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第九章 永遠の闇の彼方

変わる風向き

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 ソレスティア王城ではセシルの自室にルークが押しかけていた。

 兄弟であるフェリクスが亡くなったばかり。しかしながら、二人はフェリクスを悼むことなく、まるで異なる話をしている。

「セシル、お前は戦争に介入するつもりか?」

 それは先ほど聞いたばかり。アナスタシアがセシルに願った内容に他ならない。

「父上にお願いするつもりだよ。僕はアナスタシア様を手に入れたい……」

 ずっと従順な弟であった。

 しかし、此度のセシルは違う。兄を敬っていたというのに、彼は自分の意志を露わにしている。

「父上が承諾するとでも? 小国間の戦争に介入したとして何の利益もないんだぞ!?」

「利益ならあるよ……」

 セシルは凄むように返した。

 どうやら彼にも考えがあってのことらしい。

「東部三国を平定すれば王国は安泰だ」

「お前、それ……?」

 セシルが目論むこと。ルークにも理解できた。

 それは決して戦争の仲介などではなく、混乱に乗じた侵攻に違いないのだから。

「それに僕は王太子となる決心がついた。彼女を手に入れて、僕は王太子になろう。戦争は僕が指揮を執る。東部三国を平定した戦果によって、諸侯たちの指示を得るつもりだよ」

 仲の良い兄弟はここで終わりなのかもしれない。

 奇しくも第二王子フェリクスが天命を遂げたばかり。バランスを保っていた三つの綺羅星は一つが流れたあと、瓦解していく。

「ルーク兄様、僕はかつてないほどやる気に満ちております。どうか、全てが現実となったときには祝していただきとうございます」

 アナスタシアを手に入れるためならば、何だってできるのだと。

 戦争の陣頭指揮を執ることや、尊敬する兄に対抗することですら。

 ずっと自分を押し殺していたセシルだが、ここに来て野心というものに目覚め、自身が進むべき道を理解するのだった。
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