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第十章 闇夜に咲く胡蝶蘭

申込書

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 一ヶ月が経過し、貴族院が始まっていました。

 どうしてか私は朝から髭に呼び出されています。話があるのなら、朝食の時にでも話してくれたら良かったのに。

「何の用?」

 不満げな顔をして聞く私に髭は薄い視線を向けています。

「お前はもう少し礼儀をだな……」

「別にいいじゃない? 私はこれから貴族院に行くのだけど……」

 子爵令嬢となってしまったし、私は遅刻とかしたくない。だから髭の話は手短にお願いしたいところなのよ。

「まったく……。それで要件はこれだ」

 言って髭は机の上に封書のようなものをバサッと置いています。

「手紙? 何これ?」

 まるで意味が分かりません。

 宛名は全て髭になっています。私と何の関係があるのか少しも理解できませんでした。

「全部、お前をダンスパートナーにしたいという申し込み書だ……」

 ざっと見ただけで十通以上あるのだけど?

 これが全部、夜会へのお誘いってこと?

「ちょっと、困るんだけど!?」

「知らん。儂のところに届いて迷惑している。さっさと決めろ」

 いや、別に受ける必要はないでしょ? 私は別に参加する意志がないし。

「とりあえず、もらっとくけど私は参加する気がないから、たぶんこれからも届くわよ?」

「一学年の夜会くらい受けておけ。婚約するわけでもないのだからな……」

 まあ、そうなんだけど、パートナーを引き受けると面倒なことになりそうでね。危機管理として受けたくないって話です。

 髭と問答していてもしかたないので、私は手紙を受け取るや貴族院へと向かう。遅刻だけはしないようにと。

 面倒事に巻き込まれるだなんて、今朝の段階では少しも考えていませんでした。
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