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第一章 前世と今世と
所領にある秘密
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子爵領の開墾をダンツに任せた私は、馬を走らせて南東にある岩山へと来ていました。
「こうも田舎だと前世で鍛えた馬術がものを言うわね」
前世は悪役令嬢なので、追っ手から逃れるのに役立ちそうな技術は一通り修めています。馬術だけでなく、剣術や上位の魔法でさえも。
「アナスタシアが成り上がるためのお宝がここにあるはずなのよ」
レッドウォール山脈の東端部分。ここまで来ると南側は王領ではなく、前世であったイセリナのランカスタ公爵領となります。
「ここで王都に留学する資金を捻出するんだ……」
実をいうと、この岩山は前世でランカスタ公爵家が子爵家から買収した土地でした。
イセリナであった私は知っている。この岩山が鉱山であることを。
この岩山こそ貧乏貴族令嬢アナスタシアが貴族院への寄付金を捻出できた理由なのよ。
「放っておけば、今世も二束三文で売り払ってしまいそうだわ」
ダンツは前世の父であるランカスタ公爵にまんまと騙されていました。この岩山が鉱山だと知らされることなく売却していたのです。
「しっかし、岩盤が固すぎない?」
一応はマトックを持って来たのですけど、岩山は固い岩盤で覆われていまして採掘できる状態ではありません。
「やっぱ魔法で吹っ飛ばすか……」
私は産まれた直後から魔力強化に努めていました。力がない女ですから、いざというとき魔法がものを言うだろうと。
「クレイアーク!!」
中級の土属性魔法を唱えてみる。けれど、岩盤は少し削れただけでした。
「爆裂魔法が使える火属性でもあれば良かったのに……」
スカーレットは緋色を意味しますが、何と家名の由来は火属性ではなく髪色だったりする。
赤系の髪色は本当に珍しいみたい。私は桃色でしたけれど、レアな髪色より火属性が欲しかったわ。
それで肝心の属性は女神の加護である光属性に加え、水属性と土属性というトリプルエレメント。モブには過ぎた属性だと思います。
「この分だと上級魔法でも無理っぽいね。やはり古代魔法でぶち抜くしかないか……」
古代魔法は前世の知識です。
追っ手を一撃で吹き飛ばす魔法が必要だった私は古代魔法を二つこの世に蘇らせていました。
無限にも続くループの中で文献を取り寄せては研究し、実用にまで漕ぎ着けています。
「何しろ太古のエルフが編み出したという魔法だし……」
古代魔法は威力が段違い。かといって現状の魔力では一発で昏倒してしまうはず。
「前世でも試し撃ちしかしたことないけど……」
所有属性に左右されない古代魔法。攻撃手段が限られるアナスタシアには最適です。
「問題は一つ……」
懸念されるのは威力がありすぎた場合。この岩山が吹き飛んでしまえば、恐らく私はレジュームポイントまで戻される。
岩山が消失すれば公爵家の買収話はなくなるのだし、そうなるとアナスタシアは貴族院への寄付金を工面できなくなるからです。
「でも私は岩盤を貫かなきゃ始まんないのよ!」
私は勝負に出ています。手持ちの魔法で有効なものが、これしかないんだもの。
ここは古代魔法に懸けるだけよ。アナスタシアの未来を切り開くため、固い岩盤を撃ち抜くだけわ。
「ロナ・メテオ・バァァスト!!」
詠唱文を唱え終えると眼前には巨大な多角魔法陣が出現。ここでキャンセルを繰り返せば熟練度だけが得られます。
けれど、魔法陣に魔力を注ぎ込んでしまうと魔法は完結し、効果が発動するという仕組みです。
「絶対に撃ち抜く!」
この十二年の集大成とばかりに、私は古代魔法[ロナ・メテオ・バースト]を発動。王都へと向かう資金をこの鉱山にて捻出するために。
「いけぇぇぇっ!!」
急激に魔力が失われると、魔法陣の何倍もある巨大な隕石が眼前に現れている。
「え? うそ!?」
いや、こんなに大きくなかったでしょ!? 試し撃ちした頃はもっと小さかったって!
どうやら私は熟練度を上げすぎたみたい。
「ちょっと待って! 絶対に跡形もなくなるってば!」
とはいえ、魔力を注いだ後は発動を待つだけ。今さらキャンセルなんてできるわけがありません。
「終わった……」
眼前で大爆発が起きています。
遠く離れた王都でも感じるくらいの激しい揺れ。まるで火山が大噴火したかのような超威力を私は目の当たりにしていました。
「あっ…………」
意識が朦朧とする。
やっぱ十二歳という年齢で古代魔法なんか使うものじゃないわ。
このあと私は確実に魔力切れで昏倒することでしょう。
恐らく次に目が覚めたとき、私は赤子だ。
アナスタシアが貴族院に入る唯一の手段である鉱山を完全に吹き飛ばしてしまったのだから。
怒れる女神アマンダの表情が容易に思い浮かぶ。レジュームポイントまで即座に巻き戻す彼女の引きつった表情が……。
粉塵に視界を奪われた中で、私は眠りにつく。
やり直しの人生では岩盤を撃ち抜く適切な魔法の習得を目指そうと心に誓いながら。
「こうも田舎だと前世で鍛えた馬術がものを言うわね」
前世は悪役令嬢なので、追っ手から逃れるのに役立ちそうな技術は一通り修めています。馬術だけでなく、剣術や上位の魔法でさえも。
「アナスタシアが成り上がるためのお宝がここにあるはずなのよ」
レッドウォール山脈の東端部分。ここまで来ると南側は王領ではなく、前世であったイセリナのランカスタ公爵領となります。
「ここで王都に留学する資金を捻出するんだ……」
実をいうと、この岩山は前世でランカスタ公爵家が子爵家から買収した土地でした。
イセリナであった私は知っている。この岩山が鉱山であることを。
この岩山こそ貧乏貴族令嬢アナスタシアが貴族院への寄付金を捻出できた理由なのよ。
「放っておけば、今世も二束三文で売り払ってしまいそうだわ」
ダンツは前世の父であるランカスタ公爵にまんまと騙されていました。この岩山が鉱山だと知らされることなく売却していたのです。
「しっかし、岩盤が固すぎない?」
一応はマトックを持って来たのですけど、岩山は固い岩盤で覆われていまして採掘できる状態ではありません。
「やっぱ魔法で吹っ飛ばすか……」
私は産まれた直後から魔力強化に努めていました。力がない女ですから、いざというとき魔法がものを言うだろうと。
「クレイアーク!!」
中級の土属性魔法を唱えてみる。けれど、岩盤は少し削れただけでした。
「爆裂魔法が使える火属性でもあれば良かったのに……」
スカーレットは緋色を意味しますが、何と家名の由来は火属性ではなく髪色だったりする。
赤系の髪色は本当に珍しいみたい。私は桃色でしたけれど、レアな髪色より火属性が欲しかったわ。
それで肝心の属性は女神の加護である光属性に加え、水属性と土属性というトリプルエレメント。モブには過ぎた属性だと思います。
「この分だと上級魔法でも無理っぽいね。やはり古代魔法でぶち抜くしかないか……」
古代魔法は前世の知識です。
追っ手を一撃で吹き飛ばす魔法が必要だった私は古代魔法を二つこの世に蘇らせていました。
無限にも続くループの中で文献を取り寄せては研究し、実用にまで漕ぎ着けています。
「何しろ太古のエルフが編み出したという魔法だし……」
古代魔法は威力が段違い。かといって現状の魔力では一発で昏倒してしまうはず。
「前世でも試し撃ちしかしたことないけど……」
所有属性に左右されない古代魔法。攻撃手段が限られるアナスタシアには最適です。
「問題は一つ……」
懸念されるのは威力がありすぎた場合。この岩山が吹き飛んでしまえば、恐らく私はレジュームポイントまで戻される。
岩山が消失すれば公爵家の買収話はなくなるのだし、そうなるとアナスタシアは貴族院への寄付金を工面できなくなるからです。
「でも私は岩盤を貫かなきゃ始まんないのよ!」
私は勝負に出ています。手持ちの魔法で有効なものが、これしかないんだもの。
ここは古代魔法に懸けるだけよ。アナスタシアの未来を切り開くため、固い岩盤を撃ち抜くだけわ。
「ロナ・メテオ・バァァスト!!」
詠唱文を唱え終えると眼前には巨大な多角魔法陣が出現。ここでキャンセルを繰り返せば熟練度だけが得られます。
けれど、魔法陣に魔力を注ぎ込んでしまうと魔法は完結し、効果が発動するという仕組みです。
「絶対に撃ち抜く!」
この十二年の集大成とばかりに、私は古代魔法[ロナ・メテオ・バースト]を発動。王都へと向かう資金をこの鉱山にて捻出するために。
「いけぇぇぇっ!!」
急激に魔力が失われると、魔法陣の何倍もある巨大な隕石が眼前に現れている。
「え? うそ!?」
いや、こんなに大きくなかったでしょ!? 試し撃ちした頃はもっと小さかったって!
どうやら私は熟練度を上げすぎたみたい。
「ちょっと待って! 絶対に跡形もなくなるってば!」
とはいえ、魔力を注いだ後は発動を待つだけ。今さらキャンセルなんてできるわけがありません。
「終わった……」
眼前で大爆発が起きています。
遠く離れた王都でも感じるくらいの激しい揺れ。まるで火山が大噴火したかのような超威力を私は目の当たりにしていました。
「あっ…………」
意識が朦朧とする。
やっぱ十二歳という年齢で古代魔法なんか使うものじゃないわ。
このあと私は確実に魔力切れで昏倒することでしょう。
恐らく次に目が覚めたとき、私は赤子だ。
アナスタシアが貴族院に入る唯一の手段である鉱山を完全に吹き飛ばしてしまったのだから。
怒れる女神アマンダの表情が容易に思い浮かぶ。レジュームポイントまで即座に巻き戻す彼女の引きつった表情が……。
粉塵に視界を奪われた中で、私は眠りにつく。
やり直しの人生では岩盤を撃ち抜く適切な魔法の習得を目指そうと心に誓いながら。
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