21 / 377
第一章 前世と今世と
火竜退治
しおりを挟む
「こんなところで何をしている!?」
私は唖然としていました。
間違いなく火竜が吐いた火炎を受けて、黒焦げになったはず。レジュームポイントまで戻され、赤子からリスタートするはずなのに。
しかし、眼前にはルーク。今し方、聞いたばかりの台詞を耳にしていました。
(セーブされた!?)
過度に驚愕しましたが、どうやら世界線はセーブされたらしい。
女神アマンダの裁量により、ルークに抱き寄せられた時間帯に巻き戻されたようです。
既に何十年とアナスタシアをしていましたけれど、セーブポイントが作成されたのは今回が初めて。
ルークとの邂逅を果たした岩山へと私は戻されていました。
「静かにしてください、ルーク殿下……」
とりあえずはルークを落ち着かせる。更には手を引いて、岩場の影へと連れて行く。
二人共が慌てたままでは再び火竜に見つかってしまう。
女神アマンダはルークに抱き寄せられ、動揺する私を見たかったのでしょうけど、あれは間違いなく死亡フラグ。
あの旗を立ててしまえば、死に戻りが確定することでしょう。
「ルーク殿下、このような場所で何をされていたのです?」
まずは情報収集から。
不覚にもときめいてしまった事実を呑み込んで、私は彼の行動理由を質すだけ。
「いや、君こそ何をしていたんだ? ここは火竜の巣なんだぞ?」
まあ、疑問に思うでしょうね。
十二歳の少女が夜に一人で火竜の巣にいるなんて。
「私はスカーレット子爵家のアナスタシアですわ。火竜は我が所領にとっても災厄そのもの。定期的に様子を見に来ておるのです」
ここは嘘を言って誤魔化すだけだわ。だけど、真実味はあるはずだもん。
王領と同じくスカーレット子爵領も火竜の脅威に晒されているのだし。
「一人でか? そのような馬鹿げた話は……」
「それは殿下も同じでしょう?」
「俺は王家の務めとして、火竜の調査に来ただけだ。まあ、初めての付き添いだったんだが……」
なるほど。どうやらルークはレグス近衛騎士団長の調査に同行しただけらしいね。
まあ、そんなところだろうとは思ったけど。
「レグス近衛騎士団長はどこに?」
「レグスを知っているのか?」
おっと、マズったかな? まあでも、強面騎士団長は有名だとでも言っておきましょう。
今はそんなことよりも、窮地から脱する手を考えないとね。
「レグス団長は令嬢の間で有名ですのよ? そんなことよりも、殿下たちは二人だけなのでしょうか?」
「大人数だと見つかるかもしれないからな。調査は二人と決まっている。レグスは今、巣に近寄って産卵したのかどうかを確認しているんだ」
それで姿が見えなかったのね。確かに峰を登るのなら一人でないと見つかってしまう。
幼い王子殿下をそこまで同行させるわけにはならなかったでしょうし。
「恐らく産卵しておりますわ。レグス様はタマゴを持ち帰れられるのでしょうか?」
「いや、産卵していたら、魔道具を使って闇の腐食魔法をかけるんだ。羽化しないように」
「ああ、そういうことでしたか。増えると困りますものね……」
卵がなくなると火竜は怒り狂うでしょう。何しろ私が立てた作戦の一部だもの。
王都を襲う火竜を退治して、私は王城へと呼び出されるつもりだったのだし。
「全て王家の務めだ。退治するか追い払えたら良いのだが、二頭もいる現状では増やさぬようにするしかない」
私はルークの話に頷きを返す。真っ当な人間が考えるだろう話に。
王都を襲うようにけしかけようとしていた話など、できるはずもありません。
「ひょっとしてレグス様は気付かれてしまったのではないでしょうか?」
上空からは火竜の騒がしい声が聞こえている。
それはつい先ほどの時間軸で起きたばかりです。
私たちが身を潜めている以上、レグス近衛騎士団長が見つかったのだと思われます。
「殿下ァァッ、どこです!?」
急に大きな声が響く。その声にも聞き覚えがある。
火竜に見つかったレグス団長が戻ってきたのだろうと。
「レグス、ここだ!」
「見つかりました! 逃げましょう……ってその娘は!?」
今は暢気に挨拶をしている場合ではありません。
私は彼の疑問に答えることなく、問いを返しています。
「レグス様は火竜と戦えますでしょうか?」
まずはその確認です。
返答次第でバッドエンドまっしぐらの現ルートにも光明を見出せるのですから。
「むぅ? 逃げると言っておるだろう!? 二頭もいるのだぞ!?」
「逃げられませんよ。二頭もいるのだし。戦えるのか戦えないのかどちらです!?」
私が声を張ると、レグス近衛騎士団長は上空を振り返りながら口を開いた。
「倒せはしない。けれど、時間を稼ぐくらいは可能だ……」
流石は強面騎士団長ね。期待した回答を口にしてくれるなんて。
ならば私も腹を括ろう。既に滅茶苦茶となったレグスルートから脱するだけ。邪魔をする火竜を排除するだけだ。
「ならば、少しばかり足止めをお願いいたしますわ。私の直線上に二頭を並べるように戦ってください」
剣術縛りがなくなったのなら、きっと私は戦える。
超強敵である岩山をも吹き飛ばした古代魔法によって。
「いや、しかしな!?」
「さあ、殿下をお守りするのであれば、急いでくださいまし! お任せくださいと、私は言っておるのですから!」
話しているうちに、火竜が巨大な火球を吐いてきた。
先ほどはこれで黒焦げになっている。しかし、今は枷を外された私がいるのよ。
「ハイドロクラッシャァァ!!」
火属性には水属性と相場が決まっています。
恐らくは相殺可能。何しろ十二歳の子供が討伐できる設定なんだから。
岩盤をも砕く上級魔法であれば、巨大な火球であっても打ち消すくらいはできるはず。
「ぉぉぅ……?」
レグス団長が呆気にとられている。
しかし、美辞麗句を並べるにはまだ早くてよ?
「レグス様、二頭が降下してきます! 何とか防いでくださいまし!」
「わ、分かった!」
火球が効かないと分かったからか、火竜二頭は物理攻撃に切り替えてきた。
割と知能は高いみたいだけど、それを待っていたことまでは気付かないみたいね。
「ぐぁあああぁっっ!!」
流石は近衛騎士団長様。背負った大盾をかざして、火竜の突進を食い止めている。
一頭目の攻撃を食い止めたことで、二頭目は身体を反転させて身体を急制止。
「きた……」
まさに願ったり叶ったりの状況となっていました。
近衛騎士団長の実力なのか、はたまた神ってる私の運なのか。二頭は私と一直線で繋がる位置で制止しています。
「羽の生えたトカゲはキャスティングされていないのよ!」
私は最大級の魔法を撃ち放つだけ。
死に戻ったあとのことなど考えない。今は火竜の討伐こそが私に課せられた使命なのだと。
「ロナ・メテオ・バァァストッッ!!!」
巨大な魔法陣に大量の魔力が吸い込まれていく。
刹那に撃ち出される岩山の如き隕石。水属性ではなかったけれど、古代魔法であれば必ずや仕留められるはず。
失われていく膨大な魔力に私は確信を得ていました。
「いけぇぇええええっ!!」
直撃するや、もの凄い粉塵が巻き起こっています。
十四歳で唱えていたものと比べても遜色はない。やはり魔法強化に努めてよかったと思えます。
ビバ・魔法少女だね……。
「やった……」
二頭の火竜は肉片すら残さず消え去っていました。
竜種といえども古代魔法を受けては羽虫と同等の存在に成り下がっていたようです。
さりとて、私は魔力切れ。徐々に意識が遠のいていきます。
(どうして守ったかな……?)
ルークが失われたとして、私には何の影響もなかったはず。
寧ろ彼がいなくなる方が、私としては好都合でした。
エリカに悩まされることなく、セシル第三王子殿下を籠絡するだけで良かったのです。
(ま、しょうがないね……)
またやり直しです。
古代魔法にて火竜を討伐した私は明らかにレグスルートから脱線していたのですから。
(前世の夫を見殺しにもできないし……)
魔力切れにて朦朧とする意識の中、私は笑みを浮かべながら深い眠りに落ちる。
(さきほどのリベンジは果たしたからね……)
前世の夫を守ったという微妙な戦果をどうしてか誇りに思う。
まあしかし、リスタート時にはもう少し考えて行動すべきかもしれません。
目覚めた折りに不安を感じつつも、私は意識を失った。
激しく揺れ動いた世界線の結末に過度な期待を寄せながら……。
私は唖然としていました。
間違いなく火竜が吐いた火炎を受けて、黒焦げになったはず。レジュームポイントまで戻され、赤子からリスタートするはずなのに。
しかし、眼前にはルーク。今し方、聞いたばかりの台詞を耳にしていました。
(セーブされた!?)
過度に驚愕しましたが、どうやら世界線はセーブされたらしい。
女神アマンダの裁量により、ルークに抱き寄せられた時間帯に巻き戻されたようです。
既に何十年とアナスタシアをしていましたけれど、セーブポイントが作成されたのは今回が初めて。
ルークとの邂逅を果たした岩山へと私は戻されていました。
「静かにしてください、ルーク殿下……」
とりあえずはルークを落ち着かせる。更には手を引いて、岩場の影へと連れて行く。
二人共が慌てたままでは再び火竜に見つかってしまう。
女神アマンダはルークに抱き寄せられ、動揺する私を見たかったのでしょうけど、あれは間違いなく死亡フラグ。
あの旗を立ててしまえば、死に戻りが確定することでしょう。
「ルーク殿下、このような場所で何をされていたのです?」
まずは情報収集から。
不覚にもときめいてしまった事実を呑み込んで、私は彼の行動理由を質すだけ。
「いや、君こそ何をしていたんだ? ここは火竜の巣なんだぞ?」
まあ、疑問に思うでしょうね。
十二歳の少女が夜に一人で火竜の巣にいるなんて。
「私はスカーレット子爵家のアナスタシアですわ。火竜は我が所領にとっても災厄そのもの。定期的に様子を見に来ておるのです」
ここは嘘を言って誤魔化すだけだわ。だけど、真実味はあるはずだもん。
王領と同じくスカーレット子爵領も火竜の脅威に晒されているのだし。
「一人でか? そのような馬鹿げた話は……」
「それは殿下も同じでしょう?」
「俺は王家の務めとして、火竜の調査に来ただけだ。まあ、初めての付き添いだったんだが……」
なるほど。どうやらルークはレグス近衛騎士団長の調査に同行しただけらしいね。
まあ、そんなところだろうとは思ったけど。
「レグス近衛騎士団長はどこに?」
「レグスを知っているのか?」
おっと、マズったかな? まあでも、強面騎士団長は有名だとでも言っておきましょう。
今はそんなことよりも、窮地から脱する手を考えないとね。
「レグス団長は令嬢の間で有名ですのよ? そんなことよりも、殿下たちは二人だけなのでしょうか?」
「大人数だと見つかるかもしれないからな。調査は二人と決まっている。レグスは今、巣に近寄って産卵したのかどうかを確認しているんだ」
それで姿が見えなかったのね。確かに峰を登るのなら一人でないと見つかってしまう。
幼い王子殿下をそこまで同行させるわけにはならなかったでしょうし。
「恐らく産卵しておりますわ。レグス様はタマゴを持ち帰れられるのでしょうか?」
「いや、産卵していたら、魔道具を使って闇の腐食魔法をかけるんだ。羽化しないように」
「ああ、そういうことでしたか。増えると困りますものね……」
卵がなくなると火竜は怒り狂うでしょう。何しろ私が立てた作戦の一部だもの。
王都を襲う火竜を退治して、私は王城へと呼び出されるつもりだったのだし。
「全て王家の務めだ。退治するか追い払えたら良いのだが、二頭もいる現状では増やさぬようにするしかない」
私はルークの話に頷きを返す。真っ当な人間が考えるだろう話に。
王都を襲うようにけしかけようとしていた話など、できるはずもありません。
「ひょっとしてレグス様は気付かれてしまったのではないでしょうか?」
上空からは火竜の騒がしい声が聞こえている。
それはつい先ほどの時間軸で起きたばかりです。
私たちが身を潜めている以上、レグス近衛騎士団長が見つかったのだと思われます。
「殿下ァァッ、どこです!?」
急に大きな声が響く。その声にも聞き覚えがある。
火竜に見つかったレグス団長が戻ってきたのだろうと。
「レグス、ここだ!」
「見つかりました! 逃げましょう……ってその娘は!?」
今は暢気に挨拶をしている場合ではありません。
私は彼の疑問に答えることなく、問いを返しています。
「レグス様は火竜と戦えますでしょうか?」
まずはその確認です。
返答次第でバッドエンドまっしぐらの現ルートにも光明を見出せるのですから。
「むぅ? 逃げると言っておるだろう!? 二頭もいるのだぞ!?」
「逃げられませんよ。二頭もいるのだし。戦えるのか戦えないのかどちらです!?」
私が声を張ると、レグス近衛騎士団長は上空を振り返りながら口を開いた。
「倒せはしない。けれど、時間を稼ぐくらいは可能だ……」
流石は強面騎士団長ね。期待した回答を口にしてくれるなんて。
ならば私も腹を括ろう。既に滅茶苦茶となったレグスルートから脱するだけ。邪魔をする火竜を排除するだけだ。
「ならば、少しばかり足止めをお願いいたしますわ。私の直線上に二頭を並べるように戦ってください」
剣術縛りがなくなったのなら、きっと私は戦える。
超強敵である岩山をも吹き飛ばした古代魔法によって。
「いや、しかしな!?」
「さあ、殿下をお守りするのであれば、急いでくださいまし! お任せくださいと、私は言っておるのですから!」
話しているうちに、火竜が巨大な火球を吐いてきた。
先ほどはこれで黒焦げになっている。しかし、今は枷を外された私がいるのよ。
「ハイドロクラッシャァァ!!」
火属性には水属性と相場が決まっています。
恐らくは相殺可能。何しろ十二歳の子供が討伐できる設定なんだから。
岩盤をも砕く上級魔法であれば、巨大な火球であっても打ち消すくらいはできるはず。
「ぉぉぅ……?」
レグス団長が呆気にとられている。
しかし、美辞麗句を並べるにはまだ早くてよ?
「レグス様、二頭が降下してきます! 何とか防いでくださいまし!」
「わ、分かった!」
火球が効かないと分かったからか、火竜二頭は物理攻撃に切り替えてきた。
割と知能は高いみたいだけど、それを待っていたことまでは気付かないみたいね。
「ぐぁあああぁっっ!!」
流石は近衛騎士団長様。背負った大盾をかざして、火竜の突進を食い止めている。
一頭目の攻撃を食い止めたことで、二頭目は身体を反転させて身体を急制止。
「きた……」
まさに願ったり叶ったりの状況となっていました。
近衛騎士団長の実力なのか、はたまた神ってる私の運なのか。二頭は私と一直線で繋がる位置で制止しています。
「羽の生えたトカゲはキャスティングされていないのよ!」
私は最大級の魔法を撃ち放つだけ。
死に戻ったあとのことなど考えない。今は火竜の討伐こそが私に課せられた使命なのだと。
「ロナ・メテオ・バァァストッッ!!!」
巨大な魔法陣に大量の魔力が吸い込まれていく。
刹那に撃ち出される岩山の如き隕石。水属性ではなかったけれど、古代魔法であれば必ずや仕留められるはず。
失われていく膨大な魔力に私は確信を得ていました。
「いけぇぇええええっ!!」
直撃するや、もの凄い粉塵が巻き起こっています。
十四歳で唱えていたものと比べても遜色はない。やはり魔法強化に努めてよかったと思えます。
ビバ・魔法少女だね……。
「やった……」
二頭の火竜は肉片すら残さず消え去っていました。
竜種といえども古代魔法を受けては羽虫と同等の存在に成り下がっていたようです。
さりとて、私は魔力切れ。徐々に意識が遠のいていきます。
(どうして守ったかな……?)
ルークが失われたとして、私には何の影響もなかったはず。
寧ろ彼がいなくなる方が、私としては好都合でした。
エリカに悩まされることなく、セシル第三王子殿下を籠絡するだけで良かったのです。
(ま、しょうがないね……)
またやり直しです。
古代魔法にて火竜を討伐した私は明らかにレグスルートから脱線していたのですから。
(前世の夫を見殺しにもできないし……)
魔力切れにて朦朧とする意識の中、私は笑みを浮かべながら深い眠りに落ちる。
(さきほどのリベンジは果たしたからね……)
前世の夫を守ったという微妙な戦果をどうしてか誇りに思う。
まあしかし、リスタート時にはもう少し考えて行動すべきかもしれません。
目覚めた折りに不安を感じつつも、私は意識を失った。
激しく揺れ動いた世界線の結末に過度な期待を寄せながら……。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
75
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる