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第十二章 天恵
好機到来
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ルークとイセリナが目を覚ましたのは一時間が経過した頃でした。
さりとて、二人は衰弱しており、体力が回復するまではベッドで大人しくしてもらわねばなりません。
「アナスタシア様、本当にありがとうございました。ルーク殿下は王国に必要なお方。何度感謝を口にしようと、足りるものではございません。今回の経緯は私からガゼル王へ説明させてもらいます」
今回はマッチポンプではないし、素直に感謝されておきましょうか。
一件落着かと思いきや、セバスチャンが慌てた様子で私を呼びに来ています。
「アナスタシア様、自警団の方々が屋敷を訪問されております」
あら? 自警団が何の用かしら?
自警団のトップは既に失われていましたから、私のところに来たのだと思うけれど。
セバスチャンに連れられ、私は屋敷の入り口へと。
別に問題はなかったというのに、レグス団長は剣を抜いて、私を護衛するつもりみたい。
自警団の方はなぜか荷車を引いて現れていました。
荷台には横たわる人。どうやら、私に治療を願いに来たのかもしれないわね。
「どうしました?」
「姫様、この旅人が急に倒れて意識が戻らないのです。教会へ運びましたが、原因不明だそうで……」
教会でも男性が昏倒した理由は分からなかったみたい。
まあ、ど田舎の教会に司祭より上の人員が配置されているはずもないし、水や風属性の回復魔法では重病患者の治療なんて無理だからね。
(あれ?)
男性の首元に見慣れた痣が見えました。
腕を調べても同じ。これは明らかに先ほどまでの懸念であった呪術による症状でした。
(やはりクルセイドに潜んだままだったのね……)
タイミング良く倒れた旅人。
探す手間もなく運ばれてきた男性はメルヴィス公爵の陰に違いない。反呪を受けたせいで意識を失ったのだと思われます。
「男性は引き受けましょう。あとのことはお任せください」
私は自警団の方に銀貨を一枚手渡し、街へ戻るようにと伝えます。
ここから先の話を彼が知る必要はないのですから。
刺客と思しき者を部屋へと運び込んだあと、私は思案していました。
魂同士の接続を可視化できるようになった現在、この男とメルヴィス公爵との接続も分かるのではと。
そうすれば、同じように呪いをかけられるのではないかって。
『アナスタシア様、少しよろしいですか?』
不意に脳裏へと念話が届きました。そいや、魔道具を持たされていたんだっけ。
コンラッド以外で念話が来るのは初めてなので、流石に驚いてしまいました。
念話の相手は私に魔道具を持たせたモルディン大臣に他なりません。
『大丈夫です。どうされましたか?』
『ええ実は、王都で妙な噂が流れているのです。エスフォレストへ視察に行かれたルーク殿下が瀕死の状態にあると。それもアナスタシア様の失態が原因という噂なのです』
えええ!? もうそんな噂が流れてるっての?
少しばかり考え込む。視察の期限は明日までだったはず。
なのに王都にはルークの容体を危ぶむ噂が流れ、私は犯人に仕立て上げられているようです。
(あの爺さん、少しばかり焦っているみたいね……)
先んじて噂を流すことで、騒ぎを大きくする狙いがあるのでしょう。
でも、流石に勇み足すぎるわ。もし仮に動くのであればルークの死を確認してからにするべきだったね。
『北部のお爺様はどうにも私を陥れたいようですね。ルーク殿下が呪いを受け、伏せっていたのは事実ですけれど、既に解呪しておりますし、体調も良くなっております』
『それは良かった。予定通り、明日戻られるのでしょうか?』
モルディン大臣は一刻も早く単なる噂であると証明したいらしい。
だけど、現状でルークたちは割と衰弱していますし、私としては許可できません。
『いえ、一週間近く昏睡していましたので、あと数日は動くべきではありませんわ。しっかりと栄養を取って、体力強化に努めていただきます』
『それならば、貴方様の嫌疑が晴らせませんよ!? 王城に戻られるまで貴方様は疑われたままです! 査問会が開かれる予定まであるのですよ!?』
知ったこったありませんね。
噂を流す方もどうかと思いますが、予定期間を過ぎていない時点で信じてしまう方もどうなんでしょう。
『好きに騒げば良いと思いますわ。何の問題もございません』
『どうしてそれほど落ち着いていらっしゃるのです!?』
年を取れば、心配性になるのかしら。
黙っていようと考えていたのだけど、モルディン大臣には伝えておくべきかもね。
『既に解呪したとお伝えしたはず。モルディン様は呪術に関しての知識がおありですか?』
まずは呪術に関する知識があるのかどうか。話はそこからです。
『ええまあ。魔道具を用いるか、先天スキルに呪術というものがあると知っております』
『解呪の方法については?』
『え? まあそうですね。解呪するには呪術の元となっている魔道具に介入するか、若しくは術者自身が呪いを解くことです』
そこまで知っていて何を心配していたのかしらね?
私は解呪した事実を伝え終えていますのに。
『まさか術者を捕らえたのですか!?』
念話で良かったと思う。大声で口走ってしまうと悟られちゃうじゃないの。
『まあ、順序は逆ですがね。私はルーク殿下の呪いを反呪させました。術者に呪いをそのままお返ししたのですわ。つい先ほど旅人が突如として倒れたと自警団が子爵邸まで運び込んでくれたのです』
ここまで言えば分かってもらえるでしょう。
どういう手順で現状に導かれているのか。
『いや、反呪ですか!? そんなことありえません!』
『実際に倒れた旅人は呪術によって接続されていると確認しました。ルーク殿下とイセリナを呪った術者であるのは間違いありませんの』
『イセリナ様までもが呪われたのですか!? その者を至急、王都まで運んでください。尋問し、メルヴィス公爵に問い詰めたいと考えます!』
焦っては駄目よ。どうせ何も分からないわ。
陰は死ぬまで陰なんだもの。陽の当たる場所にでることは死を意味する。裏切り行為は認められていないのですから。
『無駄ですわ。明らかにメルヴィス公爵の陰ですけれど、尻尾を出すほど愚かな刺客を送ってくるはずもありませんし』
『いやしかし、ルーク殿下が呪われたのですよ!?』
『落ち着いてください。今は好きに動けば良いと思いますわ。殿下が王都へ戻れば、噂もなくなります。無事は保証しますし、私にも考えがございます』
無駄なことに術者を使うつもりはありません。私は私が考える最善を追い求めるだけだわ。
どうせ何も口にできないのですから、捕らえた術者は有意義に使うべき。
『この術者をメルヴィス公爵領へと運び入れる予定ですの……』
流石に絶句しているのでしょうか。
モルディン大臣は何も返答してこない。
『私がどれだけできるのかを彼の目の前で披露してあげます。つきましてはレグス様をお借りしてもよろしいですか? 流石に私だけでは面会できそうにありませんから』
黙り込むモルディン大臣に私は続けました。
この先の未来。きっとメルヴィス公爵は前世同様に仕掛けてくるはずです。
ならば私がどれだけの強敵であるのか確認してもらいましょう。
『貴方様は何てことを……?』
『あら? 大臣様が仰ったことではありませんか?』
どこまでも攻めていく。守りに入るのなんて我慢ならないもの。
モルディン大臣に評価されたままの言葉を私は返しています。
私は強い女なのでしょう?――と。
さりとて、二人は衰弱しており、体力が回復するまではベッドで大人しくしてもらわねばなりません。
「アナスタシア様、本当にありがとうございました。ルーク殿下は王国に必要なお方。何度感謝を口にしようと、足りるものではございません。今回の経緯は私からガゼル王へ説明させてもらいます」
今回はマッチポンプではないし、素直に感謝されておきましょうか。
一件落着かと思いきや、セバスチャンが慌てた様子で私を呼びに来ています。
「アナスタシア様、自警団の方々が屋敷を訪問されております」
あら? 自警団が何の用かしら?
自警団のトップは既に失われていましたから、私のところに来たのだと思うけれど。
セバスチャンに連れられ、私は屋敷の入り口へと。
別に問題はなかったというのに、レグス団長は剣を抜いて、私を護衛するつもりみたい。
自警団の方はなぜか荷車を引いて現れていました。
荷台には横たわる人。どうやら、私に治療を願いに来たのかもしれないわね。
「どうしました?」
「姫様、この旅人が急に倒れて意識が戻らないのです。教会へ運びましたが、原因不明だそうで……」
教会でも男性が昏倒した理由は分からなかったみたい。
まあ、ど田舎の教会に司祭より上の人員が配置されているはずもないし、水や風属性の回復魔法では重病患者の治療なんて無理だからね。
(あれ?)
男性の首元に見慣れた痣が見えました。
腕を調べても同じ。これは明らかに先ほどまでの懸念であった呪術による症状でした。
(やはりクルセイドに潜んだままだったのね……)
タイミング良く倒れた旅人。
探す手間もなく運ばれてきた男性はメルヴィス公爵の陰に違いない。反呪を受けたせいで意識を失ったのだと思われます。
「男性は引き受けましょう。あとのことはお任せください」
私は自警団の方に銀貨を一枚手渡し、街へ戻るようにと伝えます。
ここから先の話を彼が知る必要はないのですから。
刺客と思しき者を部屋へと運び込んだあと、私は思案していました。
魂同士の接続を可視化できるようになった現在、この男とメルヴィス公爵との接続も分かるのではと。
そうすれば、同じように呪いをかけられるのではないかって。
『アナスタシア様、少しよろしいですか?』
不意に脳裏へと念話が届きました。そいや、魔道具を持たされていたんだっけ。
コンラッド以外で念話が来るのは初めてなので、流石に驚いてしまいました。
念話の相手は私に魔道具を持たせたモルディン大臣に他なりません。
『大丈夫です。どうされましたか?』
『ええ実は、王都で妙な噂が流れているのです。エスフォレストへ視察に行かれたルーク殿下が瀕死の状態にあると。それもアナスタシア様の失態が原因という噂なのです』
えええ!? もうそんな噂が流れてるっての?
少しばかり考え込む。視察の期限は明日までだったはず。
なのに王都にはルークの容体を危ぶむ噂が流れ、私は犯人に仕立て上げられているようです。
(あの爺さん、少しばかり焦っているみたいね……)
先んじて噂を流すことで、騒ぎを大きくする狙いがあるのでしょう。
でも、流石に勇み足すぎるわ。もし仮に動くのであればルークの死を確認してからにするべきだったね。
『北部のお爺様はどうにも私を陥れたいようですね。ルーク殿下が呪いを受け、伏せっていたのは事実ですけれど、既に解呪しておりますし、体調も良くなっております』
『それは良かった。予定通り、明日戻られるのでしょうか?』
モルディン大臣は一刻も早く単なる噂であると証明したいらしい。
だけど、現状でルークたちは割と衰弱していますし、私としては許可できません。
『いえ、一週間近く昏睡していましたので、あと数日は動くべきではありませんわ。しっかりと栄養を取って、体力強化に努めていただきます』
『それならば、貴方様の嫌疑が晴らせませんよ!? 王城に戻られるまで貴方様は疑われたままです! 査問会が開かれる予定まであるのですよ!?』
知ったこったありませんね。
噂を流す方もどうかと思いますが、予定期間を過ぎていない時点で信じてしまう方もどうなんでしょう。
『好きに騒げば良いと思いますわ。何の問題もございません』
『どうしてそれほど落ち着いていらっしゃるのです!?』
年を取れば、心配性になるのかしら。
黙っていようと考えていたのだけど、モルディン大臣には伝えておくべきかもね。
『既に解呪したとお伝えしたはず。モルディン様は呪術に関しての知識がおありですか?』
まずは呪術に関する知識があるのかどうか。話はそこからです。
『ええまあ。魔道具を用いるか、先天スキルに呪術というものがあると知っております』
『解呪の方法については?』
『え? まあそうですね。解呪するには呪術の元となっている魔道具に介入するか、若しくは術者自身が呪いを解くことです』
そこまで知っていて何を心配していたのかしらね?
私は解呪した事実を伝え終えていますのに。
『まさか術者を捕らえたのですか!?』
念話で良かったと思う。大声で口走ってしまうと悟られちゃうじゃないの。
『まあ、順序は逆ですがね。私はルーク殿下の呪いを反呪させました。術者に呪いをそのままお返ししたのですわ。つい先ほど旅人が突如として倒れたと自警団が子爵邸まで運び込んでくれたのです』
ここまで言えば分かってもらえるでしょう。
どういう手順で現状に導かれているのか。
『いや、反呪ですか!? そんなことありえません!』
『実際に倒れた旅人は呪術によって接続されていると確認しました。ルーク殿下とイセリナを呪った術者であるのは間違いありませんの』
『イセリナ様までもが呪われたのですか!? その者を至急、王都まで運んでください。尋問し、メルヴィス公爵に問い詰めたいと考えます!』
焦っては駄目よ。どうせ何も分からないわ。
陰は死ぬまで陰なんだもの。陽の当たる場所にでることは死を意味する。裏切り行為は認められていないのですから。
『無駄ですわ。明らかにメルヴィス公爵の陰ですけれど、尻尾を出すほど愚かな刺客を送ってくるはずもありませんし』
『いやしかし、ルーク殿下が呪われたのですよ!?』
『落ち着いてください。今は好きに動けば良いと思いますわ。殿下が王都へ戻れば、噂もなくなります。無事は保証しますし、私にも考えがございます』
無駄なことに術者を使うつもりはありません。私は私が考える最善を追い求めるだけだわ。
どうせ何も口にできないのですから、捕らえた術者は有意義に使うべき。
『この術者をメルヴィス公爵領へと運び入れる予定ですの……』
流石に絶句しているのでしょうか。
モルディン大臣は何も返答してこない。
『私がどれだけできるのかを彼の目の前で披露してあげます。つきましてはレグス様をお借りしてもよろしいですか? 流石に私だけでは面会できそうにありませんから』
黙り込むモルディン大臣に私は続けました。
この先の未来。きっとメルヴィス公爵は前世同様に仕掛けてくるはずです。
ならば私がどれだけの強敵であるのか確認してもらいましょう。
『貴方様は何てことを……?』
『あら? 大臣様が仰ったことではありませんか?』
どこまでも攻めていく。守りに入るのなんて我慢ならないもの。
モルディン大臣に評価されたままの言葉を私は返しています。
私は強い女なのでしょう?――と。
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