴だらけとしていたのだ。
思わず伸吾は笑みを浮かべている。玲奈が話していた通りの威力に。呆れるほど強力な攻撃が存在することに。
「ハハ……。これは確かに凄いや……」
初めて見たガトリング砲の威力。もっとも記録された魔法こそがその威力の根幹となっていたのだが、災害級を超える魔物がものの数分で討伐されたこと。この事実に伸吾は認めざるを得なかった。超一線級の騎士が一班に集った結果であると。
「まるで蜂の巣じゃないか……?」
玲奈がガトリング砲について熱く語っていたことを思い出す。確かに連射機関砲との名称に疑いはない。数の威力を加えることにより強大な敵をも屠ることができるのだから。
小乃美が恵美里に魔力回復薬を与えている。流石に全魔力を失うほどの術式。得られる結果から考えれば安い代償だと思う。
「伸吾、毒を受けた者はどこだ!?」
一足早く玲奈が伸吾の元へと来てはそう聞いた。本当に脱帽だと伸吾は思う。なぜなら班員が毒を受けたことは西大寺に話していない。切り捨てる命令を受けることを恐れた結果なのだ。だから駆け付けるやそう聞いた玲奈は流石だと思わざるを得ない。
脅威が去った今、すべきことは舞子たちを追いかけることだ。しかし、伸吾は少しばかり玲奈に言いたいことができた。
「岸野さん……」
伸吾は冷静な彼らしくない見当外れの話をしている。急ぐべき時であったというのに、脈略のないこの場には不適切な話を……。
「僕は帰ったらセラガトを見るよ――――」
「一分でも時間を稼げたら大丈夫だろう……」
エアパレットを操り、伸吾はヒュドラに取りつく。距離を取れば猛毒の餌食になるのだ。だとすれば近付いて頭を切り落としていくだけである。
「斬り裂けぇぇっ!」
九本にもなるヒュドラの頭。最大級の危険度に成長していたけれど、伸吾は果敢に斬りかかっていた。
目一杯に属性を乗せた一撃はヒュドラの頭を切り落とす。彼が持つ光属性は魔物に対して絶大的な効果を発揮している。
「いける!」
伸吾とて無駄死にするつもりはなかった。出来る限りに痛めつけ、あわよくば勝利してやろうと。
しかし、ヒュドラは一本の頭を切り落とされたとして、まるで怯む様子はない。それどころか、伸吾は即座に反撃を受けてしまう。
残る八本の頭部が時間差で伸吾を襲った。巧みに避けていた伸吾だが、遂には脇腹に噛みつかれてしまう。あろうことか、その攻撃は無惨にも伸吾の脇腹に深い傷を負わせていた。
エアパレットごと落下し、周囲にはおびただしい血が飛散している。更には激痛が全身を駆け抜けていく。苦痛に思わず声を上げてしまうけれど、生憎と仲間はもういない。
「ここまでか……」
薄れゆく意識の中で伸吾は覚悟を決めた。尚もヒュドラは追撃を加えようとしているのだ。大きく口を開き猛毒を吐いて伸吾にとどめを刺そうとしている……。
意図せず、この短い人生が脳裏に再生された。人が人生の最後に見るという映像。過度に端折った人生の縮図を伸吾は振り返る羽目になっている。
この人生が終わる時だ。伸吾は襲い来るヒュドラに確信していた……。
ところが、
「伸吾ォォオオオォッ!!」
耳をつんざくような大声が伸吾の意識を繋ぎとめた。
振り向くとそこには待ちに待った人がいる。八尺という大太刀を振りかぶった一八がヒュドラに飛びかかっていた。
属性発現により大幅に伸びた刀身。背丈の二倍ほどもある炎の刃が襲いかかるヒュドラの首を一度に刈り取っている。
「奥田君……?」
その姿は圧倒的だった。一八は一度に二本もの首を一撃で斬り落としてしまう。
そういえば伸吾は五体満足の一八が攻撃をする様子を初めて見る。一八の全力攻撃を見るのはこれが初めてだった。
やはり剣士としての次元が違う。正直な感想はそんなところであった……。
「私もいるぞっ!」
一瞬遅れて聞こえた甲高い声。もちろん、それは聞き慣れた声だ。伸吾の瞳に映るその太刀筋はいつも通りに美しく華麗であり、そして圧巻だった。
一八の逆側から飛び込んだ玲奈の一撃も視認できるほどの稲妻を帯びながら、ヒュドラの頭部を二つ斬り落としている。
それだけで終わらない。一八と玲奈はエアパレットを急旋回し、作戦であったのかスピードを落とすことなくすれ違う。その勢いのまま、二人ともが逆側へと飛びかかっていく。
「鷹山君!」
完全に目を奪われていた伸吾に声かけがあった。また声をかけた女性は透かさずエクスキュアを施してくれる。酷い怪我を負った伸吾だが、これにより九死に一生を得るのだった。
「鷹山君、話せる? 他の班員は?」
治療を終えた早久良が魔力回復薬を飲みながら聞く。今も眼前にはヒュドラがいたというのに、彼女は落ち着き払っているようだ。
「すまない。宮之阪さんが猛毒を受けた。ピュアリフィケーションをかけながら下山中なんだ。ついて来てくれるかい?」
「ええ、もちろん! 私たちはそのために来たのよ?」
流石は首席だなと伸吾は感心している。前衛士を信頼しているのか、彼女は動じることなくヒュドラに背を向けたまま笑顔を作っていた。
「魔力装填完了! 前衛士のお二人様、あとはお任せください!」
ここで伸吾は目撃している。一般兵では見ないコンビネーション。それはまさに共和国民を守るためだけに存在する騎士の姿だった。
剣士二人が攻撃を仕掛けている間に、魔道士が強大魔法を準備する。また剣士は時間稼ぎなどではなく、明確にダメージを与えていた。
「強い……」
まるで一流の騎士が編成された班のように見える。立て続けに頭を斬り落としただけでなく、今まさにヒュドラはその生を奪われようとしていたのだから。
「クリムゾンニードル!!」
刹那に真紅の槍が撃ち出されていく。ガトリング砲に込められた魔力を使い切るまでそれは射出され続けた。
ヒュドラの腹部目掛けて無数の炎槍が撃ち出されている。初弾から貫通はしなかったものの、無数に撃ち出された炎の槍は遂にヒュドラの鱗を貫いて、腹部に幾つもの風穴を開けてしまう。
完全にオーバーキルとなっていた。今もまだ執拗に撃ち出される炎の槍はヒュドラを穴だらけとしていたのだ。
思わず伸吾は笑みを浮かべている。玲奈が話していた通りの威力に。呆れるほど強力な攻撃が存在することに。
「ハハ……。これは確かに凄いや……」
初めて見たガトリング砲の威力。もっとも記録された魔法こそがその威力の根幹となっていたのだが、災害級を超える魔物がものの数分で討伐されたこと。この事実に伸吾は認めざるを得なかった。超一線級の騎士が一班に集った結果であると。
「まるで蜂の巣じゃないか……?」
玲奈がガトリング砲について熱く語っていたことを思い出す。確かに連射機関砲との名称に疑いはない。数の威力を加えることにより強大な敵をも屠ることができるのだから。
小乃美が恵美里に魔力回復薬を与えている。流石に全魔力を失うほどの術式。得られる結果から考えれば安い代償だと思う。
「伸吾、毒を受けた者はどこだ!?」
一足早く玲奈が伸吾の元へと来てはそう聞いた。本当に脱帽だと伸吾は思う。なぜなら班員が毒を受けたことは西大寺に話していない。切り捨てる命令を受けることを恐れた結果なのだ。だから駆け付けるやそう聞いた玲奈は流石だと思わざるを得ない。
脅威が去った今、すべきことは舞子たちを追いかけることだ。しかし、伸吾は少しばかり玲奈に言いたいことができた。
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