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第七章 光が射す方角

新生活に輝きを

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 瞬く間に四月となっていました。

 貴族院の試験結果は当然のことながら合格です。他国ではありますが、枢機卿という立場で不合格になるはずもありません。

 他のメンバーも概ねゲームシナリオ通り。

 欠けていたのは処刑されたヴィクトリア・ガイア・リッチモンド公爵令嬢とキャサリン・デンバー侯爵令嬢。あとはサマンサ・マキシム侯爵令嬢の三人です。

 本日は貴族院の初日。有り難いアルバート・ゼファー・ソフィアフィール貴院長のお話があったあと、新入生は講堂へと向かわねばなりませんでした。

「イセリナ、講堂へ急ぐよ?」

「ルイ、お待ちなさい! ワタクシは少しくらい遅れても怒られないのですから」

 現状の世界線に不安があるとすれば、イセリナの存在です。

 世界線を動かすたびにポンコツ化しているような気がしてなりません。本当にルークを落とすつもりがあるのかどうか。やはり心配になってしまいます。


 講堂へ入るや、エリカと談笑するルークの姿が見えました。

 エリカは私に気付いたようですが、ペコリと頭を下げるだけで命令を守ってくれています。

「とりあえず今回は一週間くらいもちそうね……」

 前回の貴族院は僅か三日で終焉を迎えました。

 心の痛みに耐えられず自害を選んでしまったのです。しかし、今世界線はエリカがルークの相手をしてくれる。

 言い寄られる心配がなければ、きっと私の心は落ち着いたままであることでしょう。

「イセリナはルーク殿下のところへ行かないの?」

 講堂に到着するご令嬢が増えるや、瞬く間にルークは取り囲まれていました。

 やはり王太子候補に復活したことは彼にとって有意義なこと。持て囃される人生が再び始まったのだと思います。

 既にエリカは押しのけられ、呆然としているだけ。准男爵という貴族院でも最弱の立場であるのだから仕方ありませんけれど。

「ワタクシ? ルーク殿下がどうしてもと仰るのなら、お話ししても構いませんわよ?」

 この世界線は非常に危うくなっています。

 ルークとイセリナが結ばれることが大団円となる条件なのです。しかし、我が姫君はずっと私と一緒だし、王子殿下に興味を示さない。

 飢饉や疫病、加えてスラム街の清楚に忙しかった私はイセリナを焚き付けることを後回しにしていたのです。

(まいったな。リセット確定じゃない?)

 イセリナがその気にならなければ、恐らくリセットです。

 またエリカを利用するのであれば、神聖魔法の構築が必須。魔法が完成しない場合も確実にリセットされるでしょう。

(今のところ、どちらも期待値などないね……)

 新たな魔道書の発見に加えて、それが私にとって有用な内容でないと魔法の開発は滞ったまま。

 イセリナに関していえば、ぐうたら高慢ちきな女にルークが振り向くとは考えられません。

「イセリナは見た目だけだわ……」

「失礼ね! ワタクシには権力もありますわ!」

 前世界線と同じく、デンバー侯爵領とリッチモンド公爵領をランカスタ公爵家は手に入れています。

 更には治水工事の進言やら食糧危機への備えなど、髭は王家から厚い信頼を得ていたのです。もはや次期国務大臣の席は決まったも同然でした。

「いざとなれば髭の力でねじ込むしか……」

 最終手段は政略結婚。

 髭の政治的権力をフル稼働して王太子妃並びに王子殿下の婚約者として滑り込ませること。最悪の場合でもセシルと結ばれてもらわなくてはなりません。

「まぁたルイはお父様のことを……」

「髭は髭でしょ? 私の願い事は全然叶っていないのに……」

 髭にも魔道書を集めるように願っています。

 しかし、時間だけが過ぎており、私が依頼したリック、コンラッド、髭の陰部隊は一つの情報も持ち帰っておりません。

「魔道書でしたわね? あんなもの集めて面白いの?」

「そういう問題じゃないのよ。私は趣味で集めてるのではない!」

 そこだけははっきり言っておきましょう。

 私だってお洒落したり、街へ繰り出して遊びたいわ。でも、それは二十歳を迎えてから。ルークとセシルが相手を決めてからよ。

「イセリナ様、ルイ様!」

 ここでオリビアが現れました。

 この世界線にて私は彼女の彼氏を奪っております。

 一応はオリビアも誕生パーティーイベントにてカルロと面識がありましたけれど、そもそも出会いのイベントをスルーしていますし、私が罪悪感を覚えることなどありません。

「オリビア、ご機嫌じゃない?」

「エヘヘ、実はさっきサルバディール皇国のカルロ殿下とお話したのです!」

 自慢げにオリビアは言った。

 あら? こんなシナリオがあるんだ。てっきりオリビアはレストランイベントをこなさないと、カルロとの縁がなくなるのだと考えていました。

 まあしかし、ゲームではレストランイベントなどありませんし、カルロルートのライバル令嬢である彼女は貴族院に入ってからでも、彼と親密になる機会があるみたいです。

「オリビアはカルロ殿下がタイプなの?」

「めめ、滅相もないです! 私は伯爵令嬢ですよ!? 絶対に釣り合いません!」

 私は少しばかり考えています。もしも、オリビアがカルロを完落ちさせたとすれば。

 カルロが私から興味を失ったとすれば……。

(いけんじゃない?)

 その世界線において、私の立場は枢機卿のままでしょう。

 彼の意志で別の女性を選ぶだけ。私を追いやる必要はないはずです。

(悪くないわ。私は聖職者として生きていけばいいし)

 これからはオリビアを大プッシュしていこう。私は決意していました。

 火竜の聖女であり枢機卿という立場があれば、マリィと一緒に毎日食っちゃ寝するだけでいいのです。

 屋台の食べ物を食べながら、二人で仲良く暮らしていけるはず。

 きっと、それでも私は幸せだろうと。

 目と鼻の先で愛する人の結婚生活を見届けるよりは……。
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