オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

文字の大きさ
171 / 212
第三章 存亡を懸けて

山越え

しおりを挟む
 玲奈が眠ってしまったあと、一八はかまくらを出て素振りをしていた。自分まで眠るわけにはならない。魔物の気配はなかったけれど、万が一を想定して。

「良い感じに温まってきたな……」
 かなり冷え込んでいたものの、熱心に振っていた一八は目が覚めると同時に寒さを感じなくなっていた。

「一八、いい素振りだな?」
 ふと声をかけられていた。どうやら素振りの音で目を覚ましてしまったらしい。

「ああ、すまん。うるさかったか……」
「いや、私こそすまない。腹を満たしたせいか眠気に負けてしまった……」
 それは別にいいと一八。それでなくても昨日は肉体的に疲れ果てていたのだ。雪中登山ともいうべき過酷なルートを通ってきたあとである。

「私も素振りをするかな……」
 玲奈もかまくらを出て、零月を鞘から抜こうとした瞬間、どうしてか地面が激しく揺れ始めた。それは次第に大きくなり、地響きを伴っている。

「おい一八! 雪崩になる! 山を下りるぞ!」
 一瞬、呆けていた一八だが、玲奈に言われて気付く。激しく地面が揺れていたのだ。降り積もった雪の層が地滑りを始めているのだと。

「マジかよ!?」
 直ぐさまエアパレットを装着し、慌ただしく山を下りる。思えば昨日のうちに登頂しておいて良かったと思う。登る途中であれば、引き返すしかなかったのだ。

「くっそ、本当に雪崩じゃねぇか!?」
「巻き込まれたらどうしようもないぞ!」
 まだ日の出前であり、周囲は真っ暗である。地平線の先が仄かに淡くなっていたけれど、二人を星空が見下ろしていた。

「圧倒的な星空だな!」
 ふと玲奈が言った。正直に景色を眺める場面ではなかったというのに、視界へと入り込む景色に彼女は感動を覚えている。

「ゆっくり見てる場合じゃねぇって! あの崖から飛び降りっぞ!」
 目の前にジャンプ台になったようなせり出した岩がある。別に雪の上を滑っているわけではなかったが、一八はそのまま上空へと飛んで雪崩を回避しようと提案していた。

「了解。先に落ちた方が負けだぞ?」
「落ちたら死ぬだろうがよ!?」
 ワハハと声を上げる玲奈。どうしてか彼女は面白くなっていた。危機的状況にも不安は覚えていないようである。

「いけぇぇっっ!!」
 二人のエアパレットが宙を舞った。一面の星の海に身を預けるように。

 まるでほうき星のように魔力の尾が闇を彩る。ステージ4の魔力展開は青白い光と真っ赤な光をその軌跡に残した。

「気持ちいいな!」
「ああ、もう大丈夫だろう!」
 空高く舞い上がり、一気に山を下っていく。一八は魔力回復薬を飲みながら、一息ついている。魔力を消費してでも、このまま山越えしてしまおうと。

 二人は四日目にしてカントウ連合国へと入っていた。目指すは首都トウキョウ。
 そこは人族の歴史上、最も栄えた巨大な都市である……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...