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第三章 鮮血に染まる赤薔薇を君に

王都ルナレイクにて

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 王都にあるランカスタ公爵家の別邸へと到着するや、私は自室に籠もっていました。

 ベッドに倒れ込んでいると、不意に部屋の扉がノックされています。

 面倒にも感じますが、私は居候の身。無視するわけにはなりませんでした。

「どうぞ……」

 とりあえず、ベッドから起きて、身だしなみのチェック。少しくらいシワが寄ったくらいなら構わないでしょう。

 扉を開いたのは執事かと思えば、知った顔でした。

「コンラッド、王都にいたの?」

 ランカスタ公爵家の暗部として働くコンラッドが私を訪ねて来たようです。

 そういえば、王都ではコンラッドを側に付けると髭が話したのを思い出しています。

「ええ、今年貴族院に入る令嬢の調査をしておりますので……」

 まあそうでしょうね。

 髭はやはりイセリナを王家に嫁がせたいと考えています。もし仮にイセリナが王家に嫁いだとすれば、年老いたモルディン大臣の席に潜り込める可能性は高まります。

 どこまでも欲どしい髭ならではの思考です。

「確かエレオノーラ・ゼファー・クレアフィールとミランダ・シーズ・メルヴィスね?」

「よくご存じで。アナスタシア様も同学年となりますので、できればルーク殿下に接近しないよう促してください」

 髭は暗殺するつもりなのかもしれない。

 でも、エレオノーラはレグス近衛騎士団長ルートと隣国の皇太子カルロのルートにしか登場しない。暗殺を企てるつもりなら、ミランダだけにしなさいと釘を刺しておかなくちゃね。

「エレオノーラは王家の誰とも結ばれないわ。そこは安心していい。まあでも、公爵令嬢だからね。何かと問題は起きるかもしれない」

 貴族院に入れば分かる話なのですけど、エレオノーラはともかく、北にあるメルヴィス公爵家のミランダは割とキツく当たってきます。

 そういう意味ならば、エレオノーラは放置しても構わない。マークするのはミランダということになります。

「なるほど。私めはアナスタシア様の陰となるよう申し付けられております。何なりとお使いください」

 コンラッドを取り込んだことは正解だったと思う。

 陰ながら動いてもらうのには好都合です。実力は既に示しているのですから。

「メルヴィス公爵家の陰に注意して。あとダルハウジー侯爵家は注意する必要がある。空きが生まれた公爵家の席を得ようと、牙を剥く可能性は高い」

「了解しました。ダルハウジー侯爵家の裏を暴いて見せましょう」

 素晴らしいね。これでわざわざ副都まで赴く必要はなくなったというものです。

 イセリナであった頃の敵は大きく分けて三つ。

 一つは廃爵となったリッチモンド公爵家ですが、リッチモンド公爵家との繋がりが深い北の盟主メルヴィス公爵家もまた執拗に刺客を送ってきました。加えて隙あらばと狙うダルハウジー侯爵家も目を見張らせる必要があります。

「とりあえず、貴族院の中は私に任せなさい。イセリナ様の無事は保証します」

 万が一、イセリナが殺されてしまうと自動的にリセットだからね。

 世界線に生きるだけのコンラッドには私がイセリナを守り切ったようにしか思えないことでしょう。

 ぶっちゃけ、死に戻りイベントよりも、貴族院で大切なのは好感度上げに他なりません。イセリナであった私は執拗にルークを追いかけていたのですから。

「何かあれば連絡します。緊急時には窓辺に赤い薔薇を。急用ではない場合は黄色い薔薇を起きましょうか」

「赤い薔薇とかスカーレット伯爵家に相応しいですね? 返り血を全身に浴びた貴方様を思い出しました」

 何年前の話を言っているのか、この暗殺者は……。

 私は悪役令嬢なのです。敵が現れたなら容赦なく斬りますし、その覚悟だってしているつもり。

「からかうのはやめなさい。敵が立ち塞がるというのならば、排除するのみ。イセリナ様が歩む道に、一滴の血痕すら残してはなりません」

「私としましてはアナスタシア様にも上り詰めていただきとうございますがね?」

「黙りなさい。身分相応というものがあるのです。私は私が成すべき事をします。コンラッドもそのつもりで動きなさい」

 私はセシル第三王子殿下と結ばれなければなりません。

 まあ、それはコンラッドにとって無関係の事象。彼の仕事は排除がメインであって、恋愛の仲立ちをする役目ではないのですから。

「承知しました。それでは失礼します。、貴族院の方はお任せしました」

 たく、姫様って……。

 コンラッドは静かに部屋を出て行く。

 準備の方は万端です。一つ不安があるとすれば、セーブポイントがいつなのか分からないことです。

 四年前にセシルにキスされたときか、或いは毒により倒れたルークにキスをした三年前なのか。いずれにせよ、かなりの時間が巻き戻されてしまうはず。

 だからこそ、慎重に進まねばなりません。

 女神アマンダが再視聴したがるシーンを適当に作り上げながら、私はイセリナの恋路をアシストしていくつもりです。

 いよいよ貴族院での生活が始まろうとしています。
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