オークと女騎士、死闘の末に幼馴染みとなる

坂森大我

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第三章 存亡を懸けて

世界が平穏を取り戻せば

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「今日こそは切り刻んでやるぜ!」
「まったくしつこい奴だな? 貴様の腕前では傷一つ与えられんよ……」
 訓練場に響く二人の声。一人は一八であり、もう一方はヒカリだった。ただし、二人きりではない。ギャラリーなのか、恵美里や舞子だけでなく、どうしてか支援士である早久良の姿もある。

「奥田君、いい加減に諦めたら? 毎日エクスキュアをかける私の手間も考えて欲しいんだけど……」
 早久良が言った。それはそのはず、二人が戦うのは毎朝の日課である。しかも、その度に一八が酷い怪我を負うため、彼女は必ず同席させられているのだ。

「早久良さん、それでも魔力容量の拡大が成されているじゃありませんか? 良い訓練になると思いますけれど?」
「まあそれはそうなんだけど……。もう直ぐ最大容量だもん。既にエクスキュアは平気になったね」
 恵美里の話に早久良は頷いている。手間ではあったのだが、毎日の魔力枯渇により彼女の魔力量は最大値へと近付いているらしい。

「早久良さん、俺は世界最強を目指す。このババァを切り捨てるまで俺は挑み続けるんだ。友が願ったまま、世界最強の剣士になる……」
 一八は決めていた。伸吾が願ったままの姿になることを。まずは兵団最強というヒカリに勝つことを目標としている。
「それって何年目標? 七条さんが退役するまでに叶うとは思えないな……」
 恵美里もまた今月末で退役するようだ。最終的に議員となるために、進学をして準備に取りかかるという。

「それでは試合開始ぃ!」
 審判を請け負う舞子が声をかけるや、ヒカリと一八の戦いが始まる。早速と全力の剣戟が繰り広げられたものの、いつもと同じ結果が待っているだけだ。

「雪花斬!!」
 今もまだ一八はヒカリの血統スキルを受け切れていない。それどころか毎日、腹を切り裂かれているのだ。ヒカリが繰り出す超速度の天恵技は躱すことも防ぐことすらできない。いつも結果は前のめりにうずくまるだけであった。

「エクスキュア!!」
 透かさず早久良が回復魔法を唱える。本日の仕事もこれで終わりだ。ゴッソリと魔力を失っていたけれど、例日に亘る使用のせいで今や平然としたままだ。

「クッソ……」
 一八も一八で腹を切り裂かれたあとだというのに、気を失うことはなくなっている。即座のエクスキュアが効いているのか徐に立ち上がるほどであった。

「ふむ、多少は防御できているな? その調子で励めよ……」
「るっせぇよ。俺にも剣術の血統スキルがあれば……」
 惜しむらくは家系である。一八はヒカリの天恵技が羨ましくて仕方がなかった。

「一八君、血統スキルは突然得られることもあるんだよ?」
 審判を務めた舞子がいう。剣士なら剣士の代を重ねて得られる血統スキルだが、稀に家系と異なるスキルを発現する者もいる。気休めとばかりに舞子はその話をしていた。

「マジッすか。俺ばかり斬り裂かれるなんて許せねぇ。血統スキルを発現して、ぜってぇ切り刻んでやるからな?」
「ふはは! 浅村ヒカリは世界最強なのだ! この頂まで登ってこい! そんなに血統スキルが欲しいのなら、敬愛すべき主神様にでも祈ることだな!」
 余裕を見せるヒカリに一八は不満げな表情だ。

 言わずもがな主神とは女神マナリスを指す。彼女に願いを請うなんて一八としては一番の敗北感を覚えることだ。だからこそ、ヒカリの話には首を振って答えている。

「俺は自分自身の力で世界最強になるんだ。マナリスの力なんて必要ねぇ。それに世界が平和になっただろ? 加護を持つ俺は知ってんだよ。あの女神に願ったって、ろくなことにはならないってこと……」
 笑みを浮かべながら一八が言った。この場には敬虔な信徒しかいなかったというのに。主神を否定する話を堂々と口にしている。

「寝ぼけた女神はやらかすってことをな――――――」


                                   ~FIN~
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