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第十四章 迫る闇の中で

大切な人だから

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「とにかくアナは功を成してくれ。それしか俺は……」

 気持ちは分かるけど、問題はそれだけじゃないでしょ?

「婚約者がいる方の台詞とは思えませんね……」

 今もまだイセリナとルークは婚約者を続けています。

 私が功を成したからといって、即決できる話ではありません。

「その件については着地点を考えてある。モルディンの提案は王家が国務大臣に指名することを引き換えにして、身を引いてもらうことなんだ。イセリナには悪いと思っているけど」

 出来レースか……。

 イセリナが可哀相。あの子は私と一緒だもの。ぐうたらなのは意味不明だけど、きっと私に負けたくないはずよ。

「イセリナはどうなるの? 彼女の処遇こそ私が求めるものよ」

 イセリナがただ婚約破棄されるだけならば、私は喜べない。

 望みもしない婚約を受け入れ、必要なくなった時点で一方的に捨てられてしまうなんて。

「それも考えてある。セシルがイセリナを婚約者にしても良いと話している。それは既に家族で話し合ったことだ……」

 嘘でしょ? ルークってば婚約者がいるというのに、私の話を家族としたっていうの?

 しかもセシルにイセリナを押し付けてしまうつもり?

「あり得ないわ。セシル殿下に押し付けたの?」

「押し付けたとは言葉が悪いな。婚約破棄の話をしたとき、セシルから言ってきたことだ。あいつも相応しい相手がいないんだ。イセリナのこと任せられると思う」

 私は今朝、エリカをけしかけたところなのに?

 そんなの無理よ。私が割り込むことで、二人が弾き出されてしまうなんて。

「駄目よ……そんなの……」

 現状の婚約がイセリナの重荷となっているのは知っている。

 だけど、イセリナとセシルが結ばれたのなら、エリカの夢は叶わない。

「エリカはどうなるの? 私は親友なのよ……」

 聞くしかない。恐らく、その案はイセリナにとっては最良だと思える。

 だけど、清浄なる光であるエリカは蚊帳の外になってしまう。

「エリカ? どうして彼女が婚約話に出てくる?」

「あの子の夢なのよ。お姫様になりたいのだって……」

 ルークは息を呑んでいます。

 この期に及んで私が友達の夢を叶えたいと知って。

「アナ、全て丸く収めるなんて無理だ。エリカはとても素晴らしい女性だけど、妾となるくらいしかできないだろう。しかし、妾だなんて立場をアウローラ聖教会が認めるはずもない」

 光の聖女はアウローラ聖教会の所属なのです。

 エリカは自身の夢よりも、教会の意向を聞かねばなりません。

 ルークが私を選ぶのなら、セシルしかなかったというのに、セシルもまた無難にイセリナを選ぶみたい。

「ねぇ、もしも私が子爵のままであったなら、ルークはエリカを選んで欲しい」

 どうしてか私はそんなことを口にしていました。

 天界の意志に反することであり、自分自身にも嘘をつく話でありましたけれど、私はエリカがどうあっても報われないなんて我慢ならなかったのです。

「エリカを? どうしてまた……」

「エリカにもチャンスを。私が成り上がれないのなら、彼女の出番よ。この機会を私が逃すのであれば、そもそも縁がなかったのだと思う」

「いや、アナ!? 俺はどうしても……」

「駄目よ。もう決めた。何も成せなかった私が幸せにはなれない。エリカはずっと努力しているのよ。今日だってハイヒールが唱えられるようになったって喜んでいたわ。あの純粋な笑顔は王家をも照らすことでしょう」

 参戦して勝ち取れなかったのなら、私だって腹を括る。

 私自身が成功するかどうかなのよ。

 エリカの背中を押したのは私だし、結果が駄目だったら潔く退くだけ。エリカの夢を奪う権利なんて私にはないの。

 しかしながら、ルークは引き下がりません。

 同意してくれたのなら、私も楽だというのに。

「アナにとって俺は大切な人じゃないのか!?」
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