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第五章 心の在りか
あの世界線
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「私は転生者なのです。停滞するこの世界を動かすため、女神アマンダに使わされた人間です」
流石に面食らっている感じです。
愛の女神アマンダはプロメティア世界の主神でありまして、ほぼ全ての教会が彼女を信仰しています。
しかし、女神の使徒だなんて話は流石に受け入れられるものではないでしょう。
「前世はイセリナ・イグニス・ランカスタとして人生を全うしました。でも、イセリナでは滅び行く運命にある世界を変えられなかったのです。世界を救うべくアマンダが出した答えこそが私。アナスタシア・スカーレットだけが世界を救えるだろうと」
カルロになら話しても問題ないでしょう。
世界を照らすエリカを誘導することはできませんが、隣国の皇太子でしかないカルロならば、リセットされる事態にはならないと考えます。
「救世主……? ああいや、世界が滅びるだって?」
「とある人物が魔王因子というものを持っているのです。その方とセントローゼス王家の誰かが結ばれたなら、魔王が誕生してしまう。彼女の子孫は世界を破滅に追い込んでしまうのです」
理解できるはずもありません。女神から始まって世界が滅びるだなんて妄言でしかないのですから。
私は全てを伝えます。イセリナとルークが結ばれ、私とセシルが婚約するという女神アマンダの言い付けまで。
「まあそれで私はアナスタシアとして頑張って来ました。イセリナとして生きた千年という期間の記憶を使い、予知であると言い張って……」
イセリナ時代があったからこそ、私は未来が分かる。
プレイヤーであったからこそ何をすべきかを知っている。
「でも、問題が発生しました。昨日リックがお話しした王子殿下の暗殺事件は実をいうと既に解決しておるのです」
「どういうことだ? 君は未然に防ごうとして動いているのだろう?」
カルロの問いには首を振る。
どうしようもなくなって私はこの時間軸にいるのだから。
「いえ、一度は解決しました。しかし、その世界線において、あろうことか私はルーク殿下に言い寄られてしまったのです。アナスタシアである私は、もう愛されるべきイセリナではなかったというのに……」
ふと涙が零れていました。
あのシーンを思い出すたび胸が痛む。心が流す涙は心の内に収まりきらず、瞳から零れだしてしまうのです。
「何度嫌われようとしても、彼は私を求めました。決して結ばれてはならないというのに……」
遂には嗚咽を漏らす。
苦しすぎた。あの世界線を語るのは辛すぎる……。
泣きじゃくる私にカルロが言いました。
「ルーク殿下が好きだったのか……?」
カルロの質問には首を振りました。
好きとかいう軽い感情ではないのだと。
「現状の世界線と解決した世界線。どうやって切り替わったと思います?」
私は問いを返していました。
分かるはずもない。どれだけ私が切羽詰まってこの世界線を選んだのかなんて。
「私や重要人物が死ぬと女神アマンダの裁量により時間が巻き戻されるのですよ。アマンダとしてはまだ目があったみたいですけれど、私にとってあの世界線は辛すぎた。とても正気で続けられる世界線ではなかったのです」
好きとか嫌いとか子供でも言うわ。
でも違うのよ。私の気持ちはもっと奥深く暗い澱みに沈んでいたのですから。
「自ら死を選ぶほどに彼を愛していた――」
唖然と頭を振るカルロ。
泣き喚く私の真意が感じられたのかもしれません。
どうしようもなくなって、最悪の方法であの世界線から脱したことを。
「だから今の世界線になったの。貴方たちのことを知っていたのは前世界線で会っていたからよ。全て私が経験した人生にあったことだから……」
涙が止まらない。私だって許されるのなら、あの世界線を続けたかったわ。
でもね、私には使命があるのよ。牧歌的に過ごす時間なんて与えられていないの。
だけど、別に同情を引こうとしたわけじゃない。
私はただ疲れ果てていただけよ……。
流石に面食らっている感じです。
愛の女神アマンダはプロメティア世界の主神でありまして、ほぼ全ての教会が彼女を信仰しています。
しかし、女神の使徒だなんて話は流石に受け入れられるものではないでしょう。
「前世はイセリナ・イグニス・ランカスタとして人生を全うしました。でも、イセリナでは滅び行く運命にある世界を変えられなかったのです。世界を救うべくアマンダが出した答えこそが私。アナスタシア・スカーレットだけが世界を救えるだろうと」
カルロになら話しても問題ないでしょう。
世界を照らすエリカを誘導することはできませんが、隣国の皇太子でしかないカルロならば、リセットされる事態にはならないと考えます。
「救世主……? ああいや、世界が滅びるだって?」
「とある人物が魔王因子というものを持っているのです。その方とセントローゼス王家の誰かが結ばれたなら、魔王が誕生してしまう。彼女の子孫は世界を破滅に追い込んでしまうのです」
理解できるはずもありません。女神から始まって世界が滅びるだなんて妄言でしかないのですから。
私は全てを伝えます。イセリナとルークが結ばれ、私とセシルが婚約するという女神アマンダの言い付けまで。
「まあそれで私はアナスタシアとして頑張って来ました。イセリナとして生きた千年という期間の記憶を使い、予知であると言い張って……」
イセリナ時代があったからこそ、私は未来が分かる。
プレイヤーであったからこそ何をすべきかを知っている。
「でも、問題が発生しました。昨日リックがお話しした王子殿下の暗殺事件は実をいうと既に解決しておるのです」
「どういうことだ? 君は未然に防ごうとして動いているのだろう?」
カルロの問いには首を振る。
どうしようもなくなって私はこの時間軸にいるのだから。
「いえ、一度は解決しました。しかし、その世界線において、あろうことか私はルーク殿下に言い寄られてしまったのです。アナスタシアである私は、もう愛されるべきイセリナではなかったというのに……」
ふと涙が零れていました。
あのシーンを思い出すたび胸が痛む。心が流す涙は心の内に収まりきらず、瞳から零れだしてしまうのです。
「何度嫌われようとしても、彼は私を求めました。決して結ばれてはならないというのに……」
遂には嗚咽を漏らす。
苦しすぎた。あの世界線を語るのは辛すぎる……。
泣きじゃくる私にカルロが言いました。
「ルーク殿下が好きだったのか……?」
カルロの質問には首を振りました。
好きとかいう軽い感情ではないのだと。
「現状の世界線と解決した世界線。どうやって切り替わったと思います?」
私は問いを返していました。
分かるはずもない。どれだけ私が切羽詰まってこの世界線を選んだのかなんて。
「私や重要人物が死ぬと女神アマンダの裁量により時間が巻き戻されるのですよ。アマンダとしてはまだ目があったみたいですけれど、私にとってあの世界線は辛すぎた。とても正気で続けられる世界線ではなかったのです」
好きとか嫌いとか子供でも言うわ。
でも違うのよ。私の気持ちはもっと奥深く暗い澱みに沈んでいたのですから。
「自ら死を選ぶほどに彼を愛していた――」
唖然と頭を振るカルロ。
泣き喚く私の真意が感じられたのかもしれません。
どうしようもなくなって、最悪の方法であの世界線から脱したことを。
「だから今の世界線になったの。貴方たちのことを知っていたのは前世界線で会っていたからよ。全て私が経験した人生にあったことだから……」
涙が止まらない。私だって許されるのなら、あの世界線を続けたかったわ。
でもね、私には使命があるのよ。牧歌的に過ごす時間なんて与えられていないの。
だけど、別に同情を引こうとしたわけじゃない。
私はただ疲れ果てていただけよ……。
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