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第十章 闇夜に咲く胡蝶蘭

禁句

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 二週間が経過していました。

 夏真っ盛りです。

 私は落ち着きを取り戻していましたが、シナリオ通りにノヴァ聖教国が皇国と帝国へ攻め入ってしまった事実に、あの行動を思い出しています。

 リックは果たして無事なのかどうか。更にはサルバディール皇家の人たちはと。


 本日はどうしてか髭の来客があり、私とイセリナは外出して過ごすことに。

 ドレスを新調したいとのことで、オリビアを連れて服飾店へと来ていました。

「オリビア、その辛気くさい顔はどうにかなりませんの?」

 溜め息ばかり吐いているオリビアにイセリナが言いました。

 どうも彼女は本気になっていたみたい。カルロが失われたことを知った彼女は傷心であるようです。

「申し訳ございません……」

「まあまあ、オリビアなら、もっと良い人が見つかるよ!」

 カルロを押し付けようとした結果なのですけれど、まさか死を目前にしてセーブされてしまうなんて、少しも考えていませんでした。

「そうだと良いのですけれど……」

「そもそも、あのつっけんどんのどこが良かったのかしら? ワタクシには魅力が分かりませんわ」

 事を荒立てるような公爵令嬢様。

 せっかく立ち直りの機会を与えようというのに、思い出させてどうするのよ……。

「え? 皇子様ですよ?」

「皇子なら誰でも良いの? 王国にも二人いるじゃないの?」

 どうやら皇子という特殊フィルターがオリビアにはかかっているみたいね。

 まあ分からなくはありません。かくいう私だって王子様に憧れていた一人ですから。

「イセリナ様はルーク殿下がいらっしゃいますけれど……」

「欲しかったらあげますわ。早く婚約破棄してくれないかしら……」

 怠け者に育ってしまったこのイセリナは王太子妃という立場よりも、面倒事を嫌っています。

 避けられない事象として婚約を受け入れただけ。抵抗することすら面倒に感じてしまう駄目な子です。

「私には無理ですよ! やはり侯爵家以上でもなければ、王家に嫁ぐのは難しいですから……」

 オリビアの意見は正しいです。

 たとえ当人同士が良かったとして、貴族界は縦の社会。二段飛ばしに出世するような真似は反感を買うだけなのです。

「ワタクシは楽をして生きたいのですわ。それこそフェリクス殿下がご存命であれば、真っ先に立候補したというのに……」

「あんたねぇ、婚約者が病気がちなら、ずっと看病しなきゃならないのよ?」

「そういえば、アナスタシア様はフェリクス殿下の最後を看取られたとか?」

 フェリクスの話になり、オリビアはそのような話題を口にする。

 その噂はどこから流れてるのかしらね。あの場所には王家の面々を除けば、私とエリカしかいなかったというのに。

「私の回復魔法で何とか延命できないかというのでね。だけど、無理だったわ。天が定めた命運は既に尽きていたからね」

「そうでしたか……。でも、アナスタシア様は割と王家の方々と親しくされているのですよね? 昔はとんでもない噂がありましたけれど……」

 オリビアは割と情報通のよう。

 まあでも、私の噂話は貴族社会を駆け巡ったと思いますので、知っていても不思議ではありません。

「オリビア、貴方知らないの?」

 妙な話を始めたオリビアに、イセリナは身体を乗り出して返す。

 私としては看過できない話を……。

「アナはルーク殿下が好きなのよ?」
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