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第十一章 謀略と憎悪の大地
滞在の理由
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「それで長く滞在されるのですか? ここは正直に戦場といえる状態ですけれど?」
バカンスに来たような三人に対し、私は現状を報告している。
一方的な憎悪に満ちたエスフォレストの地。三人を守りながら戦うのは私としても避けたいところです。
「ルーク殿下が戻られるというのなら……」
「イセリナが戻るのなら……」
「ワタクシはアナの世話になろうと思いますの!」
最悪だわ……。
貴族院があるというのに、同級生の二人は少しも考えていないみたい。
私を困らせるためだけに、存在しているのかしらね。
「イセリナ、私は今や領主。やることが一杯あるのだから、そんなに世話を焼けないわ。一泊して帰ってくれない? 貴族院も始まっているし」
「嫌ですわ! ワタクシは公爵令嬢なので、出席しなくとも問題ありませんの。アナが帰るまでここにいるつもりですわ」
「アナ、そんなわけだから、よろしく頼む……」
「アナスタシア様、そういった事情ですのでよろしくお願いします」
本当に最悪だわ……。
正直に安全を保証できないというのに。
私だけならともかく、この三人に何かあれば領主である私の責任になるんじゃない?
「何があっても知りませんよ? 私は明らかにメルヴィス公爵に疎まれています。街には間者も多く潜り込んでいるのです。主要な間者は排除しましたけれど、安心できる状況ではありません。何しろ二百人もの傭兵を送りつけてきたばかりなのですから」
もう知っていると思うけど、私は現状を口にしています。
その名を濁すことなく明確に告げていました。
「アナ、王家は君を信頼している。加えてメルヴィス公爵が暗躍していることも知っているんだ。ただ証拠がない。俺たちがエスフォレストに滞在することで、何か分かるかもしれないだろ?」
「いや、私は一人なら戦えるんだって。全員を守るのが難しいってだけ。早く帰って欲しいわ」
傭兵を送り込んでくるのならまだしも、暗殺者が来たのならその限りじゃありません。
守り切れる保証はない。ずっと側にいてもらわなければ、私は守ることができないと思う。
「アナスタシア様、現状でどういった策が考えられますか? 正直な話、殿下は餌として最上級です。早めに動いてもらって、全てを解決した方が良いかと存じます」
「レグス、お前なぁ……」
悪くない話だけど、乗っかれる話ではありません。
万が一を考えると、愚策であるように感じます。
「もしも、イセリナやルーク殿下に何か起きた場合、恐らく私に罪を着せるつもりでしょう。街中には暗殺者が蠢いているでしょうし、既に殿下たちがクルセイドに入ったことは伝わっていると考えるべき」
早く帰ってくれないかな?
問題が山積しているのに、イセリナだけでなくルークまで来てしまうなんて。
「餌はイセリナだけで充分かと思いますわ」
とりあえず、イセリナなら問題はありません。
彼女が失われると確実にリセットされるのです。しかし、ルークが失われた場合はそのままの世界線が続くはず。
だとすれば、この問題の中心人物であるイセリナだけを残して帰ってもらうのがベストだと考えます。
「アナ、ワタクシ死にたくありませんわよ?」
「なら、帰ってよ。私は妥協案を口にしているだけなの。あんたの世話くらいはしてあげるんだから、満足してくれない?」
「アナ、俺は守ってもらう必要なんかないぞ?」
「貴方が良くても私が困るんです! いい加減に空気読めって言ってんですよ!」
明らかに機嫌が悪いような私にルークは頷いています。
彼は少し威圧するだけで言うことを聞いてくれるはず。
「アナスタシア様、流石にイセリナ様だけ残して帰るわけには……」
「レグス様、イセリナの扱いは慣れています。既に四年以上も面倒をみていますから。彼女を狙うというのなら、返り討ちにするだけ。証拠を必ずや見つけ出して見せます」
とりあえず早く帰ってください。
私の苦悩を分かってもらえたなら幸いですけれど。
「殿下、ここは引き下がりましょうか。アナスタシア様は近衛騎士団が束になっても敵わないご令嬢です。あの日から私は想像していました。いつの日か、この方が王国を背負って立つのではないかと……」
「あの日って、あれか?」
「ええ、その日です」
私を余所に懐古的な話が進む。
あの日と言われたら、あの日しか思い浮かびません。
「火竜二頭を相手に一歩も引かなかったアナスタシア様。私はあの日、王国の未来を支える人財になると疑いませんでした。あの頃の想像は今、明確な形となっています。アナスタシア様は強大な敵に対して一歩も引くつもりがなく、敢然と立ち向かっておられます。此度もきっと乗り越えてくれることでしょう。私があの日夢見たままの未来に、向かっておりますから」
レグス団長は小さく微笑み、私を見つめています。
「アナスタシア様が王国を救ってくれる……」
えっと、どういうことかな?
私は救世主になった覚えはありません。
女神から攻略対象を指定され、完落ちさせるという役目しかないのです。
大局的には世界を動かすのだから、救世主だと言えなくもない。でも、魔王を倒したり、世界を魔の手から解放するような行為を求められてはおりません。
「レグス様、私は別に勇者でも英雄でもありませんわ。信念に基づき動いているだけ。もしも、王国が私の信念に反しているのなら、敵対することもございます」
「それは承知しております。何しろ十二歳にして他国への亡命を実行されてしまうのですから。本当に落胆いたしましたが、現状は私が期待したままのお姿に成長されております」
何を言っても美化されそうね。
そういえば、この世界線はレグスルートが元となっています。いつからかフラグを立ててしまったのかもしれませんね。
とりあえず、即日に追い返すのも悪いので、一晩だけでもと三人を招き入れるのでした。
バカンスに来たような三人に対し、私は現状を報告している。
一方的な憎悪に満ちたエスフォレストの地。三人を守りながら戦うのは私としても避けたいところです。
「ルーク殿下が戻られるというのなら……」
「イセリナが戻るのなら……」
「ワタクシはアナの世話になろうと思いますの!」
最悪だわ……。
貴族院があるというのに、同級生の二人は少しも考えていないみたい。
私を困らせるためだけに、存在しているのかしらね。
「イセリナ、私は今や領主。やることが一杯あるのだから、そんなに世話を焼けないわ。一泊して帰ってくれない? 貴族院も始まっているし」
「嫌ですわ! ワタクシは公爵令嬢なので、出席しなくとも問題ありませんの。アナが帰るまでここにいるつもりですわ」
「アナ、そんなわけだから、よろしく頼む……」
「アナスタシア様、そういった事情ですのでよろしくお願いします」
本当に最悪だわ……。
正直に安全を保証できないというのに。
私だけならともかく、この三人に何かあれば領主である私の責任になるんじゃない?
「何があっても知りませんよ? 私は明らかにメルヴィス公爵に疎まれています。街には間者も多く潜り込んでいるのです。主要な間者は排除しましたけれど、安心できる状況ではありません。何しろ二百人もの傭兵を送りつけてきたばかりなのですから」
もう知っていると思うけど、私は現状を口にしています。
その名を濁すことなく明確に告げていました。
「アナ、王家は君を信頼している。加えてメルヴィス公爵が暗躍していることも知っているんだ。ただ証拠がない。俺たちがエスフォレストに滞在することで、何か分かるかもしれないだろ?」
「いや、私は一人なら戦えるんだって。全員を守るのが難しいってだけ。早く帰って欲しいわ」
傭兵を送り込んでくるのならまだしも、暗殺者が来たのならその限りじゃありません。
守り切れる保証はない。ずっと側にいてもらわなければ、私は守ることができないと思う。
「アナスタシア様、現状でどういった策が考えられますか? 正直な話、殿下は餌として最上級です。早めに動いてもらって、全てを解決した方が良いかと存じます」
「レグス、お前なぁ……」
悪くない話だけど、乗っかれる話ではありません。
万が一を考えると、愚策であるように感じます。
「もしも、イセリナやルーク殿下に何か起きた場合、恐らく私に罪を着せるつもりでしょう。街中には暗殺者が蠢いているでしょうし、既に殿下たちがクルセイドに入ったことは伝わっていると考えるべき」
早く帰ってくれないかな?
問題が山積しているのに、イセリナだけでなくルークまで来てしまうなんて。
「餌はイセリナだけで充分かと思いますわ」
とりあえず、イセリナなら問題はありません。
彼女が失われると確実にリセットされるのです。しかし、ルークが失われた場合はそのままの世界線が続くはず。
だとすれば、この問題の中心人物であるイセリナだけを残して帰ってもらうのがベストだと考えます。
「アナ、ワタクシ死にたくありませんわよ?」
「なら、帰ってよ。私は妥協案を口にしているだけなの。あんたの世話くらいはしてあげるんだから、満足してくれない?」
「アナ、俺は守ってもらう必要なんかないぞ?」
「貴方が良くても私が困るんです! いい加減に空気読めって言ってんですよ!」
明らかに機嫌が悪いような私にルークは頷いています。
彼は少し威圧するだけで言うことを聞いてくれるはず。
「アナスタシア様、流石にイセリナ様だけ残して帰るわけには……」
「レグス様、イセリナの扱いは慣れています。既に四年以上も面倒をみていますから。彼女を狙うというのなら、返り討ちにするだけ。証拠を必ずや見つけ出して見せます」
とりあえず早く帰ってください。
私の苦悩を分かってもらえたなら幸いですけれど。
「殿下、ここは引き下がりましょうか。アナスタシア様は近衛騎士団が束になっても敵わないご令嬢です。あの日から私は想像していました。いつの日か、この方が王国を背負って立つのではないかと……」
「あの日って、あれか?」
「ええ、その日です」
私を余所に懐古的な話が進む。
あの日と言われたら、あの日しか思い浮かびません。
「火竜二頭を相手に一歩も引かなかったアナスタシア様。私はあの日、王国の未来を支える人財になると疑いませんでした。あの頃の想像は今、明確な形となっています。アナスタシア様は強大な敵に対して一歩も引くつもりがなく、敢然と立ち向かっておられます。此度もきっと乗り越えてくれることでしょう。私があの日夢見たままの未来に、向かっておりますから」
レグス団長は小さく微笑み、私を見つめています。
「アナスタシア様が王国を救ってくれる……」
えっと、どういうことかな?
私は救世主になった覚えはありません。
女神から攻略対象を指定され、完落ちさせるという役目しかないのです。
大局的には世界を動かすのだから、救世主だと言えなくもない。でも、魔王を倒したり、世界を魔の手から解放するような行為を求められてはおりません。
「レグス様、私は別に勇者でも英雄でもありませんわ。信念に基づき動いているだけ。もしも、王国が私の信念に反しているのなら、敵対することもございます」
「それは承知しております。何しろ十二歳にして他国への亡命を実行されてしまうのですから。本当に落胆いたしましたが、現状は私が期待したままのお姿に成長されております」
何を言っても美化されそうね。
そういえば、この世界線はレグスルートが元となっています。いつからかフラグを立ててしまったのかもしれませんね。
とりあえず、即日に追い返すのも悪いので、一晩だけでもと三人を招き入れるのでした。
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