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第五章 心の在りか

急な来訪者

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 枢機卿に任命されて一ヶ月。私はようやく日々のルーティンにも慣れてきました。

 朝夕の礼拝。祈りのあと、私は信徒たちを前に高説を垂れるのです。

 苦しみから逃れるために自害した私が信徒たちに希望を与える。努力すれば望みは叶うだなんて、どの口で語っているのでしょうかね。

「それでは本日も良き一日となるように。祝福を授けます!」

 今まで光属性の神聖魔法は使用する機会がなかったのですけれど、高説を述べるだけではどうかと思い、幸運値を少しだけ上昇させる魔法を構築しています。

 祈りのあと、その魔法を信徒たちにかけてあげるようにしていました。

「ホーリー・ブレス!!」

 祝福の魔法名はそのままですね。

 メガミフザケンナとかアマンダへの悪口も考えたのですけれど、効果がなくなるといけませんし。

「聖女様!」
「聖女様、ありがとうございます!」

 聖堂に満ちる神秘的な輝きは超常的な力を感じさせます。

 それは術式に組み込んだ視覚的効果なのですが、実際に幸運に恵まれたという話もちらほらと寄せられております。

 まあそれで、朝夕の礼拝はかつてないほど賑わっているそうです。信仰心を高める役目という点において、私は全うできているみたいですね。

「ルイ枢機卿、本日もご苦労だった」

 礼拝後に慰労の声をかけてくれたのはヴィクトル・マグヌス教皇様です。

 その役職とは異なり、彼は支部のトップでしかありません。しかし、ずっとガラクシアの大聖堂にて神事を司ってきた人物でした。

「教皇様、私はこれより登城しなければなりません。懺悔室の当番をどなたかに代わっていただきたいのですが……」

「むぅ、またか? 殿下が入れ込んでおられるのは知っているが、教会としての職務に差し障りがあっては困るな?」

「かといって無下にはできませんので……」

 ぶっちゃけ私はカルロの愛人だと思われています。

 ヴィクトル教皇としては教会の権威を高めたいところであったのでしょうが、毎日のように使者が迎えに来るのです。

 飾りでしかない私に手が離せない用事がないことを分かっているかのように。

「それでは失礼いたしますわ」

 聖女として祭り上げられた私は今や立派な法衣を身に纏っています。

 深々としたフードを被らねばならず、マリィも自室以外はキャリーバッグに入れておく決まり。かといって、マリィはキャリーバッグに詰め込まれた干し肉が大好きなので気にしていないみたいだけど。

「毎日、呼ぶくらいなら皇城に住まわせたらいいのに……」

 私は皇家の馬車に乗り、ウィンドヒル王城へと到着しています。

 すると執事によって、直ぐさま皇太子殿下の元へと案内されることに。

 いつものように執事が扉を開いてくれたのですが、私は愕然としています。

(えっと……)

 そういえば忘れていました。

 新生活で忙しくしていたのは事実ですけれど、目的があってサルバディール皇国まで来ていたことを。

「お初にお目にかかりますわ。ランカスタ公爵様……」

 カルロ殿下の自室に招かれていたのは髭ことランカスタ公爵と、どうしてかイセリナもいます。

 不機嫌そうな彼女を見ると、無理矢理に連れられて来たことでしょう。

「イセリナ様もご足労感謝いたします。私がラマティック正教会の枢機卿ルイ・ローズマリーでございますわ」

 一応はイセリナにも礼を。

 今となっては身分に差はありませんけれど、サルバディール皇国は小国ですからね。下に見られるのは間違いありません。

「ほう、イセリナのことを知っておるのだな?」

 名乗ることなく、髭が聞いた。

 まあ前世の自分だしね。知りすぎているくらいよ。

「私は予知が得意ですの。まあそれで公爵様をお呼び立てしたわけですわ。お土産話もございますので、最後までお聞きいただけると幸いです」

 ここは必ずや髭の興味を惹くしかない。

 わざわざ足を運んだのは使いに持たせたミスリルのおかげなのでしょうし。

「お父様、何なのです? この子豚は……」

 どうやらイセリナは今もクリアデータの反映を受けているみたい。

 まあここは聞き流しておきましょう。なぜなら、もうオリビアとの服飾店イベントは必要ないのですから。

「儂はその土産話を先に聞きたい。話はそれからだ。一応は旅行という名目で出国しておるのでな。名所を見て回らねばならん」

 ああ、それでイセリナを連れてきたのね。

 だとすれば可哀相だけど、彼女にも付き合ってもらうしかありません。

「でしたら端的に。私はミスリルがある鉱床の位置を予知しております。場所はランカスタ公爵領の北側。スカーレット子爵家にある岩山ですわ。埋蔵量は白金貨二枚分。市場価値にして四枚分でしょうか。金貨三百枚で交渉可能です」

 アナスタシアがいなくなった現状でダンツが求める金貨は二百枚。弟のレクシルが貴族院に入れたなら、それで構わないはずです。

「ほう、割と良い話じゃないか? しかし、儂はサルバディール皇国内にミスリル鉱脈が見つかったと聞いたのだぞ?」

「まあ、それは嘘ですわ。私がランカスタ公爵様と面会するための。全ては予知通り。騙されたとして、貴方様は何も悪くございません」

 毅然と嘘だと言い張る私にカルロは顔を青ざめていたけれど、心配しなくて良いわ。

 何の問題もありませんから。

「嘘に予知も何もないだろうが?」

 まあ、正論だね。だけど、私は髭を熟知している。

 髭は騙すことも、騙されることも好きなんだってこと。よって私は彼が楽しめるように返答を終えるの。

「あら? 実際に来られたではありませんか?――」
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