オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第三章 存亡を懸けて

雷霆斬

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 武士が川瀬相手に使用したという雷霆斬らいていざん。防御魔法をも貫き、腹を裂いたという一撃を玲奈はこの窮地に発現させようとしている。

『死ぬ覚悟があるのだろう? なら死んで見せろ』
 川瀬の言葉が思い出されている。今はまさにその時だ。覚悟なんて当たり前である。一八のためにできることは戦いに勝つしかなかったのだから。

「父上は土壇場で発現させた。昏倒とか考えるべきじゃない」
 自身が抱えるトラウマは他人が考えるよりも酷いものであったけれど、川瀬が話したように抗うべきだ。死を覚悟しているのなら尚更である。

「確か魔力圧縮が鍵。あとは踏み込みよりも早く逆風に振り上げる……」
 ぶつくさと独り言を口にする。今思えば、川瀬の前で特訓しておくべきであった。武士はキョウトであるし、雷霆斬を知る者は他に川瀬しかいなかったからだ。

「岸野玲奈よ、数え始めるぞ? 我も時間がないのでな……」
 言ってディザスターがカウントを始める。

「1……」
 玲奈は目一杯に魔力を練る。大凡100秒しかないのだ。頭で考えるよりも、実践にて習得するしかない。素早く踏み込んで、玲奈はやや左方向から零月を振り上げる。

「雷霆斬っ!」
 しかし、不発に終わる。いつもと変わらず雷を纏った一撃であったものの、先ほどよりも効いた気がしない。やはり切り返しであり、切り上げという特殊な太刀筋では力を伝えきれないでいる。

「……10……」
 カウントが進んでいく。気にしては駄目だと思いつつも、耳に届くディザスターの声が玲奈を焦らせていた。

「落ち着け。どうせ発現させられなければ死ぬのだ。今は剣の道を歩み続けた自分を信じるだけ」
 再び斬りかかる玲奈。微動だにしないディザスターに渾身の一振りを浴びせる。
「雷霆斬!!」
 だが、この度も不発に終わる。普段と変わらぬ攻撃を繰り出しただけであった。

 このあとも玲奈は雷霆斬を試みるも結果は同じ。大した威力もない攻撃がディザスターの腹部へと当たるだけであった。

「38……」
「魔力圧縮とは? どれだけ練り上げたらいいのだ?」
 玲奈は思い返している。川瀬との会話を。やり方は間違っていないはず。魔力を圧縮し、素早く踏み込んでは逆風に振るだけだ。

「……41……」
「あれ?」
 徐々に鼓動が高鳴っていたけれど、玲奈は川瀬の話を思い出している。確かに彼は経験した全てを語ったはず。構えから、雷霆斬がもたらせた結果についてまで。

『超圧縮魔力波を撃ち込んだ――――』
 そういえば川瀬は防御に意味はなかったと話していた。また踏み込みよりも早く武士が剣を振ったことを。

 どうやら玲奈は勘違いしていたらしい。斬という文字に斬り付けることだと思い込んでいた。

「そうか……。根本的に間違っていたのか……」
「48……」
 カウントは半分に達していた。恐らく100に到達するや、ディザスターは全力で玲奈を殺しに来るだろう。従って玲奈に残された時間は50秒だけだ。

 軽く振ってみてからイメージをする。魔力圧縮について。そういえば三井女医に言われていた。玲奈と一八は自然と魔力圧縮が成されていると。それ故に属性発現の威力が他の候補生たちよりも強くなっているのだと。

「ならば練り続けるのみ。マナリスよ、私にも加護を授けろ!」
 ここで玲奈は声を張る。脳裏に降臨した一八は今や膨大な魔力の持ち主だ。ならば自身にも力を与えてくれと。

「強敵を屠る絶対的な力を!」
 玲奈は魔力を練り続けている。全てを吐き出すつもり。次の一太刀に命を捧げるつもりで。

「82……」
 一発勝負であった。二度目はない。だからこそ出し惜しみなどできなかった。
 最後の瞬間まで絞り出す。この先に昏倒しようとも出し切るのだと決めた。ディザスターはここで始末すべき存在。人族の未来に立ち塞がる強大な魔物なのだから。

「……95」
 玲奈は魔力を手の平に集めている。全ての魔力を圧縮すべく彼女は零月への伝達をせず、ただひたすら手の平に魔力を送り出す。

 刹那に玲奈の五指全てから血が噴き出していた。魔力の圧縮に堪えきれないのか、爪の間から漏れ出すようにして……。

「……99」
 そのカウントと同時に駆け出す玲奈。これ以上の魔力は絞り出せない。ならばあとは踏み込みと、逆風に斬るのみ。魔力を何処までも吹き飛ばすイメージにて、全力で振りきるだけだ。

「雷霆斬っっ!!――――」
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