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第十三章 巨星に挑む
道中
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私がジロリとモルディン大臣に視線を向けると、彼は額の汗を拭いながら答えています。
「いえ、とりあえず無罪にできる自信はあったのですがね。他に証拠となるものをお持ちでないかと連絡を取ったのです。するとアナスタシア様じゃなく従者の方が出られまして。聞けばランカスタ公爵の陰をしている方がいるというので……」
「最後まで黙っているとかどういうつもりかしらね?」
「少しずつ追い詰めるつもりでしたからね。アナスタシア様にも全力で反論してもらうには手の内を隠そうと考えた次第です」
ま、結果が良ければってやつかな。
私としては死に戻りも覚悟していたのだけど、アッサリと解決したのはやはり裏でモルディン大臣が動いてくれたからみたい。
前世でも彼をもっと味方につけておくべきだったのかもしれません。
「まあでも、ドルトンってコンラッドに焚き付けられただけで、兵を起こしたの?」
「あの坊ちゃんはシャルロット殿下に入れ込んでおられますからな。姫を倒せば手に入ると妄想されておられます」
明らかに他人事ね。絶対にコンラッドは楽しんでいるわ。
戦闘狂の彼は私が血まみれになって戦う姿を見たいだけなのよ。
「しかし、メルヴィス公爵はもう逃げ場がないだろ? ドルトンの件をどう言い逃れするのか……」
ルークが心配している。
誰の行く末を案じているのか分かりませんけれど、攻め込まれた私が如何なる行動をしようと責められる筋合いはありません。
従って、無理矢理に話を改変しようするだろうご老人の行動について危惧しているのでしょう。
「もうメルヴィス公爵は終わりよ。何を言っても無駄。ルークも先ほどの決議を見たでしょ? あのご老人の利用価値や求心力は失われたの。今日の欠席者がどう動くのか分からないけれど、全員がメルヴィス公爵に付いたとして、ランカスタ公爵が有利よ。どのような正論であっても可決されないわ」
査問会の出席者のうち、否決したのは一人だけです。
明確にメルヴィス公爵と決別した人たちが今さらランカスタ公爵家を裏切るはずもありません。
従ってどうあっても査問会はランカスタ公爵家側が有利です。
ただ公爵家の廃爵議案は王宮貴族たちまで参加しますので、票の取り合いは続くかと思われます。
「そうだといいな。俺はアナに迷惑をかけすぎている。情けないよ……」
「気にしないで。今回はルークのせいじゃないもの。メルヴィス公爵が全ての元凶よ」
まだ完全解決には至っていない。だけど、終わらせておかねばなりません。
最低でも妙な動きができないくらいに権力をそぎ落としておかねばいけないのよ。
「そういえば、アナスタシア様はルーク殿下を呼び捨てにされているのですね?」
え? そういやモルディン大臣は知らなかったんだわ。
彼の指摘に私はルークと視線を合わす。
「ああ、頻繁に敬称が付いていないな。使い分けているのかと思った……」
頭を抱えるしかありません。
もっと良い言い訳を口にしなさいよ。今もルークはイセリナの婚約者だというのに。
「何だか一緒にお酒を呑んでからおかしいのですわ! オホホ!」
「別に俺は構わないけどな。昔のように接してくれると嬉しい」
せっかく誤魔化そうとしたのに、溜め息しかでないわね。
ま、ルークの気持ちは分かってるつもりだし、私だって彼しか見ていない。
だけど、彼には婚約者がいて、思うようには進まないの。
「何を間違ったのかしらね……」
ふと漏らしてしまう。
私は何度も世界線をやり直したいと思った。だけど、アマンダはそれを許してくれない。
あまつさえアマンダは私が間違っていないとも言うのよ。一体私にどうしろっていうの?
「アナは間違ってないよ。間違っている者がいるとすれば、君の周囲を取り囲む者たちだ。俺を含めた大多数。君の信念を理解しない者たちが間違っている」
「過大評価だわ。私はいつも逃げていただけよ。サルバディール皇国へ行ったことも、貴方の想いからも……」
私の返答に皆が黙り込む。
少し言い過ぎたかしら? 踏み込みすぎたのかもしれない。
「俺の方が間違っていたよ……」
力なくルークが言った。
私としては受け入れ難い話なんだけど、彼としては過ちであったと認めるしかないようです。
「この先に俺が望む未来はあるのかな……」
しおらしく話すルークに、私は返事ができませんでした。
現状を招いたのは私のせいなんです。
天界で受けた使命を遂げようと世界線を動かした結果。ルークは悪くありません。全て私が仕組んだ結末なのですから。
「他には何もいらないのに……」
濁された話に苦々しい顔を私は浮かべています。
私だって同じよ。他には何も欲しくない。
手に入れたいのは一つだけだもの。
溢れ出す貴方の愛で溺れたいだけ――。
「いえ、とりあえず無罪にできる自信はあったのですがね。他に証拠となるものをお持ちでないかと連絡を取ったのです。するとアナスタシア様じゃなく従者の方が出られまして。聞けばランカスタ公爵の陰をしている方がいるというので……」
「最後まで黙っているとかどういうつもりかしらね?」
「少しずつ追い詰めるつもりでしたからね。アナスタシア様にも全力で反論してもらうには手の内を隠そうと考えた次第です」
ま、結果が良ければってやつかな。
私としては死に戻りも覚悟していたのだけど、アッサリと解決したのはやはり裏でモルディン大臣が動いてくれたからみたい。
前世でも彼をもっと味方につけておくべきだったのかもしれません。
「まあでも、ドルトンってコンラッドに焚き付けられただけで、兵を起こしたの?」
「あの坊ちゃんはシャルロット殿下に入れ込んでおられますからな。姫を倒せば手に入ると妄想されておられます」
明らかに他人事ね。絶対にコンラッドは楽しんでいるわ。
戦闘狂の彼は私が血まみれになって戦う姿を見たいだけなのよ。
「しかし、メルヴィス公爵はもう逃げ場がないだろ? ドルトンの件をどう言い逃れするのか……」
ルークが心配している。
誰の行く末を案じているのか分かりませんけれど、攻め込まれた私が如何なる行動をしようと責められる筋合いはありません。
従って、無理矢理に話を改変しようするだろうご老人の行動について危惧しているのでしょう。
「もうメルヴィス公爵は終わりよ。何を言っても無駄。ルークも先ほどの決議を見たでしょ? あのご老人の利用価値や求心力は失われたの。今日の欠席者がどう動くのか分からないけれど、全員がメルヴィス公爵に付いたとして、ランカスタ公爵が有利よ。どのような正論であっても可決されないわ」
査問会の出席者のうち、否決したのは一人だけです。
明確にメルヴィス公爵と決別した人たちが今さらランカスタ公爵家を裏切るはずもありません。
従ってどうあっても査問会はランカスタ公爵家側が有利です。
ただ公爵家の廃爵議案は王宮貴族たちまで参加しますので、票の取り合いは続くかと思われます。
「そうだといいな。俺はアナに迷惑をかけすぎている。情けないよ……」
「気にしないで。今回はルークのせいじゃないもの。メルヴィス公爵が全ての元凶よ」
まだ完全解決には至っていない。だけど、終わらせておかねばなりません。
最低でも妙な動きができないくらいに権力をそぎ落としておかねばいけないのよ。
「そういえば、アナスタシア様はルーク殿下を呼び捨てにされているのですね?」
え? そういやモルディン大臣は知らなかったんだわ。
彼の指摘に私はルークと視線を合わす。
「ああ、頻繁に敬称が付いていないな。使い分けているのかと思った……」
頭を抱えるしかありません。
もっと良い言い訳を口にしなさいよ。今もルークはイセリナの婚約者だというのに。
「何だか一緒にお酒を呑んでからおかしいのですわ! オホホ!」
「別に俺は構わないけどな。昔のように接してくれると嬉しい」
せっかく誤魔化そうとしたのに、溜め息しかでないわね。
ま、ルークの気持ちは分かってるつもりだし、私だって彼しか見ていない。
だけど、彼には婚約者がいて、思うようには進まないの。
「何を間違ったのかしらね……」
ふと漏らしてしまう。
私は何度も世界線をやり直したいと思った。だけど、アマンダはそれを許してくれない。
あまつさえアマンダは私が間違っていないとも言うのよ。一体私にどうしろっていうの?
「アナは間違ってないよ。間違っている者がいるとすれば、君の周囲を取り囲む者たちだ。俺を含めた大多数。君の信念を理解しない者たちが間違っている」
「過大評価だわ。私はいつも逃げていただけよ。サルバディール皇国へ行ったことも、貴方の想いからも……」
私の返答に皆が黙り込む。
少し言い過ぎたかしら? 踏み込みすぎたのかもしれない。
「俺の方が間違っていたよ……」
力なくルークが言った。
私としては受け入れ難い話なんだけど、彼としては過ちであったと認めるしかないようです。
「この先に俺が望む未来はあるのかな……」
しおらしく話すルークに、私は返事ができませんでした。
現状を招いたのは私のせいなんです。
天界で受けた使命を遂げようと世界線を動かした結果。ルークは悪くありません。全て私が仕組んだ結末なのですから。
「他には何もいらないのに……」
濁された話に苦々しい顔を私は浮かべています。
私だって同じよ。他には何も欲しくない。
手に入れたいのは一つだけだもの。
溢れ出す貴方の愛で溺れたいだけ――。
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